第24話 新しい始まり

「さ、そろそろ戻りましょ」


「うん」

そう返事をしたあとにあることに気がつく。


「戻ったらナナミはまたあの冷たいナナミに……戻る……よね」

躊躇いがちに放ったその言葉にナナミはアイスブルーの瞳をすこし泳がせながらも

「ええ、そうね」

という。


「そんなあ……」


答えは予想していたけれど改めて聞くと思わずうなだれてしまう。


「でもこうして二人で会えるときがまた来たのならば」


「……それっていつ」


「それは……わからないけれど。でも、信じていればすぐ来るわ。それにね、リィン」


どこか諭すような口調で不意にそういわれてゆっくり顔をあげる


「私、あの日からあなたのことずっと心配していたのよ」

あの日。そんな曖昧な言葉がなにを指しているものかなんてすぐにわかった。


「それなのにあなたは私たちの誰とも会おうともしないし避けているようだし終いにはあの活発で元気で誰にも止められないようなあなたが引きこもってしまったんだもの。……あなた随分と私を避けていたわよね?」

ナナミの口ぶりが磨きをかけて滑らかになっていく。


うわ、これ長いやつ、と身構えつつはい……と返事をする。


「えーと、だからそれは……」


「あんな何年間も無視されて、その間私たちがあなたのことを忘れた日が1日でもあると思ってるのかしら。あるのならいわせてもらうけど」

もう口を挟む隙間もない。

「私たちみんな何年もあなたのこと心配して考えていたのよ。そして、五年ぶりに再会できたあなたが昔となんら変わらなくてしかも信じられないような真実を告げた。しかもそれをずっと一人で抱え込んでたといって」


「……ほんと、身勝手なやつだよね」


「なぜ?私はそれをすごくすごいことだと思ったわ。みんなもきっとそう。一人でかかえこむなんてほんと許せないけれどすごいなって思うのよ」


「……あ、ありがとう」


「どういたしまして。ところで、リィン、何か言いたいことがあったようだけど大丈夫?」

そういうナナミに思い切り苦笑いになる。

この感じ、懐かしい。

ナナミお得意のあれだ。

私が駄々をこねたときなんかにこちらが気兼ねするような話をしてもう一度それでなにかいったの?っていってくるあれ。

私はぐうの音もでずに黙り込んだ。

実際、私は何年もナナミたちを無視していて、それが次二人で会える時まで喋れないだけ、なんてとても簡単なことに思える。


「大丈夫です……」


「そう。じゃあ、いきましょ」

そういうと私の背に手を当てずんずんと歩き出す。


私は少し呆れたような顔をしながらもナナミとこうして二人で歩くことすら久しぶりで胸の奥がとてもあたたかかった。


本当は話したい。

けれど、なんだか怖くて。

自分が本当に見て感じて聞いたことをなにも信じてくれなくて、全然知らないことばかりいってきて、そんなみんなのことが一緒にいたいのになんだ怖くなってしまって私はずっと避けていた。


けれどこうやって、また一緒に歩けてる。


初めの一歩めーー。

そんな言葉が頭に思い浮かぶ。

そうだよ。

キラは私のことを避けてるし、トウヤはすぐいなくなってしまったし、ユシルもユシルでどこかへいってしまったけれど、それでもきっと……









会場に着くとナナミは先ほどまで昔みたいに仲良くはなしてたのなんて丸っ切り嘘だったようにスーッと私から離れて先ほどの男の人たちの元へ行く。

……わかってた……わかってたさ、そうなると。

けど現実的にこうやられるとなんとも胸が痛い。

「おいお前、うまくいったのか?」

そんな声のする方を向けば、ロイくんがいた。


「う〜ん。まあ、あれを成功と言えるなら?」


「なんだよそれ」

そういって呆れた表情をしてみせたロイだけど次の瞬間には私の手首をひっ掴みどこかへ向かい歩き出していた。


いや、どこか、というか、キラのところへ……


「ちょっと!またわたしを男の人の輪の中に突っ込ませる気?さっきはうまくいったけどね、そう毎回毎回うまくいくわけないでしょ!」


そう、そうなのだ。

ナナミは話してみたら実は私のことみんなのこと昔のこと覚えていたけれど、キラはきっと覚えてる上で私のこと……

不意にロイくんが立ち止まる。


「な、なに?」


「けど今しかチャンスはない。」

ハッキリとそう言われて、なんだか胸の奥がギュッとキツくなった。


わかっている。

わかっているんだけれど、怖い。

私は咄嗟にロイの手を振り払い

「あっ!トウヤがいた!トウヤだーっ!トウヤーー!!」

なんていって駆け出した。


ロイくんの制止の声も無視して、人混みの中に飛び込むと「すいません」を繰り返しながら先に進む。


人混みを抜けると近くにあったクリスタルのストーンでてきた支柱の影に行く。


ここなら、大丈夫。


そんなことを思っている自分に、なんだか自分のことながら笑ってしまう。

ここなら大丈夫ってなにがよ……



でも、私……


大好きだったんだ。

「リィン」って慕ってくれるキラのこと。

みんなのこと。


だからすごく、苦しい。


わかってたことのはずなのに。




ふとステージの方を見るとうちの王様がいつもみたいに穏やかな口ぶりで何かを話していた。

人々の喧騒と、かつての友の声が頭の中でワンワンなってる私にはその声は聞こえてきそうにもない。


もう終わりなのかなあ。


終わりなんだとしたら、私、これからどうすればいいだろう。


本当ならここで幼なじみ皆んなと再会して元に戻れるようなにかしてそしてみんなで楽しくこっちの世界で暮らしたいと思っていたのに……



なんて思っていたその時だった。


「……っ?!」

唐突に後ろから口を塞がれ腕を掴まれた。

「……話がしたい。なにも言わずについてこい」

なにも言わずにもなにも言えないんですけどっ。

っていうか、誰、この人ーー?!

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