第27話 不思議な安心できる人
私は抵抗もなにもできないまま、男の人のなすがまま、外にーー男の人が手をかざした途端に壁が消えたの。ほんとびっくりーー連れてかれた。
男の人は紺色のローブを目深にかぶっていて顔は確認できないけどとりあえず私よりずっと背が高くて少し細めなんだけどガッチリしてる。体格だけ見ればナナミの好きそうなタイプ。
ってそんなこと考えてる場合じゃないよね。
どうしよう。
身代金とか要求するために?
ナナミとキラがあんなに貴族やら王族やらの男の人に群がられてる中、私は素性もわからない人に身代金目的に攫われるとか……
なんだか自嘲的な笑みが漏れてしまう。
「なにを笑っている」
外に出て少しだけ歩くと男の人がこちらに向き合ってそういう。
あたりはシーンとしていて先ほどにも増して真っ暗で、満月の光だけがその人を照らしてる。
舞踏会の喧騒が嘘みたいなここでは少し言葉を発するだけでそれがとても響く。
「いえ……ただ、わたし一人身代金目的とか虚しいって思ってました」
正直にそういう。伝わらないだろうけど。
男の人からはなんの返事もない。
バカにされてるのか。それともただ単に答える気がないのか……。
見た感じただ無口な人にも見えるんだけど、ここに連れ出される前に話がしたいとかなんとかいってたはず。無視か……
「あの……さっきの。壁消えたのって、ここの仕様ですかね?それともあなたが?だとしたら魔法ですか?」
耳に痛いくらいの沈黙を埋めるようにそんなことを訪ねてから一人で勝手にハッとする。
そうだ。ここじゃ、王様たち以外魔法使えないんだっけ、と。
もし仮にこの人が魔法でやったのならこの人は王様?でも、まさか……
そんな私の思いを知ってか知らずか、相変わらず黙っているその人。
何もわからない状況であるけれど、何故か不思議と安心する。
まるで知り合いと向き合っているみたいな感覚すらする。
「あの〜、聞いてますか?」
「……。顔は似てない。性格も似てない。……か。」
「……えーと」
なにをいってるんだろう、この人は。
「……申し遅れた。私は……イテイルの者だ。そして先のあなたの質問だが、それは後者が正解だ」
「後者……」
後者になにをいっただろう、私。
ああ、なんだか本当に虚しくなってくる。
それをみかねたような少し呆れたような声音で
「……私が魔法であれをした、ということだ」
という。
「魔法で?……えっ?!ほんとに?」
自分で聞いといて驚いてしまう。
自分自身魔法の素質があると言われても全くうまく使いこなせてないからあんなにうまく魔法を扱うことができるんだ、しかも壁消すなんてこともできるんだ……ほんとになんでもありね、なんてことを思う。
そんなことばかり思っていたからその時の私は気づかなかった。忘れていた。
イテイルの者で、そして魔法をつかえる者。
それがなにを意味するかーー。
「君は私たちの……幼馴染になんだかよく似ていてね。」
「はあ……」
私たちの?
「けれど人違いのようだ。まあ当たり前か。こんなに違うんだ」
後半はぼやくようにそういうその人。
「え?じゃあ、あなたは私を幼馴染と勘違いして外に連れ出したわけですか?」
「まあそうなるね」
「なんで、わざわざ?……」
若干呆れた口調になってしまったが仕方ないと思う。
身代金目的かとか人質にされたのかとか色々心配した結果がこれなんだもの。
「中ではダメだったんです?わざわざこんな」
段々母親のような口調になってくる。
するとその人は初めてクスリと笑って
「なんだか似ている」
という。
それからまた独り言のように
「やはりそういうことなのだろうか」
という。
なんだかもう訳がわからない。
「私はね簡単に人と話せないからさ。だから。今も時間がない」
男の人は短く言葉を切りながらそう告げる。
「そうでしたか……」
「ああ」
そうでしたか、って口でいっても実際は全く理解してない。
「君はどこの誰だい」
「え?あー、ゴウネルスのリィンっていいます。」
名前、教えちゃったけど大丈夫だよね?
悪い人じゃなさそうだし
「……姫?」
短くそう問われて
「まあ……」
と答える。
「本当のお姫様はサァヤっていう女の子で、私はまあ紛い物というか、姫なのかすら危うい者なんですけど……」
「……じゃあ、この間イテイルに来てたのも君?」
「え?まあ、そうですけど……」
なんでこの人そんなこと知ってんだろ。
「そうか……」
そういった男の人がなんとなく優しい笑みを浮かべてる気がして、私まで少しだけ微笑んでしまう。
変なの。まるで昔から知ってる人みたい。
そうだ。前、最初、うちの王様と会った時もそんな……昔から知ってるような感じがしたっけ。
「私はきみに会いたくてここに来た」
そんな言葉に普通ならドキッとするんだろうけど、その言葉にそんな意味合いが含まれてないのがなんだか透けてわかった。
「ありがとう……ございます?」
なんといえばいいかよくわからなくてそういう。
「もういい加減戻らなくては。リィン」
「は、はい」
「ゴウネルスの王を信用してはならないよ」
「え?」
「さあ、お喋りはここまで。また会おう。いつか、きっと……」
そこまでいってから男の人は唐突にーー私を抱きしめて来た。
「えっ?!あ、あの」
戸惑う私などよそに私を抱きしめ続けるその人。
ローブ越しに角ばっているけれど逞しい身体が感じられる。
けれどこれもまた、そういう意味合いではなさそう。
この人は、もしかしたら私をその幼馴染だという人に重ねてるのかもしれない。
やがてたどり着いたのはそんな答え。
それからもう一つ、ある考えにたどり着く。
その幼馴染はもうこの世にいないのかもしれない、と。
だから私は暫しそのままにしていた。
男の人はその幼馴染にここにいて欲しかったのだろうな、と思った。
本当のところなんて知らないけれど……
「それじゃあ」
そういって男の人が跡形もなくその場から消えてしまって、ほんと魔法ってすごいなあなんて思いながら壁を見つめる私。
……そうだよ、壁だよ!
壁通り抜けてきたからね?
けど私魔法使えないし……
遠い目をしてみやるのはこの大きな大きな会場の入り口がある……と思われる方。
方向感覚のない私の勘だから全く当てにならないけど。
とりあえず行くしかないか……
なんて思いながら歩き出す。
そして暫くとしないうちにふと、私の頭の中であることが繋がった。
あの人は魔法がつかえるといった。
そして、イテイル帝国の者だとも。
ついでにいうとこの間イテイル帝国の王様に会いにいった時の出来事も……
あの人、もしかして
「イテイルの王様っ?!」
そんな私のアホみたいな声が寒空によく響いた。
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