第23話 初めての友達
〜幼少期〜
「ナナミちゃん、遊ぼ!」
「ごめん。あたし本よんでたいから……」
「え〜〜。遊ぼうよ〜〜」
「ごめんなさい」
再度そう言われて扉がガチャリと音を立てて閉まる。
「……つまんないの」
私には兄弟姉妹がいない。
だから身近な遊び相手がいない。
お隣には同い年の自分と同じく一人っ子の女の子が住んでいる。
彼女もきっと自分と同じように遊び相手を望んでいるはずと思って毎日のように声をかけているのだけど一向に答えてくれる気配がない。
決まって本を読んでたいなんていう。
「あ〜〜、つまらない〜〜!!」
私はナナミちゃんのお家と自分のお家の境あたりで大声をあげた。
「……ほんとに本を読むために遊んでないのかな?……」
本を読みたいから遊びたくない、なんてわたしには考えられない。
それに、いつも気まずそうに目線を晒すのが気になる。
本当はナナミちゃんも遊びたいんじゃないのかな?
よし。
私はやがて覚悟を決めてナナミちゃんのお家と自分のお家との境の隙間にはいっていく。
「ナナミちゃんがほんとに本を読んでるか……」
なんとか隙間に入り込めると改めて意気込む。
「確かめるんだから……!」
なんとか隙間を進んでいく。
するとやがて窓が見えてくる。
あそこからのぞいてみよう。
なんだか絵本の中の冒険みたいで楽しくなってきた。
窓のところにつくとなんとか背を伸ばして中を覗こうとする。
けどなかなか覗くことはできない。
「う〜〜」
そんなとき中から物音がしてくる。
ハッとして丸くなり隠れる私。
「また来てたの?あの子」
「……うん」
「ちゃんと断った?」
「うん。……本読みたいのっていった」
「よしよし、ナナミはいいこね。あんな低脳な子と間違っても関わってはダメよ。あの子とあなたは全然違うんだから」
「……はい」
「…………っ!」
あれ。ナナミじゃない方の声ってナナミのお母さん?
そしたらナナミはお母さんの言いつけを守っているから遊んでくれないの?……
私は慌ててその隙間から出ると自分の家へ飛び帰った。
そしてまっすぐに自分の部屋へいく。
窓を全開にすると目の前にあるナナミの部屋の窓を見つめる。
わずかに空いていて、隙間から入ってくる風にカーテンがそよそよと揺れている。
そしてその窓までの距離は……
「これくらいならいける!」
私はよく無茶なことしかしない。その発想がわからない。と言われる。
けど、こうしなきゃ今を変えられない。
私は意を決すると窓から飛び出して隣のお家の窓に飛びついた。
窓のヘリを掴んだ手が、指が、震える。
でも、もう少し。
私はなんとかその窓からナナミの部屋へ這ってはいると大きくため息をついた。
なんとか入れた……。
あたりを見まわす。
「うわあ……」
そこに広がっていたのは物語に出てくるお嬢様がすんでそうなお部屋。
天蓋付きのフカフカしてそうなベッド。
カーテンは段付きのフリルで床には清潔で高貴感のある涼やかな水色の絨毯が敷かれている。
部屋全体で見ても基本的に色は白と水色で統一されているようだった。
そして机の上には山積みにされた本。
しかもどれもとても分厚く難しそうだ。
本当に本読んでたんだろうな。
それにあんな私じゃ理解できないような本を……
なんだか酷いことしちゃったかな。
勢いで盗み聞きして部屋に侵入して……
でもナナミとちゃんと話したかったしこうでもしないとお話しできないと思ったのよね。
そう思うと部屋の真ん中に正座し膝の上に拳をそえて扉の方を向く。
そうして扉が開くのをひたすらに待っていたその時……
ガチャッと音を立てて開く扉。
現れたナナミちゃんは最初下を向いていて表情がわからなかったけど、やがて顔をあげると訝しげで不思議そうな顔があらわれた。
「な……何してるの?……」
「えーとね、ナナミちゃんと話したかったから」
「は、話したかったからって……」
ナナミは唐突に起こった出来事にまるでついていけていないようだった。
「ねえ、ナナミちゃん、本当は遊びたいって思ってるんじゃないの?」
「…………」
「お母さんのいうこと守ってるだけで本当は」
「そ、そんなわけないじゃない。放っておいてよ」
私は気づくと立ち上がりナナミちゃんのすぐ近くへ歩いて行っていた。
「私はナナミちゃんと遊びたいよ」
「私は……」
ナナミちゃんは机の方へ歩いていくと高く積まれた本に手を置いて
「私は……あなたと違うから」
そういった。
私はまたそんなナナミちゃんのそばに歩いていく。
「じゃあ、なんで今……泣いてるの?」
ナナミちゃんの顔を覗き込んだらアイスブルーの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「遊ぼうよ」
「…………遊ぶってなに」
ナナミちゃんはどこか怒っているような口調でそういう。
怒ってる口調ではあるもののやっと訪れた変化に私は顔を綻ばす。
「じゃあさ、おままごとで遊ぼうよ」
「おままごと?……」
「うん、そう。家族ごっこ、っていえばいいかな」
「……わかった。じゃあ、私はカレシ役ね」
「え?……」
それから私たちは毎日一緒になって遊んだ。
ナナミのお母さんは猛反対していて何もかも順調に仲良くなれたわけじゃない。
けど少しずつ周りの人まで巻き込んで私たちは仲良くなっていった。
そしてそうやって仲良くなれたからこそ私は今、ナナミが実は通常より少し感覚がずれてるってことや私よりずっと大人で恋愛のいろはもよく知ってることやあたたかくて優しいことや色んなことを知れた。
ただの隣人で終わってたら知り得ないようなことを。
そして私にとってナナミはあたたかくて優しいお母さんみたいな存在へと変化していった。
ナナミはいつも、無鉄砲で思いついたら即行動の私のことを見守り続けてくれて……
「ここならいいかしら」
ナナミに連れられて外に出る。
外には相変わらず綺麗な星空が広がっていてそこにポツンと満月が浮かんでいる。
振り返ったナナミは満月を浴びてより綺麗に見える。
小さい頃からそうだけど……
「美人さんだねえ」
不意に口に出して呟く。
シルバー色の巻き毛はいつも鮮やかなリボンで結ばれていてスカイブルーの瞳は月の光を浴びて綺麗に輝いてる。
白い肌にすーっとした輪郭。きれいな鼻の線。
何年も前は毎日のように見ていたそれが本当に久しぶりに見るものでなんだかその美しさに息をのんでしまう。
「何か言った?」
やがて訝しげにそういうナナミに私はあははと笑ってみせる。
「な、なんでも?ただちょっと月が綺麗だなあなんて」
同性の幼馴染に唐突に綺麗だねえって言われるとか正直気持ち悪く感じかねないことだと思うし。
「…………」
無言で訝しげな表情を向けられ視線をそらす。
気まずい。
でもすぐにナナミは口を開いた。
「ねえ」
「?なぁに」
「私あなたのこと覚えてる」
「えっと……」
「覚えてるって……意味わかるかしら」
「いや、うん。わかるけど……って、ええっ?!」
「相変わらず反応が遅いわね」
そういってフッと微笑んで見せたナナミは完全に昔のナナミで……。
「ナナミィ……っ!」
私は不意に線が切れたように泣き出す。
「ナナミ!!ナナミ!!」
私はひたすらに名前を呼んでナナミに抱きついた。
ナナミはただ私のことをそっと引き寄せて頭をポンポンと撫でた。
ナナミのフワフワの巻き毛が頬に当たってくすぐったい。
「ごめんね」
ナナミはポツリといった。
「……いつから?」
私は涙声で問うた。
「いつから記憶が?さっき?それとも」
「……はじめから……かしら」
ナナミはやがてためらいがちにそういう。
「えっと、どういうこと?」
初めからって……じゃああれは演技?
そんな……
「本当の最初はね名前もみんなのことも自分が来たところもなにも覚えてなかったの。けど段々と頭が冴えてきて自分の名前、みんなのこと、リオネスのこと、思い出していった。」
そういうと改めて私の目を覗き込んで(こういうところが本当にお母さんみたい)
「でも簡単にそれを……記憶があることを明かすわけにもいかなかった。イテイルの人たちに自分は利用できるやつだって思ってもらう必要があると思ったから」
「…………そしてナナミはそれを利用してる……ってこと?」
「ええ、そうなるわね」
ナナミはひどく誇らしげにそういうけど私の頭の中に真っ先に浮かんだのはたった二文字の言葉。
「バカ」
私は呟いた。
それに対してナナミは「中々二人になる機会もなかったし、騙すにはまず味方からなんていうし。でも耐え切れなくなっちゃった」なんていって笑っていう。
世間一般的には可愛いと言われるであろうその仕草、口調にも今だけはただただバカの二文字しかでてこない。
それから私はナナミに何度もバカバカといった。
ナナミはただなにもいわずにそんな私の頭を撫でていた。
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