第21話 仮面舞踏会

「では、これより、仮面舞踏会を始める!」

そう高らかに宣言されると共に鳴り響くオーケストラ隊の音楽。


始まりは荘厳で身の締まるような音楽だったのに対して今はどこか奇々怪界としたどこか不思議で体が自然と動きだすような音楽が奏でられている。


舞踏会というともっと荘厳で煌びやかな音楽が流れるイメージがあったけれど仮面舞踏会という素顔を見せずに舞踏をするこの場をうまく表しているように思う。

そんなことを考えていて「では最初は隣の方とペアを組んでください」という言葉を全く聞いていなかった私。


周囲の人がペア組をし始めたのに気づき慌てて周りを見回した時にはもう遅く……。


「え、私一人?……」

思わず虚しい独り言が漏れる。


顔全体を覆うこの仮面のせいで息もうまくできないしボーッとしててペア組忘れるし……


自分で自分にうんざりしてしまう。

周りを改めて見るとどこももうペア組は済まされている。

私は余りか。

外野に回ろ。なんて思ったその矢先のこと。


「あの」

なんて声をかけられ手首をつかまれる。


「よければ踊っていただけませんか?」

振り返ってみれば、金髪の、私よりやや背の高い同い年くらいにみえる男の人が立っていた。


仮面をつけているためよくわからないが全身からイケメンオーラがムンムンでている。

私がこの人と?踊れるかな

普段ならそんなようなことを思ってためらうところだけど今は状況が状況だ。

私なんかじゃこの人には見合わないだろうけど、仮面つけてるし、そんな悲観的になる必要もないか。

なんて心の中でいろいろ理由づけしながらその人が差し出してくれた細くて綺麗な手に自分の手を重ねる。


「はい」

そういうと男の人は仮面越しにも伝わるあたたかな笑みを浮かべた。……気がした。

なにせ仮面越しだからね。本当のところはわからない。

けどそれでもこの人はとても優しい人なんだろうなあと思った。


うわあ、なんか緊張するなあ。

ちょうどその時、音楽は新しいものへと変わり、男の人は声に出すでもなく自然と踊り始めた。

男の人のリードに流されるままに自然と踊り始める私。

男の人は随分と踊るのに慣れているようだった。

踊るのなんてはじめてな私のことを、男の人は自然と踊れるようにしてくれている。

すごいなあ。

やっぱり貴族王族だから普段から沢山踊ったりしてるのかなあ。

どこかうっとりとして仮面ごしに男の人の顔を見つめる。


「…………?」


「どうかしましたか?」


「い、いえ。ただ……」

そういってから言葉に詰まる。こんなの勘違いだろうけど、でも……。


「知り合いに似てる気がしたんです」

そういってからその人の反応を待つ。


男の人はなにも言わずにただ私のことを仮面ごしに見つめてくる。

私は不安になって、仮面から一部でている目元を必死に見つめる。

そこにあるのは優しいマリンブルーの瞳。

その瞳と一瞬だけ真っ直ぐに見つめ合う。


「っ!やっぱり、あなたは!」

そういったところで

「では、お楽しみ。ペア替えの時間です。みなさん各々ペア組を変えてください」

そんなアナウンスが流れてくる。


「え」

私が短くそういって、その人にまだ聞きたいことがあると訴えようとしたその時にはもうその人はそこにいなく……。


「待って!!」

そんな制止の声も届かない。

その人は手の届かないところへ行ってしまう。


不意に優雅な仕草でこちらへ手を差し伸べてくる別の男の人。


私はその人の手を取りながらも必死に先ほどの男の人の行方を目で追う。


心臓がばくばくいって変な汗がでてくる。

今さっきまでそこにいて、温もりを感じていたその人は間違えなんてしない幼馴染張本人だったから。


はやく見つけなきゃ。

なんでだろう。今見つけないとなんだかもう二度と会えないような気がするのだ。


変な感じだけどでも確かにそう感じる。


はやくあの人の元へ。


それから何度か行われたペア替えだったが、私はもう一度その人とあたることも見かけることもなかった。



見間違え……私の勘違いだったのかな。


そう思おうとした時、視界の端にその人がうつった……気がした。


見間違いかもしれない。

でも、確かめたい。


その人ーー幼馴染であり初恋の人でもあるユシルに会いたい。

仮面越しにかち合ったあの優しい瞳はユシル以外に考えられなかった。

改めて思い出し考えてみればそれはもう疑いから確信へ変わっていく。


私は慌ててユシルがいた方へと駆け出す。


大勢の人がひしめきあっているこの場所で移動するのは簡単なことじゃない。

誰かを追っているなら尚のことだ。


でも、だからって簡単に諦めたくない。


半ば意地になって駆けつづけ、そして私はやっとーーユシルの服の袖を掴んだ。


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