第20話 三人の王様

「えっと、じゃあ、ロイくんとリィンはさっきまで口喧嘩していて結局幼馴染を見つけることはできなかった……ってこと?」

「……はい、恥ずかしながら」

「……うん」


私たちは今、会場中央にゴウネルス代表として並びながらサァヤに事情を説明しそして二人して頭を下げている。


「そっかぁ……」

そういうサァヤはどこか呆れているように見える。


普段から温厚で優しく私とロイがワァワァ喧嘩していても「仲が良いね」と微笑む天使のようなサァヤが呆れてる……。

私もロイも目に見えてショックを受ける。


けれど次の瞬間には

「でもこれから舞踏会と食事会があるわ。そこでもリィンの幼馴染に会える可能性は十分にあるし大丈夫よ。さっきみたいに自由に動き回ることはできないかもしれないけれどね」

といって優しく微笑むサァヤ。


私は思わずそんなサァヤに抱きつく。


「サァヤ〜〜!!」

サァヤの優しいひだまりみたいな香りに包まれてなんだかホッとする。

けれどそれも束の間。すぐにロイに引き剥がされる。


「ちょっと!なにすんのよ」

「なにすんのよ、じゃねえよ。ここがどこか忘れたのかよ。見られてるぞ」

そう言われて周囲を見やれば貴族や王族の方々が皆こちらを見ていた。


「そうだったねえ……」


今は主要な三ヶ国、ゴウネルス、イテイル、フラメニアの代表者が並びたち舞踏会の開催を待っているところ。


だからその周囲を囲む貴族や王族の視線は全て中央にいる私たちに集まる。


「すごい見られてるんだけど!」

「今更かよ。お前ずっと見られてたぞ」

「はあ?なんで」

「変なやつだから」

「は、はあ?なんなのよ、いつもいつもそうやって!そんなこと言ったらあんただってね」


そう口喧嘩していた矢先、ファンファーレと思わしき音がどこかから聞こえてくる。


「二人とも」

サァヤの囁き声の忠告に「はーい」と小さく返事をして歪みあいながらも前を向く私とロイ。


私たちの目の前にあるのは大きいクリスタルの柱。

その柱の中央部分にまっすぐ柱を裂くように線が入り次の時にはギィィと音を立てながら柱が左右に分かれそのまま後方へと消えていく。


すると様々な楽器を携えたオーケストラの人々がいでたつ大きなステージが出現した。


どうやら先ほど聞こえたファンファーレの音はここから聞こえていたらしい。


オーケストラの人々が奏でる荘厳な音楽に息を飲む。

これから舞踏会が始まるんだ。

そう改めて考えるとなんだか緊張してくる。


そんな時

「フラメニア島郡統治者フラン・ハーシエル様」

という声が聞こえてくる。

それから少しとしないうちにそのクリスタル製の柱の中のステージの端からいそいそと一人の男の人が姿をあらわす。

確かフラメニアはキラがいる国。

そしてこの人がそこの……。



男の人はステージ中央へやってくると一つ深々とお辞儀をする。

それに答えるようになる割れんばかりの拍手。

私も慌てて拍手をする。


男の人は男なんだけれどどこか女らしい雰囲気で、気のせいじゃなければ唇にうっすらと紅色の口紅が塗られている気がした。


まあ、遠目だから事実はわからない。


白いタキシードを着こなしフラメニアの国章と思わしき黄色い花の模様が描かれた大きめの旗を掲げている。



不意に斜め前のキラの方を見ればキラはどこか誇らしげにその人を見つめている。

なんだか複雑だな。

キラのああいう瞳が自分に向けられることはもう二度とないのかもしれない。

なんて思っていたら舞踏会が始まる前にぶつかったガラの悪いキラの付き人と思わしきあの少年がこちらをチラッと見やる。

鋭い殺気に溢れる瞳に強く睨まれて思わずすくんでしまう私。

しかし、すくんでしまうことより気になることがある。


……あの瞳。どこかで見た気がするのよね……。



「イテイル帝国帝王テイル・ナージェス・タール様」


続いててできたのは紺色のスーツを着こなした険しい表情をした男の人。

彼もまたイテイルの国章が描かれた旗を掲げている。


雪の結晶と、白い虎が印象的な国章だ。



男の人はやがてステージ中央にたどり着くとこれまた一つ深々とお辞儀をする。

また鳴り響く割れんばかりの拍手。



今度は反対の、斜め前にいるナナミに目をやればなんの感情もうつさないような瞳でその人を見つめていた。

ナナミはこっちにきてからずっとあんな感じだから別に嫌いとかそういうのではないだろう。たぶん。




この順でいくと次はうちの王様かな。

隣のサァヤを横目に見れば、ひどくワクワクした表情でステージを見つめて王様の登場を待っていた。



サァヤは本当に王様のことが大好きなんだな、なんて思う。

かくいう私も「うちの王様が一番!」ってこの場で叫べるくらいには王様のことが好きだ。


穏やかで気さくで優しい非の打ち所がない王様なのだ。



「最後にゴウネルス王国国王ゴウ・スワーデン」

そう名前が読み上げられるとステージ端からニコニコした笑みを浮かべながら歩いてくる王様。

黒色のスーツをバッチリ着こなし、国章である鳳凰の描かれた旗を高々と掲げている。



私もサァヤもロイも先ほどにも増して大きな拍手を送る。



王様はステージ中央にやってくると先ほどの二人に倣うようにして深々と頭を下げる。


そして先ほど同様に鳴り響く多くの拍手。

やがてその拍手がなり終わると端にいっていたフラメニアとイテイルの王がうちの王様の横に並びたつ。


「本日はお日柄もよく……なんてあいさつしようとしたんじゃが、これじゃあ堅苦しいしのう」

ステージ中央にいで立つ王様はそういって穏やかな笑いをもらす。

やっぱり王様はどこにいても王様だなあ。


「皆、今日はよく集まってくれたのう。一時は開催自体危うくなったが」

そんな言葉にイテイルの王様が険しい表情をより険しくさせた気がする。


「ともかく、こうしてこの日を迎えることができた。せっかくの舞踏会。目一杯楽しんでくれ。あまり長いと皆疲れてしまうからの。わしからは以上じゃ」

そういうと穏やかな笑みを浮かべながら一歩後ろにさがる王様。

そんな王に続くようにして口を開いたのはフラメニアの王様。


「今日はみんなきてくれてありがとうございます。」

そういって一礼するとうちの王様のようにどこか無邪気に微笑んで見せる。


「……という堅苦しい挨拶はいらないようなのでいつも通りいかせてもらうわね」


……?わね?


「今日はこんなにも沢山の人々が国柄関係なく集まってくれて嬉しいわん。みんな、今日は楽しみましょうねん。」

そんな言葉を聞いて思わず絶句する私。

耳に残る強烈なイントネーションをともなったそれに対して頭のなかである言葉が思い浮かぶ。


オネエ……。

聞いたことはあったけど、ここで出会うとは。

そう思って自分でもわかるくらいキラキラした瞳でフラメニア国王を見つめる。


「…………最初に仮面舞踏会を行う。次に通常の舞踏会。それから食事会、だ」


最後に口を開いたのイテイルの王様はひどく無愛想にそういう。


「……というわけでこれより舞踏会を始める!」

うちの王様が一番最後にそういって、周囲からは大きな拍手が沸き起こる。



ようやっと、はじまるんだ。

私は気を引き締めるようにギュッと手を握りしめた。

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