第19話 ぶつかったのは……

「うわぁ……」


ロイくんに続いて建物内に入るとその美しさに思わず絶句してしまう私。

全面クリスタル製で外の光を目一杯、そして一番美しい形で取り入れているそこは、ほんと、息を飲むって言葉がぴったりの綺麗な場所。


今は少しずつ太陽が沈み始めている時間なので大きな建物内全てをオレンジ色のキラキラした光が包んでいる。しかもそれはところによって仕様が違っていたりして見ていて本当に息を飲んでしまう。

そして天井の一番高いところには見たことがないくらいに大きく荘厳なシャンデリア。

それは自ら光を放つことはなく、色々な角度からはいってくる全ての外の光を反射して輝いているようだった。


建物自体もとても広く圧巻される。

全て舞踏会場なんだから尚更すごい。


そして集まってきている貴族や王族は皆、眼を見張るほどの煌びやかな衣装を身にまとっている。


ふと自分の姿に目線をおとす。

サァヤが選んでくれたこのドレス。最初は派手すぎるんじゃないかな、なんて思っていたけれど案外普通だ。というか、この場にいる人たちと比べたら地味すぎるくらいだ。


ほんと、貴族や王族ってすごいや。


「おい、なにボーッとしてんだ」

「え?あ、ああ」

不意に軽く手首を掴まれてハッとする私。

前を見ればそこには険しい表情のロイくん。


あれから結局ロイくんとサァヤがどうなったかとか、ロイくんの言葉の意味とか全く理解できてないけれどなんだかそもうれでいいのかなと思いはじめてる。


「はぐれちまうだろうが」

「ごめん。綺麗だなって思って見惚れてた」

そう正直に白状するとあからさまに呆れた仕草をしてみせるロイ。

ちゃんと謝ったのにその態度はなくないか?なんて思って少しムッとする。


「サァヤ様はもう少しやることがあるから二人でお前の幼馴染を探しててって言われた。あと、探せるとしたら今しかない。この後は舞踏会やら食事会があるから。だそうだ」


「わかった」

そう返事をしてからやっと今回の目的を思い出す私。思わず綺麗な建物の造形に見入って夢中になってしまったけれど舞踏会が始まる前に幼馴染たちを見つけ出さなくちゃ。


「あ!!」

そう声を上げて駆け出す。


「は?っておい!待てよ!!」


そんなロイくんの声を背中に受けながら走る私。

というのも今さっきキラらしき人を見かけたから。


キラは私の幼馴染の一人。

私にとっての妹分みたいな子で、無邪気で元気いっぱいな、本当に可愛らしい小動物みたいな女の子なのだが……。


人混みの中に飛び込んだ私は先程チラリと見えたそのキラらしき人を必死に探す。

確かここらへんにいたのに。


そう思ってキョロキョロしてたら不意に誰かにぶつかってしまう。


「ごめんなさい!」

慌ててそう謝って振り返ると怪訝そうに眉をひそめた、私よりも少し背が低い中性的な容姿の男の子がいた。

男の子は私がこういった場に慣れていないことを見抜いているような、そしてそのことをバカにしているような視線をこちらに向けてくる。

それから男の子は暫くその視線で私のことを眺め回し最終的に何も言わずにスーッと何処かへ行ってしまった。


…………な、何今の!

謝ったのに返事の一つもなしにあんな……!

なんだか無性に腹が立ってきてその男の子が向かった方へドスドスと効果音がつきそうなほどガニ股で歩いていく私。


一体どこへいったのよ……

あたりを見回すも少年らしき姿は一つもない。

確かにこっちへいったのに

そう思いながらふと柱の方を見やる。


するとそこには先程の少年と思わしき人の後ろ姿がある。

見つけた!



そう思ってそちらにかけていく。


「ちょっとあなた!」

その少年の元へたどり着くとむすっとしながらもそう声をかける私。

けれど少年は全くこちらに気づく気配がない。

どうやら誰かと話をしているみたいだ。


「やっぱりこういう場所は慣れないなあ」

「そのうちに慣れますよ。それに私に先程タックルをかましてきた女などまるでこの場の雰囲気にあっていなくて」


なんだ誰かと話してるんならもういっか

それによく考えたら私は幼馴染を探さなきゃいけないんだ。なのに思わずカッとしてしまったなあ。さあ行こう

なんて思ってたのも束の間。


ガシリと少年の肩を掴む私。


「何か言ったかしら、君。それ、私のこと?」

そんな私の方をまたも怪訝そうな表情を浮かべながら振り返る少年。

と、それと同時に少年と会話していたその人の姿が見える。


「嘘……キラ?」


思わず拍子抜けする。

この失礼極まりない少年と親しげに会話していたのはキラだったのだ。


「え?二人は知り合い?」

思わず戸惑う私に男の子は怪訝そうな表情をうかべたまま棒読みで

「こちらはフラメニア王国王女キラ・ラフラ・フラメニア様です。不用意に話しかけるのは大変な無礼にあたると思われますが」

という。


その言葉の裏には彼女に無礼を働けばそれはフラメニア王国への不義と同じという意味が込められているのだろう。


そんなことが察せるようになったのって結構な進歩だと思う。

これは後からロイくんに自慢しなきゃ、なんてこんな時にそんなことを思う。



それにしてもキラはフラメニアという国の……。



「ねえ、キラ、私のこと覚えてる?ほら、リィンだよ。」

手前にいる男の子の言葉など無視してそう声をかける私。


しかしキラは一向に口を開かないどころか気まずそうに俯いてしまう。


「ほら、キラ様が迷惑がっているだろう。下がれ」


「でも……!」


なんで何も答えてくれないんだろう

ナナミのように記憶をなくしてしまったのだろうか。


それともトウヤのように性格が変わってしまったのだろうか。


不安な面持ちでもう一度キラに声をかけようとしたら唐突に男の子に突き飛ばされる。

不意打ちだったことと男の子が見た目以上に力が強かったこともあって思わず尻餅をついてしまう私。

そんな私に近くにいた人が迷惑そうな顔をする。

「す、すみません」

そうぶつかりかけた近くにいた人に謝りながら立ち上がる。目の前には先程の怪訝そうな表情とは打って変わった殺意に満ちたような表情をする少年。


この感じ、どこかで……


「キラ様にこれ以上近づくな。近づいたらどうなるかわかってるな」

そんな言葉に素直にはい、と言えるわけがない。

だからもう一度口を開こうとしたその時

「ったく、手間かけさせやがって」

そんな言葉とともに私の目の前にいつもの温もりがやってくる。

そしてパシッという強い拳が受け止められる音。


見ればロイくんが私の前で少年の突き出した拳を受け止めていた。


「あ、ありがとう」

そう礼をいいながら、にしてもこの少年女の子を拳で殴ろうとしてたの?ありえない、と思う。


その次に絶対ロイくんに怒られる……と思う。


けれど……


「お前、うちの姫に何してんだ」

と、少年に対して敵意むき出しでいうロイくん。


「あれ?意外と怒ってない?」

思わず口から出てしまった独り言にロイはチラリとこちらを振り返る。

「これが怒ってないように見えるか?」

そういうロイくんの表情筋は見たことがないくらいにピクピク動いてる。


「すごい!表情筋ってこんな動くんだ」

「んなこといってる場合じゃねえだろ!」

と、そんな会話をしていたら少年が深々とため息をつく。


「アホくさい人たちですね。キラ様行きましょう。相手にするのも面倒です」

「え、ちょ!」

キラは私の方を一切見ることなく、少年の言葉に頷いてその場を去っていこうとする。


そんなキラと少年を追おうとするロイ。

しかし私は思わずそんなロイを制ししていた。


「なんで止めんだよ。幼馴染なんだろ?」

「うん……けど」

そういって見つめる先には俯いたまま少年と歩いていくキラの姿。

キラが俯いてるところなんか初めて見た。

いつも元気で動き回ってるところしか見たことないようなキラが私を見て俯いて言葉を発することを避けた。

胸がギュッと苦しくなった。


私、何を期待していたんだろう。


確かに世界の権力者が集う舞踏会に行けば幼馴染に会える確率は格段にあがる。

けれど会えたとしても私たちは昔のまんま、ってわけじゃないんだ。



知ってる人が、大好きな人が、自分を他人のように扱うことがどれだけ辛いかということを改めて感じさせられる。



そんな矢先バンッと思い切り肩を叩かれる。


「辛気臭い顔してんなよ。失くなったもんを取り戻したいからお前は今ここにいんだろ」


「……うん」


「なら前向いてろ。前さえ向いてれば必ずどうにかなるから」


「…………ロイくん」


「なんだよ」


「ロイくんってほんっとーにほんっとーにたまにだけど……いい事言うよね」


「は?」

そういって暫くしてからロイくんは「お前なあ」とせっかくセットした頭をクシャクシャしてこようとする。


「ちょっ!やめてよ、変態!」


「はあ?誰が変態だよ。お前のこと助けてや

ったのにその言い草はないだろう」


「お前のこと助けてやったのにとかそれ、自分でいう?あーやだやだ。ロイくんのそう言うとこが嫌ー」


「なんだと」


そんな風にいつもみたいにケンカしたら慣れないところにきたことからくる緊張感とかやっと再会できた幼馴染が一言も言葉を交わしてくれなかった悲しさとかが全部、緩和されていくような気がした。

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