第18話 聖都ミディアネラ

「先程は申し訳ありませんでした。聖都まであと少し、よろしくお願いします」

丁寧にそう言って深々とお辞儀をする。

顔を上げると先程まで険しい表情をしていた従者さんたちの顔が多少は和らいでいた。

「はい、わかりました」

そういわれて私は改めて頭を下げた。






馬車に乗り込んで早々、ロイくんの視線が矢のようにこちらへ突き刺さってくる。

言いたいこと、わかるよ。

余計なお節介もとい自己満で奇々怪界とした行動をした私を呆れると共に憐れんで、ついでにいうとイライラしてるんだよね、きっと。

もう充分にわかってるからこっち見ないでほしい。

そう思っていたら唐突に、席に着こうとしていた私の手首を掴んでくるロイくん。

ええ?ちょ、なに、ビクともしないし怖い

と思っていたら

「ありがとな」

なんて言葉が耳に入る。

えっと……今のは聞き間違い?ロイが人様にありがとう、なんて……

そう思っていたら手首を離される。

どうやらありがとなという為だけに手首を掴まれたようだった。

怒ってはいないってことか?……

「おい、はやく座れよ。サァヤ様が乗れないだろ」

「わ、わかってるよ!第一あんたが……」

とぶつくさ文句を言いながら自分の場所に座る。

それからサァヤも乗り込んできて馬車はまた動き出す。



えーと……

少し状況を整理しよう

さっきロイくんは『ありがとな』といった。

普段から私への扱いが横柄で、ありがとなんて感謝の言葉を一度も吐いたことがない彼が、だ。


それってつまりはロイは自分の想いの丈に気づきそしてサァヤにそれを伝えたってことなのでは?……


そう考えた途端謎に頬が熱くなってくる。


なに私が恥ずかしがってんだろ。

でも、それが当たっているとしたら二人は今……


サァヤとロイの方をチラッと見てみれば二人とも穏やかな笑みを浮かべて外を見つめている。


二人とも嬉しそう?つまりそれって二人は両思いってこと……?

そんなことまで考え出すといよいよ頬が真っ赤に染まってくる。

この歳までまともな恋愛(片思いは除き)などしたことない私はたったそれだけのことでも赤面が止まらなくなってしまう。


「おい、お前なんか赤いぞ」

不意にロイにそう声をかけられハッとする私。

「え?ああ、はは」

「ほんとだわ。熱でもあるのかしら?大丈夫?リィン」

サァヤの心配そうな表情がまっすぐこちらに向けられ私は首をブンブンと横にふる。

明らかに不審だけれどもうそうすることしかできない。

「大丈夫!大丈夫だから」

そういうと私は赤く染まった頬を隠すように俯いた。









「リィン、もう着いたわよ。さっきからボーッとしているみたいだけど大丈夫?」

「えっ?!あ、ああ、うん、もちろん!あはは」

なんていって慌ててサァヤの後に続いて馬車から降りようとすると頭を思い切り天井にぶつける。

「いったあぁぁ!!…………」

頭をおさえ静かに痛みに悶える。

「おい、はやくでろよ」

だというのにこの男は先程恋の手助けをした功労者にすらこんな扱いだ。

全く腹立たしいことこの上ない。

「ごめんなさいね」

短くそういうと外にでる。

イライラで痛みも忘れてしまう。

「リィン、大丈夫?」

不安そうにそうたずねてくるサァヤにはやはり癒される。

「うん、大丈夫だよ」

そういってから目の前にそびえ立つそれ、聖都ミディオネラの大半を占めるという巨大なクリスタル製の建物を見やる私。

夕日を反射してキラキラしてるそれはとても綺麗で思わず息を飲む。

と、途端にポンと頭をたたかれる。

よりにもよって先程ぶつけたところを、だ。

「なっ」

「ま、大丈夫そうだな」

「はあ?」

「お前は石頭だなってことだよ」

「はあ?なにそれ意味わかんないんだけど」

「とにかく行こうぜ」

そういうと逃げるようにサッサと歩いていくロイにムッとする。

なんなのあれ!あれが恋の功労者にすることなの?

新手の嫌がらせまでしてきて…

「ロイくんはただリィンのことを心配しているんだと思うよ。言い方がぶきっちょなだけで」

不意にそういって優しい笑みを浮かべるサァヤ。

「そう……なのかなあ」

とてもそうとは思えないんだけど

「じゃあ、私は先に受付してくるね。何かあったら大変だしリィンはロイくんのそばを離れないでね」

そんな言葉をおいて早々にその場を立ち去ってしまうサァヤ。

流石は一国の姫にして騎士団団長だ。

それに対して私は続々と周囲に現れる貴族やら王族やらの皆さんに戸惑いが隠せない。

貴族や王族ってこんなにいるの?せいぜい五、六人かと思ってた……

でもそうだよね。リオネスとは訳が違うんだから。

なんて思いながら先に歩いていってそのまま、クリスタル製のその美しい建物を間近で見つめているロイの横に歩み寄る。

さっきのこともあるし本当は行きたくなかったけれど仕方ない。

私一人じゃなにもわからないもんね。

それにサァヤからロイの側を離れないよう言われたし……。

「なに見てんのよ」

「ん?ああ。相変わらずすげえ建物だと思ってさ」

ひどく無愛想な声音でたずねた私に対してロイはそれをさして気にした様子もなくそう答える。

「ふ〜ん」

そういってから少し間をおいて、

「それで、サァヤとはどうなったの」

と問う私。

ロイはそんな私の言葉に顔色を変えることもなく静かに前を見つめながら

「終わった」

という。

「えっ?!」

驚く私だけどロイは顔色一つ変えないどころかどこか清々しい表情を浮かべている。

「どういうことなの、終わったって」

鬼気迫ったようにそういう私。

そんな私の方をやっと見たロイとばっちり目があう。

真っ直ぐな瞳でこちらを見るロイ。

「俺の想いが終わりを見つけられたって意味だよ」

と、そこまでは真剣な口調でいったものの、言い終えるとまるで先程まで息を止めていたかのようにはあーーっと大きく息を吐き出すロイ。

「な、なに」

「こんな臭えこといって俺らしくもねえと思ってよ」

「はあ……」

「よし、行くぞ」

「え?」

「サァヤ様もういってんだろ」

「そうだけど」

「ほら、ボーッとしてんじゃねえよ」

「ちょっ!まだ私理解が追いついてないですけど!!」

そんな私の言葉にロイはなぜか楽しそうに笑ってみせた。

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