第17話 告白とお節介

〜ロイ〜


呆然と馬車の外を見つめる。

行者や従者のおじさんの手をひきワーワーいいながら遠ざかっていくリィン。


馬車を出る前の瞳が訴えるもの。

その前の会話から考えて……


「トウヤって確かサァヤの幼馴染の子よね。こないだ再会できたけれど、結局また離れ離れになってしまった……」

キチガイのように騒ぎたて意味のわからない挙動を繰り返すリィンに対してすら優しげな瞳をむけるサァヤ様。


サァヤ様のそういうとこ、ほんとすげえよなあ。


やっぱり好きだな。

そう、思う。


リィンにそのことを言われた時はなんだか癪だったし誤魔化したが……


「そうですよ。あいつの幼馴染です」

普通に言うはずだったのにその言葉は思った以上にぶっきらぼうなものになる。


「ねえロイくん」


するとサァヤ様がこちらをまっすぐに見つめて心配そうな表情を浮かべる。


「なんだか近頃元気がないわよね。何かあった?私のせいだったら遠慮なくそういって」

そういわれてどきりとする。

まっすぐなマリンブルーの瞳から目が離せなくなる。


今、いえばいいのか?

あなたが好きです。だからこれからあなたが結婚相手を決めるなんて考えると憂鬱で仕方ないんです。それにあなたが国を離れたら寂しくて仕方ありませんって。


「あいつの相手してるのが疲れて……」


言えれば、いいのにな。


「そうなの……」

そういうサァヤ様の顔には訝しげな表情。

きっと俺の言葉を信じ切ってはいないのだろう。


もう一度馬車の外に目をやる。

おじさんたちの手をひきあっちへこっちへ、相変わらずのキチガイ行軍を続けるリィンの姿には思わず苦笑する。


だけど、申し訳ないがあいつが想像するようにものごとが運ぶことはなさそうだ。


いいたい言葉も喉につっかえては飲み込まれ腹の奥のほうに戻っていっちまうから。


ごめんな、リィン。


と、そんな時、不意にバッとこちらを見たリィンと目があう。

腰丈ほどの豊かな金髪をキラキラさせながら必死な瞳でこちらを、というかまっすぐ俺を見つめるリィン。


『がんばれ』


やがて口パクで伝えられたそれに腹の奥の方へ戻りかけてた想いが逆流してくる。

そうだ、言わなくては。

そう思わされる。


妙に緊張していたのも抜けてフッと笑みすらこぼれた。


「リィン、今何かいってたわよね?私、少し聞いてくるわ」

そういって立ち上がるサァヤ様の細い手首を咄嗟に掴む俺。


サァヤ様は一瞬驚いたような表情をして見せたけどすぐに優しい笑みを浮かべる。


「どうしたの?ロイくん」


「サァヤ様、俺」

そこで言葉に詰まる。

サァヤ様の手首を掴む手に力がこもってやがてもう一度口を開く。


「サァヤ様のこと、ずっと守り続けます」


なんとかでてきたのはそんな言葉だった。

エミリに告白した時でさえもっとうまい言葉を言えていたのに


「守る?……」

不思議そうな表情をしてそう呟くサァヤ様だけどすぐに微笑んで

「ありがとう、ロイくん」

という。


だから俺はなんだかこれでもいい気がして、そしてそれと共になんだかすごい達成感のようなものを感じだす。



リィンに告白がどうのといわれ

そんなことしたって……と思ったりもした。


けどよかった。


告白とはいえないけどそれでもよかった。



こんな大切な時を俺は一生わすれない。


さようなら、サァヤ様。

俺はあなたが去った後の故郷を今までと変わらず、いえ、今まで以上に守り続けます。

どうか、お幸せに。


そんな全ての意味を込めてギュッと、今度はサァヤの小さくてあたたかな手を握る。


「今までありがとうございました」

最後にそんな言葉に乗せきれるだけの想いを全部託してーー。






〜リィン〜

「あっれ〜?おかしいなあ。確かにここにいたんだけどなあ」

なんてすっとぼけて辺りを見回す私。

行者さんと従者さんらから向けられる視線が痛い。

そろそろ大丈夫かな、ていうか大丈夫じゃないと困るなんて思って馬車の方を見やる。


すると、そこにはこちらに向かって走ってきているサァヤの姿がある。


え……。ちょっ……。

馬車の中に置いてけぼりにされているロイの姿を確認し作戦の失敗をなんとなく悟る私。


やっちゃった……。

勝手なお節介(自己満)で時間を割いた上に従者さんたちやロイの気分を害して……。


なにやってんだろ、私。

ぽつりとそんなこと思うと気持ちはどんどん急降下していく。


「リィン!トウヤくんはいたの?」

こちらにやってきたサァヤにそう問われて

「見間違いだったみたい……」

と苦笑を浮かべる。


「そうだったのね……。でも、大丈夫よ。この先の聖都にきっといるわ」

優しくフォローしてくれるサァヤのあたたかさには涙がでそうになる。


傷ついたこころにサァヤの優しさは沁みますなあ。なんてそんなことを思いながら私は馬車へ向かった。





「先程は申し訳ありませんでした。聖都まであと少し、よろしくお願いします」


丁寧にそう言って深々とお辞儀をする。

顔を上げると先程まで険しい表情をしていた従者さんたちの顔が多少は和らいでいた。


「はい、わかりました」

そういわれて私は改めて頭を下げた。






馬車に乗り込むとさっそくロイくんの視線が矢のようにこちらへ突き刺さってくる。

うん、わかる。

余計なお節介もとい自己満で奇々怪界とした行動をした私を呆れると共に憐れんでいるんだろう。

あとついでにいうとイライラしてるんでしょ。

もう充分にわかってるからこっち見ないで!

そう思っていたら唐突に、席に着こうとしていた私の手首を掴んでくるロイくん。

ええ?ちょ、なに、ビクともしないし怖い

と思っていたら

「ありがとな」

なんて言葉が耳に入ってくる。


えっと……今のは聞き間違い?ロイが人様にありがとう、なんて……

そう思っていたら手首を離される。

どうやらありがとなという為だけに手首を掴まれたようだった

怒ってはいないってことか?……


「おい、はやく座れよ。サァヤ様が乗れないだろ」


「わ、わかってるよ!第一あんたが……」

と自分の場所に座る。


それからサァヤも乗り込んできて馬車はまた動き出す。



えーと……

少し状況を整理しよう

さっきロイくんは『ありがとな』といった。

普段から私への扱いが横柄でありがとなんて感謝の言葉を一度も吐いたことがない彼が、だ。


それってつまりはロイは自分の想いの丈に気づきそしてサァヤにそれを?……


そう考えた途端謎に頬が熱くなってくる。


なに私が恥ずかしがってんだろ。

でも、ってことは二人は今……


サァヤとロイの方をチラッと見てみれば二人とも穏やかな笑みを浮かべて外を見つめている。


二人とも嬉しそう?つまりそれって二人は両思い?

そんなことまで考え出すといよいよ頬がカッと熱くなってくる。

ええ?なにそれ

両思いってなに

羨ましい。


「おい、お前なんか赤いぞ」

不意にロイにそう声をかけられハッとする私。


「え?ああ、はは」


「ほんとだわ。熱でもあるのかしら?大丈夫?リィン」


サァヤの心配そうな表情をまっすぐこちらに向けられ私は思わず首をブンブンと横にふる。

明らかに不審だけれどもうそうすることしかできない。


「大丈夫!大丈夫だから」

そういうと私は赤く染まっているであろう頬を隠すように俯いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る