第39話 サイケデリックな和楽器使い(Psychedelic Shamisener)
四人が缶ジュースを飲みあさっていると、自動販売機の後ろから、一人の女が現れた。
【払え……】
現れたのは、
赤い長髪に、白の
垂れた前髪の隙間から、か細い目が奈緒たちを強く睨みつけている。
「……あんた誰?」
臆することなくメロンソーダを飲み続ける奈緒。
「げほっげほっ!」
お茶を詰まらせるレイ。
インパクトのある女性の登場に驚きを隠せない。
「げっぷ」
炭酸を飲みすぎたグレン。
「にゃ、にゃんだおまえはああああっ!?」
ひっくりかえるシャム。
コーラをこぼしてしまった。
【払え……】
催促を続ける女。
まるで酒ヤケを起こしたかのようなハスキーヴォイスである。
浮世離れした格好をしているものの、幽霊の類ではなく生身の人間のようだ。
「わるいが、いま日本円しか持ってねぇんだ」
真面目に応対するオヤジ。
「これで勘弁してくれ」
ポケットから一枚の福沢諭吉を取り出し、指ではじいた。
【金などいらぬ……きさまらの命を置いてゆけ……】
諭吉の顔に見向きもしない女。
あろうことか、奈緒たちに命での支払いを要求している。
「は? あんた何者なの?」
レモンスカッシュを開けながら質問する奈緒。
【名乗る必要はない。きさまらはここで土に還るのだから】
強気な態度を取り、名乗ることを放棄する女。
しかし……
「そのしゃがれたハスキーヴォイスと、赤い長髪、白の装束、そして、紫色の三味線……お前まさか、三年前に失踪した幻のソロアーティスト『
名前を暴露するオヤジ。
偶然にも、女の
【う……】
動揺する細景。
図星のようだ。
【まさか、わらわを知っている者がまだこの世に残っておったとは。やれやれ、長生きはするものではないな……】
「お前、確かまだ20代前半だろうが。十分わけぇよ」
年齢までも暴露するオヤジ。
いまは無き公式サイトのプロフィールが脳裏に強く残っていた。
「あんたなんでコイツのこと詳しいの? ストーカー?」
奈緒、質問する。
「いや、ただのファンだ。こいつの名前は〝
饒舌な語り口で女の概要を明かすオヤジ。
「まさかこんな
【……最近の日本は表現の規制が厳しくて好かぬ。ゆえにわらわは、より自由な環境を求めてこの島へと渡ったのだ】
失踪の理由を明かす細景。
「でもこの島、他に誰もいないみたいだけど……」
疑問を口にするレイ。
街が活動している気配を依然として感じ取れない。
【おったさ、かつてはな。しかし
あっさりととんでもないことを喋る細景。
「音楽でこの島の先住民をすべて葬ったと言うのか? とんでもねぇ
動揺するグレンG。
【フフ……わらわの音楽には、人の一生を終わらせるほどの強いメッセージ性があるのだよ】
自慢げな薄ら笑いを披露する細景。
ときにアーティストという存在は、その才能をこじらせ、だんだんと浮世離れしていく傾向がある。自分なりの音楽を追求していった結果、他人が理解できないような領域へと踏み込んでいってしまうのだ。
この細景妖子も、その例に漏れていない。
その音楽に親和性はなく、あるのは究極の自己満足感のみ――。
つまり、コミュ障であった。
【さあ、罰としてわらわの演奏を聴かせてやる! 我が新曲の生贄となるがよい!】
三味線を構え、ライブの準備を整える細景。
問答無用で奈緒たちの命を奪う算段のようだ。
――しかし、ロックバンドである奈緒たちが、単なる『客』に成り下がるわけがない。
「来るわ! みんな構えて!」
ギターを構える奈緒。
「やれやれ……結局ゴハンにはありつけなかったわね」
ベースを構えるレイ。
「まあいいさ。三度の飯よりロックンロールってことだろ?」
拳を構えるグレンG。
「やってやるにゃあ!上等だにゃあ!」
リコーダーを構えようとしたが、さっき転んだときに自販機の下へ楽器を落としてしまったシャム。
(やっちまったにゃあ! しかし、問題は、にゃい……!)
国籍不明の謎の孤島〝サイケデリカ〟にて――。
逃亡中のロックバンド『デスペラードン・キホーテ』と、亡命中の三味線奏者『細景 妖子』の、カオティックな対バン戦争が突如、勃発するのであった。
『細景 妖子』(ソロ)
ジャンル:サイケデリック、民謡
罪状:不法入国、大量殺人、国家略奪
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