第38話 幽霊街(Ghost Town)

 どこの国家にも属さない謎の孤島〝サイケデリカ〟。

 その古ぼけた小さな港に、一隻の船が到着した――。




「よし、着いたぞ。降りろ」

 到着を告げるオヤジ。


 バンドメンバーの四人は、それぞれの楽器を肩に下げ、次々に島へと上陸する。

「あーノドかわいた」

「この島、薬局はあるのかしら」

「やっと着いたか。とりあえずハンバーガーショップにいこうぜ」

「ふにゃあ~ボクはチーズバーガーを食べるにゃあ~」


 オヤジを先頭に、目の前の大通りへと足を進める一同。

 しかし……



「な、なんだこの街は……」

 オヤジ、動揺する。

 五人が歩く港街の風景は、まさに廃墟そのものであった。

 立ち並んでいる西洋風の建物はどこも窓ガラスが割れており、壁や地面には奇妙な落書きが連なっている。街路樹の木々たちも、地面に倒れて枯れ果てている。


「この街、センスないわね」

 奈緒、酷評する。

 壁などに描かれている落書きは、奇怪な人形や紫色の大目玉などサイケデリックなものばかりだ。


「気味が悪いわね。人の気配もしないし」

 レイ、同調する。

 退廃的な街並みからは、人が住んでいる様子などまったく見受けられない。


「食料の気配もねぇな。飯屋どころかコンビニすら見当たらねぇ……舐めてんのか?」

 グレンG、憤慨する。


「これは一体……何語だにゃあ?」

 看板などに書いている文字も、まったく見たことのない種類のものだった。

 バイリンガルのシャムが読めないというのだから、当然他の四人も読むことができないだろう。

 


「お、あそこに自販機があるぞ。とりあえず飲み物は確保できそうだ」

 通りの片隅にある自動販売機を発見するオヤジ。


「あっ、メロンソーダ売ってんじゃん」

「玄米茶もあるわね」

「なかなか物分かりのいい自販機だな。ご丁寧にレモンスカッシュまで売ってやがる」

「ボクはコーラがええにゃあ~!」

 さっそく自動販売機に群がる一同。



「ちょっと待て。この自販機、日本円が使えねぇみてぇだぞ」

 オヤジ、忠告する。


「どけや。おれにまかせな」

 オヤジを突き飛ばし、前に出るグレンG。




現金後払いクレジット・ガード』ッ!!


 購入ボタンにタックルをかますグレンG。

 その攻撃を受けた自動販売機は、鈍い音とともに大量の炭酸飲料を吐き出した。

「よし、飲もうぜ!」



「あたしメロンソーダ~」

「アタシ玄米茶」

「ボクはコーラ!」



「おい、ジュース代くらいちゃんと払えや!」

 正統派のツッコミを入れるオヤジ。正論である。


「うるせぇな!! あとでこのジュースメーカーにCMソングでも提供してやればそれでチャラになる。何も問題はねぇさ」

 グレンG、反論する。


「……それもそうだな」

 オヤジ、納得する。

「俺もコーラ一本もらうわ」




 歩道に散らばった缶ジュースを飲みあさるメンバー。

「ぐびぐび」

「ぷは~」

「がぶがぶ」

「うみゃい!」

 どのジュースもちゃんとキンキンに冷えており、味などに問題はなさそうだ。









 ――ガタガタガタッ!! 


【払え……】




「!?」「!?」「!?」「!?」







 ……しかし、その購入方法にはやはり問題があったらしい。

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