第29話 奈緒の父親(from the Otherside)

 

 こうして奈緒たちの長い一日二連続ライブは幕を閉じた――。



 その一方。

 モールの地下駐車場内では、警察たちによる必死の捜索活動が未だに続いていた。


「くそっ! やつらどこへ行きやがった!?」

「もしかして、とっくに巻かれたんじゃないのか?」

「しかもこのエレベーター……壊れているぞ! どういうことなんだ?」

「ご報告致します! 折田おりた検事局長! 場内をくまなく探しましたが、やつらはどこにもいませんでした!」「車の下も探しました!」「車の中にもおりませんでした!」「トランクの中も見ました!」

「お、折田検事局長……ご指示を願います!」

「折田検事局長!」

 ターゲットの不在を全力でアピールしながら指示を仰ぐ警察官たち。




「……………………」

 その後ろで控えていたのは、大柄のワインレッドスーツ、折田

 



 検事とは。

 弁護士の対義語であり、警察と連携して犯罪者に有罪判決を与えるべく法廷で格闘を繰り広げる正義の司法戦士である。

 そのおさである検事局長――『折田おりた六誤郎むつごろう(56)』こそ、殺人未遂の疑いがかかった奈緒の実の父親であった。趣味はタバコとバイオリンである。


「フゥウゥウゥウゥしょうがねぇな」


 辺り一面にタバコの煙を吐き散らす折田。

 法曹界の頂点に立つ男の一服である。



「…………」

 折田の指示を待つ警察官一同。

 駐車場内は禁煙――本来ならば三万円以下の罰金が下されるその行為を、咎められる者は誰一人としていなかった。


「今日はひとまず解散だ。エレベーターの修理業者に連絡を入れておけ」



「わ、わかりました!!」


(よし、今日は定時で帰れるぞ~)

(みんな、ひさびさに焼き肉いこうぜ!)

(おっいいね! 明日ちょうど非番だし)

(やれやれ。俺は興味ねぇし、新作のゲームでも買って帰るかな……)

 業者への連絡を済ませ、勢いよくその場を後にする警察官一同。







「あのじゃじゃ馬娘め……どこへ逃げようが必ず我が家に連れ戻してやる」

 火のついたタバコを握りつぶす折田。

 開いたその拳を見ながら、つぶやく。

「……その前に刑務所か」


 


                        4th LIVE finished.

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