3rd LIVE クロコダイル・ファッション
第18話 全裸少女あらわる(NO-Brand Challenger)
『緊急速報です。たったいま、先ほどお伝えしたアキハバアラ大量虐殺事件の重要参考人として、ノルウェイ=ジャン・フォレスト中島容疑者(25)が逮捕されました。中島容疑者は、「全部俺がやった」と犯行を認めておりますが、警察特捜本部は、今回の事件が一人では実行不可能であると推測し、共犯者がまだ都内に潜伏している可能性を警告しております。また、先日発生したシブヤアの『イヌゴヤーン事件』と同様、現場には血痕が残っておらず、死因は未だ特定できておりません。このことから関係各位は「今世紀最悪の連続殺人事件」と断定し、このふたつの事件の関連性を調べている模様です。なお、これを受けた政府は、事件の拡大を防ぐため国家的武力の行使をも検討しており――』
JDB事務所の会議室に設けられたアナログ・テレビからは、ニュース・キャスター・ガールの切羽詰まったマシンガン・トークが展開されていた。
「ほう……」
デスペラードン・キホーテの専属プロデューサーJDB55は、そのニュース・キャスター・ガールのエキゾチックな透けブラを見ながらコーヒーを口に流し込んでいた。
「
そこへ戻ってきたのは、ライブを終えたばかりの奈緒たちだった。
任務を達成して帰還した奈緒たちを、
「アメイジング。これでアキハバアラの音楽環境は改善に向かうだろう。本当によくやってくれた」
「別にあんたのためにやったわけじゃない。あたしたちは、ただライブを
奈緒がギターを床に置く。
「勘違いしないでちょうだいな。そんなことより、ちょっと疲れちゃったわ」
レイがベースを壁に掛ける。
「さっさとおれたちにもコーヒーだせや」
グレンGが親指を下げる。
「……オーライ」
オヤジ、言葉を飲み込み、三人分のカップを棚から用意する。
「おい、カップが一個足りねぇぞ」
グレンG、すかさず警告。
そう。事務所に戻ってきたのは、三人だけではなかったのだ。
「にゃあ」
三人の後ろから、タオルで全身を包んだ小柄な少女が姿を現した。
「ボクにもコーヒーおくれ~。さむいにゃあ……」
「てめぇは……スコティッシュ・クバリスのボーカル、シャムじゃねぇか。制裁を受けたはずの死刑囚が、どうしてここにいる?」
動揺したオヤジが、コーヒーを床にこぼした。
「この子は新メンバーよ。
「なんだと?」
奈緒はそのまま距離を詰め、勝手にコーヒーを注ぎ始める。
「シャムです。がんばりますにゃあ。お世話になりますにゃあ」
シャムもオヤジを横切り、コーヒーカップを拝借した。
「俺は認めねぇぞ。こんなロリポップなやつを加入したら、お前らのロックの質が落ちちまうじゃねぇか。さっさとつまみ出せ」
オヤジ、憤慨する。
「そ、そんにゃあ……」
シャム、失禁する。
オヤジの辛らつな言葉が、シャムの股間にショックを与えた。
見た目だけで人の音楽性を判断してしまう浅はかな発言に、シャムは傷ついてしまったのだ。
それに対しては、グレンGが黙っていない。
「おい、オヤジ。これを見てもまだそんなことが言えるのか?」
グレンGは、シャムの全身を包んでいたタオルに手を掛け、思いっきり引っ剥がした。
「にゃあ~!?」
身包み剥がされたシャムは、生まれたまんまの姿をさらけだした。
……とは言ったものの、現在、16歳の少女である。
その肌は白々と柔らかく、胸の起伏も始まっている。
つまり、16歳の少女の身体である。
つまるところ、16歳の少女の身体であった。そうなのである。
「ま、まさかお前、そんな状態で、会場からここまで歩いてきたというのか?」
オヤジ、聞く。
床にコーヒーを垂れ流す。
「そうですにゃあ。だって、着替える時間がにゃかったもん」
シャム、答える。
全裸でコーヒーをすする。
「……オーマイガッドネス。なんてロックなやつなんだ」
長年、音楽プロデューサーとして従事してきたオヤジの審美眼は、全裸で夜の大都会を横断してきたシャムの解放的なロックスタイルを、早くも評価し始めていた。
「認めよう。お前の加入を、おれは認めよう」
「別にあんたの許可なんかいらないんだけど」
奈緒がコーヒーを吐き捨てる。
「勘違いボウヤは土に埋めるわよ」
レイがガムシロップを握り絞める。
「そんなことより、次のライブ会場を教えろや!」
グレンGがコーヒーカップを投げつける。
オヤジのサングラスとぶつかってパリン。
「オーケー、オーケー! わかった!」
オヤジ、慌てふためく。
「……もう調べはついているから安心しろ」
オヤジは、すぐにサングラスを直して仕切りなおした。切り替えの早さは業界内でもトップクラスである。
「いまから、次の
そう言ってガラガラとホワイトボードを移動させた。
奈緒たち四人は、会議机に腰を下ろす。
アキハバアラは、まだ夜明け前――。
しかし、奈緒たちのサード・ライブは、早くもその幕を開けようとしていた。
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