第12話 いけないおしゃべり(Talking Girls)

『ホテル・ニャンダーラ』

 アキハバアラの北西部に位置する13階建てのビルディング。キャパシティ2000人規模の巨大コンサートホールを最上階に有する超高級ホテルである。

 今宵、この大舞台で、大人気アニソンバンド『スコティッシュ・クバリス』のイベントライブがおこなわれる。


 

 とろけるような甘さが持ち味の最新アイスクリーム『ハーゲンダンス』を気が狂いそうなくらいに堪能した奈緒たち三人は、このライブに乱入するべく、そのホテルの一階ロビーで、そのときが来るのを待っていた。


「開始予定の九時まであと二時間……さすがに待ち疲れたわ」

 手元の懐中時計を見ながらレイがつぶやいた。

「そうね。ただ待ってるだけっていうのは、ロックじゃない気がする」

 地べたに寝そべってギターの弦を張り替えながら同調する奈緒。


「なあ、もうやっちまわねぇか?」

 グレンGがしびれをきらした。

「やるって、ライブを?」

 レイが相槌を打つ。

「ちげぇよ、ケンカ。敵の小娘三人をあらかじめ沈めておけば、乱入する手間がはぶけるだろ?」

「たしかに、そうすればスムーズにあたしらのライブが始められるかも」

 意気込んだ奈緒がチューニングを始めた。

「アンタ、たまに頭いいわね」

 めずらしくレイがほめる。

「まあな。これでも昔はオックスフォウド大学を目指してた」

 グレンGが誇らしげに答えた。

「……アンタ何歳なわけ?」

「17歳。おまえらと同じ。しってるだろ? いちいち聞くんじゃねぇよ」

「はいはい。ゴメンアソバセ」

 

 こうして先走った三人は、フロントの受付カウンターへと足を運んだ。

 その机には、ひとりの若い受付嬢が座っている。

「ようこそ、ホテル・ニャンダーラへ。お客様のお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」

「デスペラードン・キホーテ」

 三人が口をそろえてバンド名を返した。


「デスペラードン・キホーテ様……? ご予約リストにはありませんね。ご新規でしょうか? 申し訳ありませんが、当ホテルはただいま満室となっており、いまからご案内できるお部屋は」

「ごちゃごちゃうるせぇな。何でもいいから、『シコティッシュなんちゃら』の居場所を吐け」

 グレンGが握りこぶしを見せつける。「ひゃあっ……!?」


「やめな。ロックじゃないよ」

 割って入った奈緒がギターをはじいた。


情報朗詠ガールズ・トーク



 奈緒が鳴らした難解なメロディーコードが、受付嬢の耳を襲う。

 脳に到達したそれは、受付嬢を〝おばかさん〟にした。

「『スコティッシュ・クバリス』様は、306号室でお休みになっております」

 受付嬢が、耳汁を垂らしながら機械のようにしゃべりだす。


「ちっ、手間取らせやがって。最初からそう言やあいいんだよ」

 机を蹴ってエレベーターへと向かうグレンG。

 はっとした女性は、我に返ったような顔で驚いている。


「ごめんね。これアゲル」

 見兼ねたレイが、懐中時計を机に置いてその場を去った。

 それは306万円相当の高級ブランド品であったが、ファッションにうとかった女性は、最後まできょとんとしていた。




 エレベーターに乗り込んだ三人は、ホテルの三階へと向かった。

 ルール無用な奈緒たちの不意打ちが始まる。

 ――が、その一室では、すでによからぬ犯罪が横行していたのであった。

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