第11話 猫の悪事(About the Stray Cats)
「最初のターゲットはこいつらだ!」
猛るオヤジが、バン! とホワイトボードに貼り付けたのは、ネコミミフードをかぶった三人の少女の顔写真だった。
『スコティッシュ・クバリス』
・ギターボーカル――シャム(16)
・ベース――またたび(16)
・ドラム――ノルウェイ=ジャン・フォレスト中島(25)
「この街――アキハバアラを拠点に活動するアニソンバンドだ。急に出てきたかと思いきや、たったの一年で化けやがった。なんとこいつら、今現在放映している朝アニメの主題歌を独占している。最近の朝アニメは、すべてこいつらの歌でおっぱじまっちまっているんだ。事件だろ」
「なんですって?」
奈緒が思わず机を揺らした。
幼いころに見ていたテレビアニメ『美少女航海士セイラー・ムウン』の主題歌の担当を夢見ていた時期もあるがゆえ、羨む気持ちを抑えられない。
「アニメ主題歌の独占なんて、もともと無名だった若造ができる芸当じゃねぇ。そんで、探りを入れてみたらびっくらこいた。こいつら、裏でとんでもないことしてやがったのさ」
「もしかして、枕営業ってやつ?」
フーセンガムを膨らませながらレイが質問した。
「いや、マクラじゃねぇ。
「なにそれ?」
「強盗や恐喝の一種だ。
「……よくわからないわね」
言いながら、フーセンガムを破裂させた。
「わからなくていい。とにかく、こいつらは関係者をだましてアニメ主題歌の担当をむりやりもぎとってやがるのさ。アニメ主題歌の肩書きさえつきゃあ、その曲は飛ぶように売れる。それがどんなに薄っぺらい音楽であってもな」
そう続けたオヤジが、テレビのリモコンを殴りつけた。
『♪まじかるにゃんにゃん! まじかるにゃんにゃん! まじかるにゃんにゃん! まじかるにゃんにゃん!』
パッとついたテレビの中では、ちょうどよく始まった朝アニメ『魔法少女まじかるニャン子』のオープニングテーマソングが元気いっぱいに流れていた。
それを耳にしたグレンGが、すぐさまパイプ椅子を叩き割る。
「なんだこの情けねぇグルーヴは!? あからさまな駄曲じゃねぇか!」
「これでもうわかっただろ? 『スコティッシュ・クバリス』は、実力不相応の薄っぺら紙きれバンドだ。今夜、近隣の高級ホテルでこいつらのイベントライブが開催される。そこでお前らがこいつらの違法行為を告発すれば、こいつらの人気はガタ落ちするはずだ。やってくれるな?」
「いやだ」
奈緒が反発した。
「告発とか、陰湿すぎ。ばっかじゃないの?」
「ロックじゃないわね」
レイが続く。
「てめぇでやれよ」
グレンGが机を蹴り飛ばす。
「……わかった。言い直そう。こいつらのライブに乱入して、めちゃくちゃに暴れてきてくれ」
「オーライ」
三人が親指を立てた。
「これで話はついただろ? さっさとアイス買ってこいや。ダースでな」
忘れずにグレンGがつけくわえる。
「……オーライ」
テレビを消したオヤジは、勢いよくコンビニへと駆け出した。
既に受付の女性が業者に発注済みであったことを知らずに。
――かくして、三人の
『スコティッシュ・クバリス』
ジャンル:アニメソング、アイドルポップ
罪状:強盗・恐喝
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