2nd LIVE アイドルバンドの美神曲
第10話 制裁、はじまる。(Starting Over)
『――次のニュースです。昨夜未明、東京都シブヤア区・歌川町にあるライブハウス『イヌゴヤーン』で、関係者を含む96名の男女が遺体となって発見されました。現場には一滴も血が流れておらず、今のところ原因はわかっておりません。この事態を深刻に受けとめた警察は、対策本部を立ち上げて今現在捜査を進めており――』
「…………」「…………」「…………」
安っぽい中古電気屋のショーウインドーに羅列されたテレビ群を横目に、奈緒たち三人は東京都アキハバアラの街を堂々と歩いていた。
奈緒はギターをミニスカートとホワイトパンティの間に突っ込んでおり、レイはベースを裸(※ケースに入れていない状態)で抱きかかえている。グレンGは手ブラである。
連休初日の清々しい朝にもかかわらず彼女たちが向かっていたのは、アキハバアラの中心にそびえ立つ巨大オフィスビル『キリン・ビル』であった。
その69階に事務所をかまえる音楽プロデューサー『
そんなものは無視してもよかったのだが、新発売のアイスクリームをおごってもらうという確約のもと、彼女たちはしぶしぶ足を運んでいる次第である。「ねむい」
☆☆☆☆☆
永遠に続くかのような長ったらしいエレベーターの待ち時間を乗り越え、三人はJDB事務所の
「いらっしゃいませ。ご用件は?」
受付の女性が丁寧に応対する。
「どきな」
奈緒が舌打ちで対応した。
「どいてちょうだいな」
レイが髪をかき上げる。
「どけよ。きこえなかったのか?」
グレンGが中指を立てる。
すぐさま110番のボタンに手を掛ける受付嬢。
するとサングラスをかけたオヤジが、奥のドアからナリのいいスーツ姿を見せた。「よう、こっちだ。入れや」
☆☆☆☆☆
奥へ進み、中に入ると、そこは白い部屋だった。
会議机とテレビ、ホワイトボード。
大きな窓からは、アキハバアラの賑やかな街並みが一望できる。
「とりあえずアイスだせや」
そんな絶景などには目もくれず、グレンGが要求した。
「まあ座れや」
負けじとオヤジが諭した。
「…………」「…………」「…………」
三人は、それを無視して突っ立ったまま落ち着いている。
「もういい。本題に入ろう」
あきらめたオヤジが話を始めた。
「これからお前らには、うちの所属アーティストとして動いてもらう」
「うるせぇよ」
グレンGが反発した。
「うるさいわね」
レイが同調する。
「あたしたち、カネがほしいわけじゃないんだけど」
奈緒が床につばを吐いた。
「そうか。じゃあ聞こう。おまえらの目的はなんだ?」
オヤジが聞くと、
『この世の中をぶちこわす』
三人が口をそろえた。
「奇遇だな。俺もだよ」
オヤジがサングラスを直した。
そう。この男、奈緒たちと利害が一致しているのだ。
「俺は、この現代の生なるい音楽シーンに制裁を与えるために生まれてきたと言っても過言ではない」淡々とオヤジが続ける。
「知ってのとおり、いま、音楽業界は不況だ。音楽がデータに成り下がって
首を横に振ったあと、まっすぐに奈緒たちを見る。
「しかしおまえらのロックは、まったく媚びてねぇ。音楽を愛する者のロックだった。正直、感動したよ。ブラボー、ファンタスティック」
その言葉を聞いた三人は、無言で楽器を置き、ゆっくりと会議机に腰を下ろした。
「もう一度本筋を話す。いま、音楽業界は大不況だ。世のバンドたちは、なんとかのし上がろうとあの手この手を使って自らを売り込んできやがる。そこはほとんど無法地帯――――つまりだ。おめぇらには、全国にはびこる違法バンドに制裁を与える活動をしてもらいたい」
「……あたしらにケーサツみたいなことをやれってこと?」奈緒が聞いた。
「ああそうだ。そうすれば現代の音楽シーンは救われる。おれはただ、健全に音楽を楽しみたいだけなのさ」
そう言ってオヤジがサングラスをはずした。
「あんた、その
その目はスマホのやりすぎで老眼を患っており、茶色くよどんではいるものの、たしかに音楽を愛するもののそれであった。少なくとも、奈緒たちの目にはそう映った。
「やってくれるかあい?」
「イエス」
「ウィー」
「キャン」
こうして制裁の日々がはじまった。
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