第15話 a boy meets a girl

 退屈な事件をいくつも解決していたカクヨだった。

 そしてカクヨは今日もカクヨ研究所の一室でハンモックにゆられていた。

「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」

 またハンモックをゆらした。

「こういうときにはクヨム君が、入り口をバン!って」

 そう言って入り口を見た。

 バン!

「博士! 事件です!」

「キタキターーーーーーーーー!」

 カクヨはハンモックから降りるのももどかしく、転げ落ちた。

「イタタタ……」

「博士! 大丈夫ですか?」

「だ、だいじょぶ」

 赤くなった額と頬と肘を撫でながらカクヨは答えた。

「それで、クヨムくん。事件というのは!?」

 立ち上がり伸びでもするように精一杯体を伸ばし、腕を組んで訊ねた。

「はい、博士。前回、博士が言ったことをよく考えてみたんですが」

「言ったことですか?」

「なんかいろいろな意味で穏便でないところを」

「あぁ、あれですかぁ」

「はい。その中にボーイ・ミーツ・ガールとかが入ってなかった気がするんですが。博士もやっぱり女の子ということですか?」

「あ〜。いいところに気が付きましたねぇ」

 カクヨは右手の人差し指で、クヨムを下から指差した。

「あ、それって、博士とぼくっていうこととか……」

 クヨムは天井を見上げてから言葉をつづけた。

「違うなぁ」

「はい。もちろん違います。そんなものを読んだり書いたりしている暇があったら、勉強した方がましだからです」

「あ、あの、博士。そういうこと言っていいんですか?」

「何がですか?」

 クヨムは周りを見回してから答えた。

「え〜と。ほら、博士って一応ここでは美少女の代表だし」

「ここではってなんですか?」

「あ、そこは無視してください。世の少年少女にとってはすごく大切なことだと思うんですよ」

「そうですねぇ。生殖に適してたり、発情してたりですねぇ」

「あの、ここでは博士は妙齢にすら達していない美少女なんですから、少し言葉を……」

「ここではってなんですか?」

「あ、ですからそこは無視してください。博士はそういうことどう考えてるのかなぁと思って」

「さっきもいいましたけど、勉強してた方がましです。そういうのはなるようになります」

 クヨムはもう一度天井を見上げてから言った。

「え〜と。もしですよ。グーはなしですからね? もしぼくと博士がそういうことになったらどうします?」

「年の差も考えずに大胆なことをいいますね? クヨム君のY染色体くらいはもらってやってもいいですよ?」

「は、博士、そういう際どいことは。ここでは博士は美少女の代表で……」

「まったく、ここではってなんなんですか?」

「あ、そこは重ねていいますが無視してください」

「クヨム君、カクヨは女の子ですからY染色体を持っていません。だから、そういう気になったら、クヨム君のY染色体を手に入れて、カクヨの理想の男性をつくります」

「あぁ…… そういう気になったらっていうのが、前を受けてのことなのか、ぼくのY染色体ってとこなのかが気にはなりますが。まぁ、そうですよね。クローンつくれてるんですし」

「はい。だから、そんなものを読んだり書いたりしている時間があったら勉強した方がマシです。まぁ、聞いとけばよかったかなって思わないでもないですけど」

「聞いとけばって誰にですか?」

「そこは無視してください。まぁあんまり悪い関係でもなかったようですよ?」

「誰がですか?」

「そこも無視してください」

「はぁ…… いや、博士とどうこうというわけじゃないですけど。ここではメインキャラクターは博士とぼくなわけで。あぁ! そういうことより、やらなきゃならないことがある! ふふふ。博士、今に目にモノを見せてやりますよ」

 今度はカクヨが天井を見上げてから言った。

「あぁ! なるほど〜。クヨム君、それ結構むずかしいみたいですよ。おじさんになってました」

「誰がおじさんなんですか?」

「そこも無視してください。あとですね、クヨム君も博士ですよね?」

「そう言えばそうですね」

「なのに私を博士って呼ぶっていうのは、劣等感かなんかからですか?」

「え? あれ? 考えたことなかったです。そうだ。ぼくも博士なんだから、きっとできる。ふふふ。博士、じゃなくてカクヨちゃん、今に驚かせますからね」

 そう言ってクヨムは部屋から出て行った。

「博士、じゃなくてカクヨちゃん、今に驚かせますからねかぁ。自分も博士だって自覚して、ブレてるなぁ」

 そういうと、カクヨは小さな脚立からハンモックに乗って寝転んだ。

 そしてカクヨは呟いた。

「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」



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