第10話複製人間
退屈な事件をいくつも解決していたカクヨだった。
そしてカクヨは今日もカクヨ研究所の一室でハンモックにゆられていた。
「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」
またハンモックをゆらした。
「こういうときにはクヨム君が、入り口をバン!って」
そう言って入り口を見た。
バン!
「博士! 事件です!」
「キタキターーーーーーーーー!」
カクヨはハンモックから降りるのももどかしく、転げ落ちた。
「イタタタ……」
「博士! 大丈夫ですか?」
「だ、だいじょぶ」
赤くなった額と頬と肘を撫でながらカクヨは答えた。
「それで、クヨムくん。事件というのは!?」
立ち上がり伸びでもするように精一杯体を伸ばし、腕を組んで訪ねた。
「はい、博士。こちらの方です」
そう言って、入り口の外から二人の女性を迎え入れた。
「なるほど〜。テレポーテーション実験で二人になってしまったと」
「はい」
ソファーで四人は話していた。
「それで、どういう検査においても、二人を区別することはできないと」
「はい」
「送信側にどちらが入っていたのかもわからないと」
「はい。気を失っていたり混乱もあったりで……」
「なるほどなるほど。それで、本物の一人に戻りたいと」
「はい」
「なるほどなるほど〜〜〜〜。なら話は簡単ですね〜」
「は、博士〜、穏便に、穏便に」
何かを察したクヨムは両手をカクヨに向けて、なんとかおさえようとした。
カクヨは机に行き、6面ダイスを二個持ってきた。
「これで大きい数を出したほうが残るってことでいいですよね?」
「博士〜〜〜〜〜〜〜」
クヨムは涙声で言った。
二人の女性もそれに同意はできないようだった。
「う〜〜ん。そっか〜〜。区別がつかないんだから、どっちでもかまわないと思うんだけどなぁ」
「お願いですから、穏便にお願いしますよぉ」
クヨムはもう泣いていた。
「わかりました」
そう言って冷蔵庫からペットボトルを取り出し、それを二つのカップに注いだ。それからカクヨは部屋の片隅でなにやらやって、そしてソファーのところに戻ってきた。
「これ、飲んでください。違いがあれば、それがはっきりします」
「こ、これ、だ、大丈夫なんですよね?」
「もちろん! 冷蔵庫に変なものなんか入れておきませんよぉ」
二人の女性は目配せをしながらも、カップの中身を飲み干した。
「一晩くらいすると、ちゃんとわかるはずです。できれば同衾していただけるとよろしいかと」
カクヨはそう言い、二人に帰ってもらった。
「は、博士〜〜〜、本当に大丈夫なんでしょうね……」
「大丈夫、大丈夫」
翌朝、カクヨがまだ寝ていると、クヨムが飛び込んできた。
「博士! 起きてください!」
「う〜〜ん。あと42分」
「何を半端な数を言っているんですか!?」
クヨムがついカクヨの肩をゆすると、カクヨはハンモックから転げ落ちた。
「イタタタ……」
「す、すいません!」
「だ、だいじょぶ。それで?」
赤くなった額と頬と肘を撫でながらカクヨは答えた。
「あ、昨日のお二人ですが、一人になったそうです」
「よかったじゃない」
「それが…… どっちの私だったのか教えてくれって」
「あ〜、それはわかんないです。量子もつれの結果で、片方を分解しただけですから」
「ぶん…かい…? 博士〜〜〜〜〜〜〜。カップに注いだの、やっぱりそういうのだったんですかぁぁぁぁぁ!」
「うん」
カクヨは小首をかしげた。
「博士〜〜〜。お、お願いですから…… 穏便にって意味わかりますかぁぁぁぁぁ!!」
「なによ、解決したんだからいいでしょ。そういう後ろ向きなとこがクヨムくんの悪いとこだよね〜」
そういうと、カクヨは小さな脚立からハンモックに乗って寝転んだ。
そしてカクヨは呟いた。
「あ〜ぁ、退屈。なにかおきないかな〜」
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