後日談3 聖なる夜に祝福を(3)
エプリクスは、城下町の手前へ着陸しました。
「あっという間だったわね」
「やっぱり高いところは苦手だぜ……」
レド様は、震える足でエプリクスが運んできた馬車を引っ張っていきました。
蛇行していますけど大丈夫なんでしょうか。
「クルスは高いところ大丈夫だったの?」
「まあ、少しは馴れたかな……怖いけど」
「あー」
そんなクルスとは違って、フィルは高いところが楽しかったみたいです。
こういうところは、きっと私に似たのでしょう。
『では、そろそろ行くか。タースよ』
『はーい。 ……じゃあ、リズ姉ちゃん!』
「あなた達にこうして再び会えたことが、私にとって何よりのクリスマスプレゼントだったわ。ありがとう、
『ああ、わかった。それでは達者でな、ずっと見守っているぞ』
タースを乗せ、再び空へと飛び立つエプリクス。
その姿がだんだんと見えなくなっていく。
素敵なプレゼントをありがとう、私の大好きな精霊達────。
◆◇◆◇
「メアリ様、これを」
私は、メアリ様に魔力の詰まった石を手渡しました。
「それって……本当に良いの? これさえあれば、リズちゃんのお父さんやお母さんだって……」
「一度だけと言うのなら……何のため、誰のために使うかなんて始めから決まってます。それに、私はディア様にも幸せになってほしいんです」
「そう……。じゃあ、遠慮なく使わせてもらうね!」
「いったい何のこと?」
メアリ様と話していると、ディア様もこちらにやってきました。
神様から思いがけずやってきた、最高のクリスマスプレゼント。
みんな思いは同じのようです。
「ディア様、ずっと頑張ってきたあなたに、あたし達から最高のクリスマスプレゼントをご用意いたします」
「私が頑張って来られたのは、あなた達がいてくれたから……」
「あなたはもう、報われていいんですよ」
「えっ……?」
「さあ、行きましょう!」
メアリ様を先頭に、向かう先はアステア国の英霊達が眠る墓地。
雪はしんしんと降り注ぎ、辺りはすっかり雪景色になっていました。
雪帽子をかぶったロデオ様の墓石を、そっと優しく撫でるディア様。
「こんな時間にここへ連れてきてどうするの?」
「ふふっ……ディア様はそちらで見ていてください」
メアリ様は、ロデオ様の墓石に神様からもらった石をそっと置きました。
淡い光を湛えた石が、暗闇の中、独特の存在感を放っています。
それから、メアリ様の長い魔法の詠唱が始まりました。
その長さは、高等魔法の詠唱どころの長さではありません。
何か別の、儀式に近いような、そんな長い長い詠唱が続きます。
禁術と呼ばれるほどの術式はとても難解で、石があるとはいえ少しのミスも許されないのでしょう。
これほど冷えた外気を受けながらも、メアリ様の額からは汗が滴り落ちています。
この方が、この瞬間、このアステア国にいてくれたことすら奇跡だったかのように思えます。
この方の魔法における実力は、世界でもトップクラスと言っても過言ではありません。
神様から授かった石だけでは、恐らくこの奇跡は起こらなかった。
「────【ミリューガ・ビオス・クロノス・デオ リザレクション】」
長い詠唱が終わり、ついに放たれる禁断の魔術。
その瞬間、まるで昼間のような眩い光に辺りが包まれていく。
目も眩むほどの光の中、私達はそこに人の影が形成されて行くのを見ました。
何かが砕ける音が響き、神様の魔力を宿した石はその役目を終えたようです。
やがて光が静まり、墓石の周りの雪は解け、そこには懐かしい人の姿が────
「嘘…………。 そんな……嘘でしょ…………?」
その人物の閉じられていた目が開き、ディア様を真っすぐ見つめました。
そして、
「ディア様……どうやら私は……あなたのもとへ帰って来られたようです」
次の瞬間、ディア様はロデオ様の胸に飛び込んでいました。
泣きじゃくるディア様。そして、ディア様を抱き締めるロデオ様。
「ロデオさん、おかえり」
「ロデオ様、おかえりなさい」
「クルス、リズ……! 二人とも立派になったな!」
「あんたが死んで何年経ったと思ってるんだよ!」
「すまんな……苦労を掛けた」
良かった……ディア様、ずっとロデオ様を想い続けていましたもんね。
本来であれば、死者を甦らせるなど許される行為では無いと思います。
ですが、今回は神様からのお墨付きです。
何も気に病む必要はありません。
「メアリ、お前も良くディア様を守ってくれたな……ちゃんと見てたぞ」
「……首無かったのに?」
「あれは……無かったもんは仕方無いだろ!」
お二人の掛け合いを見ていると、なんだかホッとしてしまいます。
あの頃のまま、優しくも頼もしいロデオ様が本当に帰ってこられたんだと……。
真夜中の冬の墓所だというのに、そこには確かに暖かな空気が流れていました。
────そして、アステア国に新しい朝が来ました。
「メアリ様、あれだけの魔法を使ってお体の方は大丈夫なんですか?」
「あの石のおかげだね。あたしの魔力はほとんど消費しなかったよ」
メアリ様は早速秘書の仕事に取り掛かっていました。
内容は主に、諸国から送られてきているディア様の縁談の整理ですけど。
「たぶん、ロデオさんが王様になるんだよね……そうなったらもう、ロデオさんだなんて言えないなぁ」
そう言いながらも嬉しそうなメアリ様。
時折鼻歌交じりで仕事をされています。
「リズちゃん、こっちの仕事はいいから、早くフィル君連れて帰ってあげないと」
「ほんとすみません。こんな忙しい時に育児休暇なんて」
「困った時はお互い様だし、いつかあたしも頼むかもしれないからね」
「ふふっ、そうですね」
私は知ってます。
メアリ様は、ディア様に遠慮して恋愛ごとは避けられていたんですよね。
いよいよそれが解禁された中、この方を射止めるのは果たして……。
これは予感ですけど、そう遠くないうちに幸せなメアリ様を見られそうな気がします。
────────
────
──
「本当に……私でいいのですか?」
「あなた以外に、この国の王が務まるとは思えないわ」
「いや、でも……私はただの騎士ですし……」
「あなたじゃなきゃ嫌なの!」
私はロデオに抱き付いた。
あの頃は遠くに感じていたけど、今ではとても近くに感じることができる。
あなたが死んでいる間に……なんだか年齢もだいぶ近くなっちゃったけど。
「あの、ディア様……」
「どうかしたの?」
「何だか……気のせいかな? とても逞しくなられたようで……ちょっと硬いなって……」
「……あなたの横に立ちたくて頑張ったのにっ!」
「グハッ!」
ロデオの思いがけない言葉に、ついグーでロデオの顔をはたいてしまった。
……大丈夫だったかしら? 生き返ったばかりだというのに、私ったら何ということを……。
「つ……強くなりましたね、ディア様……」
「ロデオ……ごめんね。でも、あなたがあまりにデリカシーの無いことを言うものだから……」
私は彼の頬を撫でるふりをして、そっとヒーリングの魔法を掛けた。
「あなたは……私じゃ嫌?」
「そんな、とんでもない……!」
「私を愛してくれる?」
「えっ!? いや……もちろん! そりゃもう愛します!」
「良かった。じゃあ、誓って」
ロデオは、再び私を抱きしめてくれた。
そして、待ちわびたあの言葉をささやいてくれた。
『いつでも──あなたの傍に────』
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