後日談2 聖なる夜に祝福を(2)

 クリスマス当日。

 私達は、コルン王国に来ています。


 シリウス様に色々と調べていただいたおかげで、クリスマスがどういうものなのかを知ることができました。

 西の国に代々伝わってきた文化で、詳しい発祥まではわからなかったそうですが、どうやらクリスマスとはとある偉人の誕生日を祝うものだそうです。

 それとサンタクロースなる人物がなぜ繋がるのかはわからないままですが、中央大陸にも独自の文化は残っていますし、そういうものだと割り切ることにしましょう。


 もう一つ、必要なものはトナカイという動物。


 聞き慣れない名前ですが、こちらは鹿の仲間だそうです。

 こちらも残念ながらこの地域には生息していません。

 北の大地には少数生息しているそうですが、もともと西の国でもなんらかの動物で代用していたくらいで、サンタクロースに比べればそれほど重要なものでは無いそうです。


 たまたまコルンに訪れていたデミアント達に話したところ、なんと彼らがトナカイの代役を引き受けてくれることになりました。

 茶色いモコモコした着ぐるみを着たデミアント。

 とっても可愛らしいんですけど、足が二本多いのは仕方無いところです。


「────で、なんでわしがサンタクロースの役なんだ?」

「王以外に適任がおらんかったのです」

「白い髭だけなら、わしじゃなくてお前でも良かったろうに……」


 果たして、一国の王にあんな格好させて良いのでしょうか……ともかく、これでサンタクロースの準備はできました。

 あとは、王がタイミングを見計らって孤児院の煙突から侵入するだけです。

 ……本当に王様にこんな役を押し付けちゃってもいいの?


「フィル君、メアリお姉ちゃんでちゅよー」

「めあいー」


 メアリ様はフィルのほっぺをプニプニしています。

 赤ちゃんのほっぺたって柔らかいですもんね。

 私もしょっちゅうプニプニしてます。


「やっぱり赤ちゃんっていいなー。あたしもそろそろ結婚しちゃおっかな」

「め、メアリさん!? どなたか意中の相手でも!?」

「いるわけないっしょ。まー、あたしの理想にかなう男なんてそうそう居ないけどね。どこかに良い人いないかなー」


 それを聞いたエゴイ様はホッとしたようなガッカリしたような、複雑な表情を浮かべています。

 私でもわかるくらいだから、メアリ様が気付かないわけないのに……意地悪さんなんですね。


「まーまー」

「どうしたの? フィル」


 フィルがギュッと抱き付いてきました。

 なんでしょう? 甘えたいだけかな?


「お腹でも空いたんじゃないのか?」

「さっきあげたばかりなんだけど?」


 クルスが頭を撫でていると、フィルは急に険しい顔をし始めました。

 そして、力が抜けたような表情……。


「すみません、オムツ替えてきます!」

「大変そうね……いってらっしゃい」


 子育てって、本当に大変です。


◆◇◆◇


「さあ、みんな! お歌を歌いましょうね~!」


 シェリーの合図で、子供達は一斉に歌い出しました。

 初めて聴く歌ですが、これがクリスマスに歌う歌なのだそうです。


「こんなことして、本当にサンタなんて来るのかよ」

「来るよー! 今年こそ絶対来るってマザーが言ったもん!」


 ええ、今年はサンタさん来てくれますよ。

 今頃、煙突の上でスタンバイしてくださっているはずです……コルン王が。


━・━・━・━・


「なあ……本当に行くの?」

「ええ」

「わしが?」

「もちろんです」


・━・━・━・━


 コルン王には、エゴイ様が風の魔法を掛けてくださっています。

 これで万が一煙突から落下しても安全なはずです。


 まずはデミアントがトナカイの恰好で飛び込みます。

 それに続いて、サンタの格好に扮したコルン王が飛び込むことになっています。

 サンタとトナカイの姿を見た時の子供達の喜ぶ顔が目に浮かびますね。


「それじゃあ、みんなでお料理を運びましょうね! 良い子にしてないと、サンタさん来てくれないよ!」

「「「はーい!」」」


 今日はクリスマスということもあってお料理も豪華です。年に一度のお祝いごとですもんね。

 材料もコックも、ディア様が用意してくださりました。


「私も手伝うわ」

「そんな、ディア様……恐れ多いです!」

「良い子にしてないと、サンタさん来てくれないんでしょ? ふふっ……」


 そう言って、ディア様も料理を運び始めてしまいました。

 各国の王が率先して動いているこの光景、このこと自体がとんでもないプレゼントだとこの子達が気付くのはいつぐらいになってからなのでしょうね。


 大きなクリスマスケーキは私ががんばって作りました。

 ちょっと大きく作り過ぎたかな? と思ったけど、育ち盛りの子供達ならこのくらいすぐに食べちゃうかな?


「わー、これ凄い!」

「赤い服着てる! これってサンタさん!?」


 子供達はケーキの装飾に興味津々です。

 ちゃんと食べられる材料で作っていますので、上手にみんなで分けてくださいね。


 料理も配置し終わって、一斉にみんな食べ始めました。

 初めて食べるその味に、子供達は大喜びです。


 それを見たマザーもシェリーも、ディア様もメアリ様達もみんな笑顔です。

 ちゃんと王様たちの分は、別に取ってありますのでご安心ください。


◇◆◇◆


 美味しい料理も食べ終わり、いよいよサンタクロースの登場です。

 暖炉を見ていると、そこにデミアント達が突入してきました。


「あ、アリさんだー!」

「アリさん可愛いね!」


 子供達はデミアント達に駆け寄りました。

 デミアント達も、子供達を触覚でぽんぽんと撫でています。


 あれ? ……コルン王はまだかしら?


「だ、誰か……っ!」


 クルスと私が暖炉を覗きこむと、そこには宙吊りになっているサンタの姿が。


「袋が……袋が引っ掛かっておるのだ!」」

「大変だ!」

「王様、そっと下ろしますからまずは袋から手を放して下さい!」

「わしは今、サンタなのだ! 王とは呼ぶな!」


 なんとか王……じゃなかった、サンタクロースを救出。

 袋の中がパンパンです。ちょっと気合い入れ過ぎじゃないですか?


「良い子のみんな! メリークリスマス!」


 コルン王は今更のように元気いっぱい振舞っていました。

 ちょっと痛々しい……。


「王様だー!」

「違う、わしはサンタだ!」

「王様だよー」

「王様ありがとー」

「王様、大好きー」

「こ、これ……プレゼントをやるからきちんと並ばんか」

「王様ー、抱っこしてー!」


 サンタの王様は大人気です。

 すぐに正体はばれてしまいましたけど、子供達に囲まれてコルン王も満更ではない様子。


「なあ、リズ」

「ん?」

「本当に、王様にこんなことさせて良かったのか?」

「今更そんなこと言われても……。でも、いいんじゃない? 今日はクリスマスだもの」


 子供達と楽しそうに過ごすコルン王。

 クリスマスって素敵ですね。

 ほら、みんながこんなに笑顔になれるんですもの。


 こうして、孤児院で開かれたクリスマスパーティーは、大盛況のまま終わりを迎えました。


◇◆◇◆


「さて、僕達も帰ろうか」

「そうね」


 フィルもすっかり寝てしまいました。

 孤児院の子供達も寝る時間ですし、私達もアステア国へ帰りましょう。


「では、行きましょうか。ディア様」

「ええ」

「本当に皆様、ありがとうございました」


 マザーとシェリーが深々と頭を下げました。


「親が居なくても、健気に生きる子供達か……。 この子らは、国の宝だな」


 サンタの格好をしたまま、コルン王は子供達を優しい目で見ていました。


「マザーよ。支援が必要な時はいつでも訪ねてくれ」

「ありがとうございます。王様……」


◆◇◆◇


 孤児院を出た私達はコルン王達と別れ、私達は馬車に乗り込みました。


「あら、冷えると思ったら珍しい」


 ディア様がカーテンを開けると、空からは雪が舞い下りていました。

 中央大陸では滅多に目にかかれない光景です。


『リズ────』


 ……え?


『リズよ────』


 今度ははっきり聞こえました。

 この声は──そんな……まさか?


「エプリクス……あなたなの!? あいたっ……!」


 馬車の中で立ち上がった拍子に頭をぶつけてしまいました。


「エプリクスだって!?」

「うん、エプリクスが私を呼んでるみたいなの!」

「レドさん、ちょっと馬車停めて!」

「おお……!? わ、わかった!」


 馬車から下り、私は声が聞こえた方の空を見上げました。

 すると、上空からこちらへと向かう巨大な深紅のドラゴンの姿が──。


「エプリクス!」

『リズよ、捜したぞ!』

『リズ姉ちゃん!』

「タース! あなたまで!?」


 こんなことって……もう会えないと思っていた、二人の精霊達。

 クリスマスに奇跡が起きるというのは、本当のことだったんだ。


「エプリクス、タース、会いたかった……」

『我もだぞ、リズ……』

『僕だって!』


 二人とも元気そうで良かった。

 他の精霊達はお留守番ということで残念でしたけど、みんな元気みたいで何よりです。

 ふと目を覚ましたフィルが、二人の精霊を不思議そうにジッと見つめていました。


『リズよ。今日は神のヤツが、お前に届けてくれというものを持ってきたのだ』

「フォス神が?」


 エプリクスは、私に綺麗な色を放つ石を渡してくれました。


「これは? 精霊石じゃ無さそうだけど」

『神の魔力が詰まった石だそうだ。あいつなりに考えて用意した、お前達へのクリスマスプレゼントだと言っていたぞ』

「あたし達がクリスマスパーティーを開いているのを知っていたのね。神様も粋なことをしてくれるじゃない」


 魔力の詰まった石は、精霊石のようにも見えます。

 でも、この石は何かを呼び出したりするものではなさそうですね。


『使えるのは一回きりだそうだ。一度だけ、どんな魔法の魔力をもそれで補うことができる』

「どんな魔法も……? それって──!」


 メアリ様の方を見ると、それがどういうことか気付いてくださったみたいです。


『自分の為に使うか、他の誰かの為に使うか……それは、お前自身が自由に選ぶと良い』

「うん……」

『ところで、それは……リズとクルスの子か?』

「ええ、フィルって言うの。抱いてあげて」

『我が? 大丈夫かな……ツメとか』


 エプリクスは、恐る恐るフィルを抱きあげました。

 そんなエプリクスとは真逆に、フィルは笑顔で喜んでいます。

 エプリクスの優しさが、あの子にはわかるのでしょうね。


『リズ姉ちゃん、僕も抱っこしていい?』

「もちろんよ、タース」


 エプリクスからフィルを受け取り、タースはそっとフィルを抱きました。


『ちっちゃいね……』

「まだ赤ちゃんだもの。私もタースもみんなこうだったのよ。きっと、エプリクスだって」

『我はもっとキュートだったと思うぞ』

「それは無いだろ」


 いつの間にか馬車から出てきたクルスがエプリクスに突っ込みを入れました。


『なんだか、僕も子供の頃を思い出しちゃうな……』

『お前は今も子供のままではないか』


 二人の精霊に囲まれ、フィルはずっと大喜び。


 フィルの髪の毛の色は生まれつき赤色でした。

 先祖がえりとでも言うのでしょうか……この子は、私には発現しなかったメディマム族の特徴を色濃く受け継いでいました。

 そのことが、余計にタースには懐かしく思えるのでしょう。


『さあ、奇跡を起こしに行こうぞ』

『みんな、エプリクスの背中に乗って!』

「今からか!? おいおい、馬車はどうすんだよ!」

「レドさんが運んで行って」

『馬車なら我が抱えて持って行くぞ』


 しんしんと降る雪の中、火を司るドラゴンはみんなを乗せ、アステア国へ向けて飛び立ちました。

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