最終話 それからのこと……

 あれから数年が経ちました。

 私は今、アステア国で王室の秘書として働いています。


 コルン王国を始めとした諸国の助けもあって、アステア国は無事に復興することができました。

 アステア国の頂点に立つのは、もちろん女王であるディア様です。


 元々お綺麗な方でしたが、最近ではより一層美しさに磨きが掛かり、今日も各国からの縁談が沢山届いています。

 でも、ディア様は、どんなに良い話が来ても「断っておいて」と全く相手にする様子がありません。


 お気持ちはお察ししますが、ここままでは別の意味で国が滅びてしまうと、ご年配の方々も心配されています。

 どなたか、ディア様の心を動かすような良い方が見つかるといいのですけど……。


 さてと……お仕事もひと段落しましたし、皆さんがどうされているのか、ちょっとだけ覗きに行きましょうか。



◆◇◆◇



「エゴイ君、いい加減高等魔法くらい覚えなさいよ」

「無理ですよー。僕なんかが、上級まで使いこなせるようになっただけでも奇跡なんですから……」

「あんたはそうやって、すぐ諦めるね。いいわ、あたしがみっちり教えてあげるから!」

「そ、それって、手取り足取りですか!?」

「エゴイ君……やっぱあんたエロイ君だわ……」


 メアリ様は、宮廷魔道士の副長に就任しました。

 ディア様は魔道士長になってほしかったとおっしゃっていますが、自由が減るから嫌だーと言って断ってしまったそうです。

 メアリ様らしいと言えばメアリ様らしいですけどね。

 本当は副長になるのも嫌だったそうです。


 そして、その隣に居るメアリ様に怒られている男性。

 彼が、この国の魔道士長です。

 エゴイ様はコルン王国で宮廷魔道士をされていた方で、ご本人曰く、実戦よりも研究の方が得意なのだそう。


 アステア国にはそもそも魔道士が居なかったので、コルン王国から数名の方に来ていただくことになりました。

 エゴイ様もその一人で、宮廷魔道士設立の際にメアリ様に押し付けられるように魔道士長にされてしまったせいで、気苦労の絶えない毎日を送られています。


「それよりも、凄いのよ!」

「何がです?」

「魔王が滅んでから、闇の属性魔法にも【デオ】の加護が付くようになったの!」

「それってつまり……?」

「禁術も安全に使えるようになるかもしれない!」


 禁術とか、何やら物騒なこと言ってますね……。


「メアリさん、一体何を企んでるんですか……?」

「ふっふっふ……とっても良いことよ! 見てなさい! メアリ様の辞書に不可能は無いってところを見せてやるわ!」


 ここは、いつ来ても賑やかです。

 メアリ様とエゴイ様のコンビ、私は結構好きだったりします。

 だって、二人とも見ていて面白いんだもの。

 メアリ様も、彼と話す時はなんだかんだ言っても嬉しそうにしてるんですよね。


 ……ああ、でも、ちゃんとお仕事はして下さいね?



◇◆◇◆



「斧を振る時は重さも利用するんだッ!」

「「「オッスッ!」」」

「流れに逆らうんじゃねえッ!」

「「「オッスッ!」」」


 アステア国の兵士長に就任したレド様。

 今日も屈強な体をした兵士達に、斧を使った訓練をしているようです。


 兵士と言えば槍か剣を武器に戦うイメージがあったんですけど、レド様が兵士長になってから斧が主流になってしまいました。

 レド様いわく、“斧は防御にも攻撃にも対応できる優れもの”らしいですよ?


 魔王の脅威が無くなったとはいえ、世界にはまだまだ魔物達が溢れています。

 以前の様な凶暴性は無くなりましたが、魔物が危険なことは変わりありませんものね。

 有事に備えての日々の訓練、いつもお疲れ様です。


 そういえば、町の方から木々の伐採の依頼が来ていたような……。

 ちょうど良いので、今度、レド様達にお願いしちゃいましょうか。



◆◇◆◇



 休憩を終え、執務室へ戻られたディア様。


「あー、もう! なんでこんなに仕事がいっぱいなの!?」


 ディア様は、各国から送られてきた書状の山を見て叫びました。

 早速仕事に取り掛かるディア様に、ちょっとした差し入れを準備しておきました。


「ディア様、ハーブティーのご用意ができました」

「ありがとう、リズ。あら、これ、とっても美味しいわ」

「これも修行の成果です」


 ハーブティーを飲み、一息つくと、ディア様は呟くように言いました。


「まぁ、このくらいやることがあった方が色々と考え込まずに済むか……」



 復興したてのこの国には、まだ政務官はいません。

 私もお手伝いしているとはいえ、ディア様自身もかなりの量の仕事をこなすことになるのです。


「……そういえば、デミアントの女王からも手紙が来ていたわね」

「つい先日、成長したオスアリ達がお嫁さんを探しに旅立たれたそうですよ」

「そっか……デミアントも種の存続の為に大変なのね」

「来年には沢山のお孫さんのお顔が見られると良いですね」


 ある程度、仕事に切りが付いた頃。

 ディア様と私は、息抜きを兼ねて城から抜け出し、とある場所へと向かいました。





────────

────

──



 ここは、アステア国で亡くなった人々が眠る場所。

 復興に際し、コルン王国で亡くなったロデオ様のご遺体もこちらの墓所へと移されました。



「また……来ちゃった」


 ディア様は、ロデオ様の眠る場所に花を添えました。

 小さな花弁がたくさん付いた綺麗なお花です。


「どこを探しても、あなたのようにかっこよくて、頼りになる人は見つからないわ……。ふふっ、このままじゃ私、お婆ちゃんになっちゃう……」


 ディア様はそう言って、ロデオ様の墓標に触れました。

 それはとても優しく、そして、愛おしむように。


「いつまでもそんなことばかり言ってたら、あなたに叱られちゃうわね……わかってる。私ももう、一国の女王だもの……わがままばかり言っていられないわ」


 悲しそうな笑顔で、ディア様は呟きました。

 しばらく沈黙が流れる沈黙。


「わかってるんだけど……、私……」


 ディア様はお強い方です。

 普段弱音を吐くことはありませんが、ここは唯一それが許された場所でもあるのです。


「さてと……そろそろ戻りましょうか」

「はい、ディア様」

「リズも、あんまり体を冷やしちゃいけないものね。付き合わせちゃってごめんなさい」

「いえいえ、大丈夫ですよ」


 ふと風が強く吹きました。

 木々がざわめき、大きな音を立てています。


「また来るわ……ロデオ……」


 ディア様はそう言って、微かに笑いました。



◇◆◇◆



 さてと、今日のお勤めも終わりましたし、お家に帰りましょうか。


「リズ、お疲れ」

「クルスも、お疲れ様」


 騎士団の休憩室へ立ち寄ると、クルスも丁度帰り支度をしているところだったようです。

 アステア国が復興して、騎士団へと戻った彼は、騎士団長へ就任することになりました。



 クルスが騎士団長になってから、騎士達の間でも魔法剣を覚えたいという方々が続出したそうです。

 中には素質があったのか、少しの修行だけで魔法剣を使えるようになった方も居たみたいで、喜んでいいのか悲しんでいいのか複雑な心境だと言っていました。


 あなたは薪割りから頑張っていたものね……魔法も一から練習して……。

 でも、誰よりも努力家だったあなたを、私は尊敬しています。


「本当に、お疲れ様! クルス!」

「ん……ありがとう?」



 城下町を出て、二人で一緒に帰ります。

 街道は綺麗に整備されて、夜でも安全に使うことができるようになりました。


「そろそろ休みを取らなくて大丈夫なのか?」

「まだ大丈夫よ。シアさんがそう言ってたもの。それに、私はできる限りディア様のお手伝いがしたいの」


 相変わらず心配性な彼。

 でも、それだけ私を大事に想ってくれているということですよね。


「ありがとう、クルス」

「本当に、無理だけはしないでくれよ」


 二人で手を繋いで帰ります。

 空を見上げれば、満天の星空が綺麗です。



 やがて、お家が見えてきました。

 今日は彼の大好きな、お肉の入ったシチューでも作ろうかな。


「あ、流れ星!」


 私はお星様に祈りました。

 この先もずっと、世界が平和でありますように、と────。









 働きアリだった私は、異世界で人間に生まれ変わりました。



 辛いこともありました。

 悲しいこともありました。

 その度に、何度も挫けそうになりました。 


 嬉しいこともありました。

 楽しいこともありました。

 その度に、また頑張ろうって思いました。





 もうすぐ私はお母さんになります。

 愛する人達と一緒に、これからもこの世界で頑張っていこうと思います。

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