第70話 時を超えて

 僕は、生きているのか……?

 指を動かしてみると、思い通りに動く……そうだ、リズさんは!?

 どうなっているんだ!?


「こ、これは……?」


 目を開けると、そこは祭壇の上だった。

 どういう事だ? 確かに僕は、リズさんと一緒に魔王に呑まれたはず……。


 魔王は一切の行動を止め、目の前でただ揺れている。

 そして、中央にある瞳は閉じられている。


 よくわからないが、僕は助かったのか……?

 では、リズさんはいったいどこに……?



「ロ……デ…………オ…………」


 振り向くと、ディア様は目から涙を流していた。

 そして、その前には首の無い騎士の姿があった。

 騎士はディア様の頭を撫でると、闇にまぎれて姿を消していった。


 ロデオさん……。





「……夢を見たわ……ロデオが暗闇から、私を助けてくれたの……」

「ディア様……正気に戻られたのですね?」


 まだ少し薬の影響があるようだが、僕の手を借りてディア様は立ち上がった。


「ここを出た所にレドさんが居るはずです。一緒に脱出して下さい」

「クルス、あなたは行かないの?」

「僕は……リズさんを捜します」


 ディア様は何かを察したのか、頷くと黙って走って行った。

 これでいい……ここへいても危険なだけだ。


 しかし、目の前にいるこの魔王をどうにかしなくては、いずれ世界は終わってしまう。

 先程までとは打って変わって魔王は動く気配が無い。

 今こそがチャンスなのかもしれないが……。


 リズさんはどこにも見当たらない。

 助かったのは僕だけで、彼女は魔王の中に取り残されてしまったのか。

 最悪……魔王の中で、もう……。


 そんなのは嫌だ……!

 せっかく、お互いに想いが通じ合ったというのに、僕だけが助かったって意味が無いじゃないか……!



「リズーーーーッ!!」


 僕の叫び声だけが、虚しく空洞内に響き渡った。



◆◇◆◇


「国王様ですね? すぐにその傷を癒します」

「そなたは……?」


 チキータの回復魔法により、コルン王の受けていた傷がたちまちに癒されていった。


「私はチキータと申します。ジュノーの町に住む冒険者です」

「すまぬ、礼を言うぞ」

「礼なら彼らに言ってやってください」


 あちこちに散らばる魔物達の屍骸。

 そして、一番の脅威だった鳥の魔族は、冒険者達の手により葬り去られた。


 コルン王国は救われたのだ。

 もちろん、冒険者達だけの力では無い。

 国の為に戦った王国軍の活躍もあってこその勝利だった。


「冒険者達よ、礼を言うぞ! 皆の者もよく頑張ってくれた!!」


 辺りから一斉に歓声が上がった。


 皆一様に自分達の戦果を語り合う。

 王も例外では無く、戦闘から一変、ちょっとしたお祭り騒ぎとなっていた。



「フリューゲルと言ったな、よくぞ駆けつけてくれた」

「ここに立ち寄ったのは偶然です。ある少女を探して旅をしていたところ、この国が魔物の襲撃に遭っているのを見つけて」

「ある少女だと?」

「ええ。どうしても、そこの女性が会いたいと言うので……」


 フリューゲルは、チキータの方を見た。


「リズという少女です。助けてもらったのに、何もお礼も言えず……それどころか、私……酷い態度を取っちゃって……」

「リズ……だと……!?」


 それは、偶然でも奇跡でもなかった。

 起こるべくして起こった事なのだと、コルン王は考えた。


 遠くの地で繋がった僅かな縁が巡り巡って、この地の最大の危機に、最高の援軍を間に合わせたのだ。



「お前達の帰ってくる場所は守られた……無事に帰ってくるのだぞ」


 暗闇の空を見上げ、コルン王は誰にでもなく呟いた。



━・━・━・



 誰かが私を呼ぶ声が聞こえたような気がする……。

 でも、立ち止まることはできません。この先には、魔王が居るのだから。



『もうすぐだ』


 暗闇を進んで行くと、強力な魔力の様なものが漂ってきました。

 あれは……一体?


 その中心には……ただじっと泣いている……子供?


『あなたは……?』


 子供……黒髪の少年は、私の方を見ると生気の無い表情を向けてきました。


 ボロボロになった民族衣装……私は、この衣装に見覚えがある。

 これは、赤髪の魔人、ルドラが身に着けていたものと同じ……。


 エプリクスはもうすぐだと言っていたけれど、魔王はどこに?

 でも、この子から感じるこの魔力は魔王のものと同じ……。


 いつの間にか精霊達の姿は無く、この空間には私と少年の姿しかありませんでした。


『……誰?』

『私はリズ……あなたは?』


 黒髪の少年は、一瞬顔を綻ばせたかと思うと、急に何かに取り憑かれたかのように頭を抱えて震えだしました。


『怖い……誰か……! 誰か! 僕を助けてッ!!』


 思わず少年に手を伸ばすと、激しい魔力の渦が私を包み込みました。


 息苦しいほどの魔力の中で、私の頭の中に様々な記憶が流れ込んでくる。

 これは……この少年の記憶?



 目の前に広がったのは、どこかの村の風景。

 武器を持った村人達。


 そして、特徴のあるその姿。

 ──赤髪の種族、メディマム族。



 遠い昔に滅びたはずのメディマム族の村に、私は立っていました。

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