第36話 上級冒険者達
土の精霊は、鉱山に居るのかもしれない。
でも、鉱山にはメディマム族と言う魔人が居て、鉱山で働く鉱夫達はその魔人に……。
「……クルスさん、メディマム族とは何なのでしょう」
「僕も詳しい事は……どこかで聞いたような気はするんだけど、何だったかな?」
赤髪の魔人────チキータさんはそう言っていました。
強力な魔法を操り、上級以上の冒険者でなければ立ち向かえない。
きっと、私達が今まで戦ってきた魔物などとは、比べ物にならないほどの強さなのでしょう。
そんな魔人なんかが居たら太刀打ちできるはずもありません。
ここまで来て八方ふさがりです。
この日は結局、武器の新調や魔導書の購入をするだけで終ってしまいました。
クルス様の剣は、ここへ来るまでにだいぶ消耗していましたので、買い替える事ができて良かったと思います。
購入したのはミスリル製の剣で、今までクルス様が使っていた鋼鉄の剣とは斬れ味が全然違うのだそうです。
ミスリルの剣と言えば、リオンが使っていたような……。
「クルスさん、その剣本当に大丈夫なんですか……?」
「え……? リズさん急にどうしたの?」
たしか、あの時はすぐに折れてしまっていたのですが……ミスリルって本当に大丈夫なのでしょうか。
宿屋は二部屋取る事ができました。
この町の宿屋は大きく、お部屋の数にも余裕があるみたいです。
テティスの村では一部屋しか空いておらず、クルス様にはご不便をお掛けしてしまいましたもの。
これなら、クルス様もゆったりとお休みすることができますよ。
「それではクルスさん、また後程」
「あ、リズさん……ああ、うん、またね……」
◆◇◆◇
クルス様と私は、宿屋の一階にある食堂で食事を済ませました。
「クルスさん、本当にお肉が好きなんですね」
「野菜もちゃんと摂ってるよ。でも、やっぱり体力を使うせいか肉が食べたくなるんだよなぁ。リズさんはあまり肉は食べないんだね」
「たまには食べようかと思うんですけどね。でも、やっぱりパスタがあるとつい食べたくなっちゃうんです」
「へえ、なんで?」
「私が幼いころ、お母さんがよく作ってくれたんです」
「あ……ごめん……」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ、やっぱり懐かしいなぁって思ったりすることもあって……自分でもパスタはよく作りますから」
「そっか……。リズさんの作るパスタ、僕も食べてみたいなぁ」
「コルンに戻ったらご馳走しますよ」
「本当に!? 約束だからね!!」
「え? ……はい」
そして、部屋に戻った私は、購入した魔導書を読み漁りました。
この魔導書には詠唱の概念などが詳しく記載されていて、上級魔法を超えた高等魔法に繋がる記述もあります。
私は中級上位の魔法まではある程度使えるようになりましたが、上級以上の魔法はまだうまく詠唱できません。
精霊魔法があるとはいえ、彼らに頼ってばかりというわけにもいきませんし、私自身ももっと強くならなくては。
そうでなければ……本当に守りたい人達を守る事なんてできない。
あの日───ロデオ様を救えなかった後悔が、今も私の心の中にしこりのように残っています。
取り返しがつかないこと……。
ロデオ様……ごめんなさい……。ディア様……ごめんなさい……。
───夜も更けてきました。
そろそろ寝ましょう。明日はもっと情報を集めなくちゃいけないのに、寝不足ではいけませんもんね。
ランプを消すと、部屋の中が真っ暗に染まりました。
昨晩とは違い、今日は私も一人です。
……あれ?
それが当たり前なはずなのに、なぜだろう……少し寂しい……。
◆◇◆◇
翌朝、宿屋にある集会所でクルス様と合流し、再び昨日訪れたギルドへと向かいました。
ギルドは朝から賑わっていますね。そこに、チキータさんの姿もありました。
「チキータさん、おはようございます」
「あら。おはよう、リズちゃん。クルス君もおはよう」
チキータさんは、なにやら冒険者の方々とお話していたようです。
長髪の黒髪の男性と、屈強そうな髭の生えた男性、そしてローブを着た大きな杖を持った男性がそこには居ました。
「リズちゃん、ほら。私の依頼を引き受けてくれる、ベテランの上級冒険者が現れたんだよ!」
「私は数々の魔族・魔人を倒してきたフリューゲルという者だ。そして、そこの大斧を携えた男がバストロン。魔道士がフォニアという」
長髪の男性は「よろしく頼む」と言うと、私に手を差し出してきました。
ああ、握手ですね。
「リズです。よろしくお願いします」
見た目はスラっとしていらっしゃるのにその手は固く、それがこの方の鍛錬の凄さを物語っているようです。
「クルスだ。よろしく」
男性はクルス様とも握手を済ませ、チキータさんへと向き直りました。
「メディマム族とは、伝説級の一族だ。よもや、そんな者が存在しているとは思えないがな」
「まあ、俺達にかかればどんな魔族でも簡単にねじ伏せてやるさ!」
「我々が、この町に再び平穏を取り戻して見せましょう」
冒険者の方々がそう言うと、ギルド内がワッと騒がしくなりました。
期待の声もありますが、幾つか罵声も混じっているみたいです。
「ふっ……。弱者共はそこで私達が持ち帰る朗報を指をくわえて待っているがいい」
そう言うと、フリューゲルさんは仲間の人達を連れてギルドを出て行きました。
「じゃ、リズちゃん、またね」
チキータさんも後に続きました。
「どうせ、あいつらもすぐに逃げ出しちまうよ。チキータも懲りないねえ」
お酒を飲んでいた冒険者の方が言いました。
「ついこの前も、それで前金だけだまし取られたばかりじゃないか」
「まあ、そいつらも最初は魔人を倒すつもりだったみたいだけどな」
チキータさんが出ていくと、ギルド内がガヤガヤと騒がしくなってきました。
「リズさん、行こうか……」
クルス様と私も外に出ました。
チキータさん、本当に大丈夫かな……。
◇◆◇◆
町の人達に聞くと、チキータさんはそのままフリューゲルさん達に付いて行ってしまったそうです。
チキータさんも、ご自身を中級冒険者とはおっしゃっていましたけど……なぜだか不安な気持ちが消えません。
「クルスさん、このままではチキータさんが危険だと思います」
「僕もそう思う。逃げ出す分にはいいんだけど、あいつらは確かに腕が立ちそうだ。本当にメディマム族とかいう魔人が居たとして、なまじ力がある分、それでも戦おうとするだろうな……」
クルス様も何やら考えているようです。
私は今からでもチキータさんを追いかけたいところですけど、クルス様を私の我がままに巻き込むわけにはいきませんし……。
「リズさん、追いかけたいんでしょ?」
クルス様は地図を出して鉱山の場所を確認していました。
「どちらにしても、ここまで来て立ち往生しているわけにもいかないし、様子見も兼ねて僕達も鉱山へ向かおうか」
「良いんですか……? 本当に危険かもしれませんよ?」
「大丈夫。何があっても、リズさんの事は僕が守るよ」
「ありがとうございます、クルス様」
「また様付けになってるよ、リズさん。 ……どういたしまして」
町を出て、私達は北にあるという鉱山へ向かいました。
途中、倒された魔物を数体見つけました。どうやらフリューゲルさん達が倒したようです。
どれも一太刀で倒されているようで、あの方々の冒険者としての熟練度がそこからも伺えます。
「この大きな山が鉱山かな?」
前方に大きな岩山が見えました。木で組まれた柱があちこちに倒れています。
戦闘の跡でしょうか。
その入り口は、大きな木枠が組み込まれています。
魔物が倒れている……チキータさん達は、既に中へ入って行ったようです。
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