第37話 魔人との邂逅

 クルス様の後に続いて、中へと入りました。


「リズさん、この先何が出るか分からない。気を付けて進もう」

「はい、クルスさん」



 鉱山の中は暗く、ランプも灯っていないため足元がよく見えません。


「【ブライトニング】」


 指先に光を灯します。

 この魔法は、本来目つぶしに使う魔法です。でも、魔力を弱めて使えば、こうして松明の代わりにも使えるみたいです。

 早速、昨晩読んだ魔導書が役に立ちました。


「魔法って便利だね。僕も剣だけじゃ無くて魔法も覚えようかなあ」

「クルスさんなら、きっと簡単に覚えられますよ」

「そう? じゃあ、今度リズさんに習おうかな」


 鉱山内は静かなままです。私とクルス様が話すのをやめると足音だけがただ静かに響いています。


「魔物だ。リズさん、下がって」


 たくさんの足の生えた不気味な魔物です。

 大きな体をグネグネと動かし、天井から数匹がこちらを威嚇してきます。

 前世の頃にも同じような生き物を見たことがありますが、人間より大きなサイズのものは初めて見ました。


「深い森や洞窟に棲む魔物だ。こいつらは毒を持っているから迂闊に近付かないほうがいい」

「わかりました。では、私の矢で射抜きます」


 矢は魔物に命中はしました。でも、その硬い体は私の放った矢を簡単に跳ね返してしまいました。


「普通の矢じゃ駄目みたいですね」

「「キシィィィ!」」


 魔物達がこちらに向かって突進してきました。


「噛まれたら危ない! リズさん、僕の後ろに!」

「【ラウンドフレイム】」


 フレイムゲイザーを範囲指定して発生させる魔法です。

 これも、昨晩読んでいた魔導書に載っていました。


 高等魔法は私にはまだ難しくて使えませんが、あの魔導書にはこういった魔法の応用も載っていたので、こちらを覚えておいて正解でした。


「……魔法って本当に便利だなぁ」

「予想以上に上手くいったみたいです」


 黒く焼けた魔物の横を通り抜け、私達はさらに奥へと進みます。


◆◇◆◇


 しばらく進むと、大きな魔力の流れを感じました。チキータさん達の声も聞こえます。


「始まってるみたいだ。僕達も行ってみよう」

「はい」


 クルス様の指示で、なるべく足音をたてないように慎重に進みました。


 激しい剣戟音も聞こえます。

 もしかすると、チキータさん達は例の魔人と戦っているのかもしれません。

 上級冒険者が必要な程の相手です。迂闊に出ては、逆に足手纏いになってしまう可能性があります。



「この野郎!!」

「フォニア!防御魔法を!!」


 フリューゲルさん達の声です。

 壁に身を隠し覗き込むと、大きな空洞内部で激しい戦闘が繰り広げられていました。


「【インテンシブ・デオトルネード】!!」


 巨大な竜巻が何かを襲っています。雷光を伴った高等魔法は、内部の岩肌をも削り取って進みます。

 その先に、不敵に笑う赤髪の人物の姿が見えました。


「あれが……魔人ですか?」

「本当に真っ赤な髪だ」


 血のような、燃えるような赤い髪。

 あれが、チキータさんの大切な人の命を奪った……。


「脆弱な魔法だ」


 赤髪の魔人が指をかざすと、魔法陣から同じ規模の竜巻が発生し、フォニアさんの放った魔法を打ち消してしまいました。

 

 あれがメディマム族……想像していたよりもはるかに危険な力を持っているようです。

 魔法の名前すら詠唱せず高等魔法を繰り出し、涼しい顔をしています。


「くそっ……! こんな化け物が本当にいるなんて!!」


 余裕そうな赤髪の魔人に比べ、フリューゲルさん達は、既に疲弊しきっているようです。

 空洞内を注意して見ると、地面に倒れている人の姿がありました。


「クルス様、あそこ!」

「チキータさん!?」


 あの冒険者達は、チキータさんを守ってくれるのでは無かったの!?


 ……ああ、そんな余裕もないほどこの赤髪の魔人は手に負えないんだ。

 この激しい戦いを見て、彼らの姿を見てそれは充分に伝わってきます。

 でも、このままじゃチキータさんが……。


「なかなか楽しませてもらったが、私も一刻も早く土の精霊を探さなくてはならん。悪いが、お前達とはお別れだ」


 赤髪の魔人のかざした指先から魔法陣が現れ、高等魔法クラスの炎が出現しました。

 その巨大な炎は、倒れているチキータさん、フリューゲルさん達へ向けて炎を巻き上げながら無情に進んでいきます。


「チキータさん!」


 私は無意識に飛び出していました。左手を前に出し、火を司る精霊を呼び出します。


「───【エプリクス】!!」


 光が発せられ、それは巨大な燃え盛るトカゲの姿を象りました。

 炎の高等魔法は、もう目前にまで迫っている。


「エプリクス! この巨大な炎をかき消して!!」

『容易い御用だ』


 エプリクスは火の精霊です。どんなランクの魔法であっても、それが火の魔法であれば彼には関係ありません。

 赤髪の魔人の発した巨大な炎の魔法は、エプリクスが大きく開けた口で飲み込み、そのまま消えました。


「チキータさん、無事ですか!?」

「……リズ……ちゃ……」


 チキータさんに駆け寄り、息があることが確認できました。


「【デオヒーリング】」


 チキータさんの苦しそうな表情が和らいできました。

 良かった、間に合ったみたいです。


「リズさん、出遅れてごめん!」

「クルス様、チキータさんは無事です」

「精霊魔法……だと? 貴様、一体何者だ」


 赤髪の魔人は、静かに威圧感のこもる目線を私に向けてきました。

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