第34話 馬に乗って
私達が馬小屋に着くと、旦那さんは元気に馬の体を洗っていました。
「ご主人、もう出てきて大丈夫なんですか?」
「そこの姉ちゃんの魔法のお陰で、いつもより元気なくらいだよ。牛達のことは残念だったが、ほんと助かったぜ。ありがとうよ」
「それは良かった。ところで僕達馬を買いたいんだけど」
「そうだったな。どれでも持って行ってくれ」
「「えっ?」」
なんと、旦那さんは馬を私達に無料で譲ってくださるそうです。
馬って結構お高いのでしょう? それを、本当に良いのでしょうか?
「リズさん、どの馬にします?」
「どの馬と言われても……」
馬達は私達を見てブルルと鳴いています。
どの馬が良いのでしょうね? そう思い見比べていると、ふと一頭の馬が目に着きました。
とても優しい目をした、艶のある茶色い毛質の馬です。
「優しそうな子ですね」
「お、姉ちゃんはこの馬が気に入ったのかい? まあ、こいつはなかなか良い馬だと思うぜ」
「ではご主人、こちらをいただけますか?」
「おう、準備してやるから待ってな」
旦那さんは早速準備を進め、私達が乗れるようにと馬に何か取り付け始めました。
優しそうな馬は、旦那さんがそうしている間も大人しくじっとしてくれています。
「よし、これで準備オーケーだ。待たせたな」
クルス様は、旦那さんから手綱を受け取りました。
「あんたら、これからどこに向かうんだい?」
「ここから東に向かったジュノーの町を目指します」
「ああ、あそこか……あそこはなあ。まあ……いろいろあっけど、冒険者にはいい町だわな。ここからならずっと平坦な道が続くし、馬で向かうなら半日も掛からないな」
旦那さんの話によると、ジュノーの町に行けばギルドもあるそうです。
冒険者がたくさん集まる町へ行けば、土の精霊の情報も聞けるかもしれません。
「じゃあご主人、お世話になりました」
「気を付けてな」
「ほら、マリー。お姉さんとお兄さんにバイバーイってしなさい」
マリーと呼ばれた子供は、お母さんに抱かれながら馬の上の私達をじっと見ていました。
「マリー、元気でね」
私がそう言うと、マリーは手を振ってくれました。
私も彼女へ、ずっと手を振り続けました。
この子があのマリーの生まれ変わりとは思えませんが、私がこうして生まれ変わったようにマリーもこの世界の誰かに生まれ変わっているのかもしれませんね。
また会いたいな……マリー……。
◆◇◆◇
クルス様の駆る馬は、私達の歩く速度の何倍もの速さで草原を駆け抜けていきます。
私自身馬に乗るのは初めてなので、前か後ろかどちらに乗るのかで話し合った結果、クルス様を前に私が後ろに乗ったほうが安全だろうということになりました。
「リズさん、大丈夫ですか? 後ろは揺れますし、しっかり掴まっていてくださいね」
落ちないようにと、クルス様の腰に手を回しぎゅっと掴まりました。
クルス様の体にこうして触れるのは初めてのことですので、ちょっと緊張してしまいます。
「この調子なら、すぐに町に着きそうですね!」
「クルスさん……ありがとうございます」
この声がクルス様に届いていたかはわかりません。
でも、私は何度でも彼にお礼を言いたかったのです。
ありがとう、ありがとうございます……この気持ち、ちゃんとあなたに届いていますか?
町に向かう途中、馬を休ませ、木陰で休憩を取りながら進んでいきました。
優しそうな馬は、旦那さんに渡されていた乾草を美味しそうに食べていました。
そんなに美味しいの? 私も少し食べてみようかしら……。
しばらくすると、街道沿いに大きな町が見えてきました。
王都に近い規模のある、本当に大きな町です。
「リズさん、もうじき着きますよ。初めての乗馬は辛くありませんでした?」
「大丈夫です」
驚いたことに、まだ明るいうちに町へ着くことができました。
日が長い時期とはいえ、これは凄いことです。
ここまでがんばってくれた馬を厩舎へと預け、見晴らし台から町を見渡しました。
露店が多く並び、あちこちから大きな声が聞こえます。
あまり良く無さそうな人達も歩いています。
そういえばロデオ様が、こちらの地域はあまり治安がよく無いっておっしゃっていましたね。
ああ、たしかに……乱暴そうな人達の姿もちらほらと……。
「リズさん、僕から離れないでくださいね」
「はい、クルスさん」
本当にクルス様が一緒で良かったです。
クルス様と私は、早速この町のギルドへと向かいました。
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