第11話 詠唱と中等魔法
コルン王国へは、再び馬車での移動となります。
多少は舗装された道になりましたが、長時間の移動はディア様には厳しいようです。
「ウプッ……ふぅ、ふぅ……」
「ディア様、大丈夫ですか?」
ディア様はこういった乗り物に弱いみたいです。
私には、お背中を擦ることしかできません。
「クルス、道具屋で仕入れた酔い止めの薬が袋に入っている。それをディア様に」
「わかりました」
クルス様は袋の中からお薬を取り出しました。
緑色の丸いお薬です。
これを飲めば、ディア様は楽になられるのですね。
「それ、お酒酔いの薬なんだけど……」
メアリ様のその言葉に、クルス様が固まります。
「ロデオさん! 薬の種類が違うじゃないですかー!」
「道具屋がそれで治るって言ったんだよ!」
「民間薬でよろしければ私のポーチに……さあ、ディア様、これをお飲み下さい」
メアリ様は緑色の液体の入った小瓶を取り出しました。
色はさっきのお薬と同じなのですね。
「おい、ディア様に変な物を飲ませるんじゃない」
「変な物だなんて失礼な。あたしの村の一族に代々伝わる酔い止め薬ですよ?」
「ありがとう、メアリ……いただくわ……」
ディア様は小瓶の中の液体を飲み干しました。
本当に、そのお薬大丈夫なんでしょうか?
「苦~い……」
「良薬口に苦しです。そのうち効いてきますよ」
苦そうな顔をしたディア様を見て、メアリ様は笑いながら言いました。
私は甘いお薬がいいです。
◆◇◆◇
「魔物が出たぞ!」
ロデオ様が叫び、クルス様、レド様、メアリ様が馬車から飛び出しました。
そこには、巨大な動物型のモンスターがいました。
「アントイーターか……クルス、レド行くぞ! メアリは魔法で援護を頼む!」
ロデオ様が行動指示を出し、魔物との戦闘が開始されます。
私の役目は、馬車の中でディア様をお守りするという重要な役目です。
酔い止めが効いてきたディア様は、馬車の中からロデオ様達を元気いっぱいに応援しています。
良かったですね、ディア様。
アントイーター……名前からしてアリを捕食する魔物のようです。
前世では出会ったことはありませんが、先程からチロチロと伸ばしている長い舌を見る限り、私達アリにとって脅威となることは間違いなさそうですね。
……あ、私はもうアリじゃなかったんだ。
それにしても、アントライオンと言い、アントイーターと言い、この一帯にはやたらとアリに対する天敵が棲息していませんか……?
「オリャ!」
「グギャア!」
ロデオ様の剣がアントイーターの肩に深々と突き刺さりました。
さすがロデオ様はお強いです。
私も魔法じゃなくて、あんな風に剣を振るってディア様をお守りしたいです。
「【フリージング】」
メアリ様が魔法を唱えると、アントイーターの足元に魔法陣が出現し体を凍りつかせていきます。
やっぱり魔法もいいですね。私もメアリ様みたいな魔法を使ってみたいです。
エプリクスはちょっと疲れますし……。
「皆さんお強いですね、ディア様!」
「ロデオもクルスも我が国の誇る騎士ですもの! 強くって当然だわ!」
馬車の中からディア様と応援していた時のことです。
突如、長い舌がディア様へ向けて伸びてきました。
「ディア様、危ない!」
ディア様を庇うと、長い舌が私の足元に絡みつき馬車の外へ引っ張り出されてしまいました。
「リズ!?」
アントイーターがもう一匹いたみたいです。
宙吊りの状態では、上手く身動きがとれません。
それに、このままでは頭に血が上ってしまいます……困りました。
「もう一匹いたのか!」
「リズさん、今、助けに行きます!」
クルス様がこちらへ走って来ました。
わわ、わ……!
アントイーターは、その舌でブンブンと私を振り回します。
「や、やめなさい! ……もう怒りましたよ!」
私はアントイーターに向けて指輪を付けた腕を前に構えます。
「【エプリ────」
「グォアアア!!」
「キャア!? 目が……目が回るー!」
エプリクスを呼ぼうとしましたが、今度はグルングルンと振り回されてしまい、なかなか隙を与えてもらえません。
アントイーターが何重にも見えます。
うー……目が回ってしまいました。
「クルス! 早くリズを助けて!!」
「トリャァアアア! リズさんを離せぇ!!」
「ギュアア!!」
クルス様の剣がアントイーターの舌を切り裂きました。
「リズさん!」
舌から解放されて落下して行く私を、クルス様が受け止めてくださりました。
「リズさん、大丈夫でしたか!?」
「は、はい、何とか……ありがとうございます、クルス様……」
少し目が回って、クルス様が三人に見えていますが大丈夫です。
舌を切られたアントイーターは、今度はその巨大な爪で攻撃してきます。
「くっ!」
クルス様が剣でその爪を受け止めました。
私を抱えたまま、アントイーターとの距離を取ります。
すると、今度はアントイーターの足元に魔法陣が出現しました。
「燃え盛る火炎よ、大地より出でよ──【フレイムゲイザー】!」
大きな炎がアントイーターを包み込みました。これは、メアリ様の攻撃魔法?
アントイーターはもがきながら、炎に焼かれて息絶えました。
「リズちゃんピンチだったから、お姉さん思わず中等魔法使っちゃった」
「ありがとうございます、メアリ様!」
これが中等魔法……メアリ様は、やはり、すごい魔道士様なのですね。
魔物は無事討伐されて、私達は馬車へと戻りました。
「リズ、私を庇ってくれたのね。ありがとう」
「ディア様をお守りするのが私の使命ですから! 結局メアリ様とクルス様に助けられてしまいましたけど……」
「リズちゃん、きちんとお姫様を守れて偉いわぁ。お姉さんのお膝の上においで?」
メアリ様が何でそんなことをおっしゃっているのか、よくわかりませんが、私がお膝の上に乗ってしまってはメアリ様が疲れてしまうので遠慮しておきます。
「それにしても恥ずかしかったでしょう……ずっと宙吊りで」
「え? 頭に血が上ってしまったのは辛かったですけど、大丈夫ですよ?」
宙吊りは恥ずかしいことなのでしょうか?
アリだった私にはよくわかりませんが、人間にとってはそうなのかもしれません。まだまだ勉強が必要のようです。
「まぁ、リズはまだガキだから平気だろ」
レド様はそう言って笑っています。
なんとなく失礼なことを言われたような気がしますが、悪気は無さそうですので気にしないでおきましょう。
「レド、リズだって立派なレディーなのよ」
「へいへい……俺が悪うございました」
ディア様が私をかばってくださったみたいです。
嬉しいです。やはりディア様はお優しい方なのですね。
その後もところどころに魔物が出ましたが、ロデオ様達により討伐され、馬車は順調に進みました。
メアリ様に加入していただいたおかげで、私はヒーラーのお仕事に専念することができます。
あまり出番はありませんけど、ヒーラーの出番が無いことは良いことなのです。
そういえば、メアリ様に聞いたんですけど、魔法は中等魔法から詠唱が必要になるそうです。
詠唱は心の中で唱えることもできるそうですが、メアリ様は口に出した方がかっこいいのでそうしているのだとか。
中等魔法は更に中級魔法と上級魔法に分けられているそうです。
魔法って思った以上に複雑なんですね。
私が使える【ヒール】は初等魔法なので、詠唱はいらずイメージのみで唱えられます。
エプリクスは指輪を構えて名前を呼ぶだけで出現しましたが、魔法としての種類が違うようですので詠唱を必要とすることはありませんでした。
魔法にも色々あるみたいです。
私もいつか魔法をきちんと学んで、メアリ様のようにきちんと使いこなせるようになりたいと思います。
街道の終点、コルン王国の城門が見えてきました。
ディア様護衛の旅は、どうやら無事に終わったようです。
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