第12話 初めてのギルド

 王様の下へは、ディア様をはじめ、ロデオ様、クルス様が向かいます。

 私は、レド様とメアリ様と一緒にお留守番です。


「さて、あたしらはどうしようねえ」

「待ってても仕方ねえし、とりあえずギルドに顔出すか?」


 お二人はギルドへ行くみたいです。

 この城下町にもギルドがあるのですね。


「リズちゃんもギルドに行く?」

「私もいいのですか?」

「まぁ、あそこなら飲み食いする場所もあるし……一緒に連れてくか」

「リズちゃんみたいな子を一人にしてたら、すぐ人攫ひとさらいに連れて行かれちゃうよ」


 私もちょっとだけギルドという所に興味がありましたので、連れて行っていただけるのは嬉しいです。

 きっと、メアリ様やレド様のような屈指の方々がたくさん集まっているのでしょうね。

 メアリ様から差しのべられた手を掴み、一緒に歩いて行きます。


「そうだ、ついでにリズちゃんもギルドに登録しちゃう?」

「まだ早いんじゃないか? リズ、お前何歳なんだ?」

「私ですか? 十歳になったばかりですけど」

「あら、あと三年足りないねぇ……」


 この国では、十三歳からギルドへの登録が可能になるそうです。

 これに関しては、ほとんどの国で年齢が統一されているそうですね。

 特例なども無いそうですし、どちらにしても、私のように碌に魔法も使えない者では、お仕事をいただけるわけ無いですよね。


「ほらリズちゃん、ここがコルン城下町のギルドだよ」

「わー、大きい建物ですね!」


 沢山の冒険者が集まることもあって、ギルド内部は大きな集会所のようになっていました。

 お食事をしたり、治療をしたり、武器を鍛えたりと、いろいろな施設が入っています。


「お、歩合のいい依頼は出てるかな?」


 メアリ様は掲示物が沢山貼られた場所で止まりました。

 レド様に聞いたんですけど、ここに依頼が出ている他にも、受付の方でも簡単な依頼を受けたりできるそうです。

 ああ、私も早く働ける年齢になりたい。


「何これ、“リオン盗賊団”? 城下町で盗難被害が発生中だって」

「ああ、そういえばここら一帯にはそんな奴らもいたっけかな」

「あいつら数だけは多いからね~。リズちゃんもギルドに連れてきてよかった。こういうのは、それこそ騎士団様にお任せだわ」


 私達は、冒険者の方がよく利用しているという酒場に入りました。

 メアリ様が何でも好きなものを頼んでいいとおっしゃっています。

 うーん……何にしましょうね。


「よおメアリ、しばらくぶりだな」

「あら、リトルじゃない」


 酒場にいた短髪の男性が、メアリ様に声を掛けました。


「お前、ガキが居たのか?」

「残念! この子は可愛いけど、私の子供じゃありませ~ん」

「こんにちは。私はリズと言います」


 この方も冒険者なのでしょうか? なんとなく、魔道士様とも、傭兵の方とも違うような感じがしますけど。


「ご丁寧にどうも。俺はリトル、狩人をやって生計を立てている者だ」


 狩人というのは、主に野生動物を狩って生計を立てている職業のことです。

 たまに魔物を狩ったりすることもあるそうですが、基本的にはギルドで請け負った動物を狩り、そのお肉を依頼のあったお店へお届けするのが主なお仕事みたいです。

 そういえば、ゼラの町にも森の動物を狩っている人がいましたね。


「これが、俺の武器である弓だ。ここの弦に矢尻を合わせ、三本の指で引いて飛ばす道具なんだけど、嬢ちゃん見るのは初めてかい?」

「はい、こうして間近で見るのは初めてです。あの……これなら、私にも扱えるでしょうか?」

「んー、こう見えて結構力が要るんだぞ? 嬢ちゃんにはまだ無理じゃないかな」


 リトル様に弓を貸していただきました。

 弦を目いっぱい引いてみます。

 ですが、私の力では、リトル様とは違って上手く引けないみたいです。


「意外と難しいだろ?」

「そうですね……。でも、いつか私も使えるようになりたいです」


 たぶん、私には剣や斧は向いていないと思います。

 弓なら重くはありませんし、がんばって練習すれば何とかなりそうな気がします。


「リトルが子供の相手をしてあげるなんて珍しいね」

「あー、リズちゃんだっけ? なんだか妙に大人びてないか?」

「女の子はそういうもんなんだよ」


 メアリ様とリトル様は楽しそうに話しています。

 レド様は、そんなお二人の様子を見ながらお酒を飲んでます。

 お父さんもよく飲んでいましたけど、男の人はお酒が好きなんですね。


「さて、あたしも飲もうかね! リズちゃんはお子様だから駄目よ?」


 前言撤回、そうでもないみたいです。

 メアリ様はお酒が大好きだそうで、レド様よりも豪快に飲んでいます。

 リトル様はあまりお酒は飲まないそうです。なんでも飲むと気持ち悪くなってしまうのだとか。


「ああいう大人になってはいけないぜ、リズちゃん」

「え? メアリ様は素敵ですよ?」

「リズちゃん、よくわかってるじゃない。お姉さんと結婚しようか?」


 結婚って、お父さんとお母さんになるということですよね。

 私とメアリ様だと、お母さんとお母さんになってしまいますよ?


「リズちゃんも何か飲む?」

「えっと……じゃあ、ミルクがいいです。蜂蜜入りでお願いします」

「やっぱ、まだガキだな」

「リズちゃんは子供だもん。ねー」


 こんなに子供扱いばかりされると、なんだかとっても悔しいです。

 ミルク美味しいのに……。


「それにしても、こんなチビっ子があれだけの魔法を使えるなんて大したもんだ。あれ、何て言ったっけ? エクソシストだったか?」

「エプリクスのことですか? 私もよくわからないんですけど、あの大きなトカゲと盟約というものをすると、この指輪から私を助けに出て来てくれるみたいなんです」

「何それ? 何のこと? あら、綺麗な指輪じゃない」


 そういえば、メアリ様はエプリクスのこと知らないのでしたね。


 ウィルクの町を出てからは、騎士様達とメアリ様に頼りっぱなしでエプリクスを呼び出す機会はありませんでした。

 アントイーターとの戦いの時は、思わず呼び出そうとしちゃいましたけど。


「リズが使役する精霊魔法ってやつらしい。大きな炎を纏ったトカゲが出現するんだ」

「精霊魔法……ですって!? リズちゃんって、ただのヒーラーじゃ無かったの!?」


 メアリ様が驚いてます。精霊魔法?というものは、そんなに珍しいものなのでしょうか?


◆◇◆◇


 その後、リトル様は狩りの仕事があるとギルドを出て行かれました。


 メアリ様は、お酒を飲み過ぎたせいか気持ち悪くなってしまったようで、介抱するためレド様が付き添い、外に出ています。

 私は一人でミルクを飲んで待っていました。

 やっぱり蜂蜜は甘くて美味しいですね。


 それにしても、帰りが遅い気がします……メアリ様は、大丈夫なんでしょうか。

 そういえば、クルス様がお酒酔いのお薬持っていませんでしたっけ?

 もしかしたら、お二人ともあのお薬をもらいに行っているのかも。



「君、一人かい?」


 突然知らない男性が声を掛けてきました。

 この方も、メアリ様かレド様のお知り合いの方でしょうか?


「ここで、メアリ様とレド様を待っているんです」

「あ、そうなんだ。その二人なら先に宿屋に行ってるって、さっき伝言を預かったんだよ」

「え? そうなんですか?」


 お二人とも酷い! ずっとこうして待っていたのに宿屋に行ってらっしゃるなんて!


 それにしても……宿屋って、いったいどこの宿屋なんでしょう?

 ロデオ様には、時間が来たら馬車に戻っているように言われていたような……え? 宿屋?


「おいで、僕が案内してあげよう」

「ありがとうございます。じゃあ、お願いします」


 お二人の知り合いの方でしたら安心ですよね。

 その男性に手を引かれ、私はギルドを後にしました。

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