第10話 ギルドと魔道士様
翌朝になると、私の魔力もだいぶ回復したようです。
これならヒールも使えます。
レド様の腕は大丈夫でしょうか。
「リズ、ちょっといらっしゃい」
ディア様が呼んでいます。どうされたのでしょう?
「ディア様、お呼びですか?」
「ちょっとここに座りなさい」
そこには大きめの鏡と椅子が置いてありました。
椅子に座ると、私の姿とディア様の姿が映っています。
「せっかく綺麗な髪をしているのだから、少しくらいお洒落しましょうね」
ディア様は櫛を取り出すと、私の髪の毛を梳いてくれました。
小さい頃、お母さんに梳いてもらったのを思い出します。
「リズの髪の色は栗色なのね。この辺りではあまり見ないけど、綺麗な色だわ」
「私の髪の色はたぶん……お母さんに似たんだと思います……」
いつも私に優しくしてくれたお母さんは、もういないんだ……。
もう涙は出し尽くしたはずだったのに、目から勝手にポロポロと零れてきます。
「リズ……ごめんなさい。私ったら無神経なことを言ってしまったわ……」
「……いえ、ディア様も同じなのですから、私が弱いだけのことです……。それに、髪の色ならディア様の金色の髪の方が綺麗です!」
「ありがとう、リズ……さあ、綺麗に仕上げてみんなをびっくりさせちゃいましょうね!」
こんなことで悲しんでいては、ディア様を守ることなんてできません。
私は目を袖でさっと拭いました。
ディア様は、私の髪の毛を綺麗に結ってくださりました。
少し伸びてきていたので、ずいぶん動きやすくなった気がします。
王家の方にこんなことをしていただくなんて、なんだか申し訳ないです。
「ありがとうございます、ディア様」
「いえいえ、どういたしまして。私が好きでしたことだから気にしないでね」
そう言って、ディア様は微笑みました。
ディア様は本当にお優しいお方です。
この方と話していると温かい気持ちになれます。
ご自身もお辛いはずなのに、そのようなところは微塵も見せようとしません。
本当に強い方というのは、きっとディア様のような方のことを言うのですね。
「ディア様、私もっと強くなります……ディア様をどんな危険からも守れるように強くなります!」
「リズ……ありがとう。でも、無理をしてあなたが危険な目にあったら悲しいわ」
それは難しい注文です。私はディア様の為だったらどんな危険でも冒すつもりです。
その結果、ディア様が悲しんでしまわれるのは困りますが、あくまでディア様を守ることが私にとっての最優先事項なのですから。
「そろそろ下へ行きましょうか。ロデオ達が待ってるわ」
「はい、ディア様」
私達は下の階へと降りていきました。
◆◇◆◇
「ディア様、あれからちゃんと眠られましたか?」
「ええ、ロデオとクルスも見回りありがとう。夜通し疲れたでしょう?」
ロデオ様もクルス様もあまり眠っていないようです。
それでも、これだけしっかりとしていられるのは、本当に凄いと思います。
私はというと、魔力が枯渇していたこともあって、昨晩はすぐに眠りについてしまいました。
なんだか、申し訳なくて恥ずかしいです。
「リズさん、今日は
「ありがとうございます、クルス様」
クルス様に褒めていただきました。ディア様に結っていただいたおかげです。
ロデオ様がクルス様に何か話をされています。
これからの予定を話されているのでしょうか。
「ところでロデオ様、レド様はどちらにいらっしゃるのですか? 魔力も無事回復したみたいですし、ヒールを掛けさせていただきたいのですけど」
「レドの傷なら、昨晩ギルドにいたヒーラーに治してもらったよ。今、あいつは武器を揃えに行っている」
「ギルド……ですか?」
この世界には、ギルドと呼ばれる冒険者や腕自慢の傭兵が集まる場所があるそうです。
そこには剣術だけじゃなく、様々な特技を持った方々もいらっしゃるとか。
「実は、そのギルドで冒険者を一人雇った。魔物が思った以上に活性化しているようだし、リズ一人にこれ以上負担を掛けるわけにはいかん」
「そんな、私なら大丈夫ですよ」
「これはディア様を守りきる為でもある。それに雇ったのは魔道士だ。リズにはこれまで通りヒールを任せることになる。そろそろその魔道士も来るはずだが……」
魔道士様はまだ来ていないようです。周りを見てみますが、それっぽい方は見当たりません。
そもそも魔道士様ってどんな恰好してたんでしたっけ?
「もしかして、前金だけ受け取って……詐欺だったのでは?」
「そんな馬鹿な! いや……たぶん大丈夫だと思う……」
クルス様のその言葉に、少しだけ戸惑いを隠せないロデオ様。
その時、バタンと宿の扉が開きました。
「あー、ごめんなさい……ギルドの方に集合だと思ってたから、遅れちゃって……」
ローブを着た綺麗な女性です。この方が魔道士様でしょうか。
ディア様と同じような金色の綺麗な髪を後ろに縛っています。
「遅い! 金を持ち逃げしたかと思ったではないか……」
「ちゃんと仕事はするからさぁ……勘弁してよ」
魔道士様はペコペコと頭を下げています。見た目は綺麗なのに、何だか残念な人です。
ロデオ様はもう、腕を組んでプンプン怒っています。
「あたしはメアリ。こう見えて中等魔法まで使える魔道士で~す。よろしくね」
メアリ様は私に向けて手を差し出してきました。
ああ、握手ですね。私もメアリ様の手を握ります。
「私はリズって言います。皆様のヒーラーをさせていただいております。よろしくお願いいたします」
メアリ様は私をじっと見ると、ニコッと笑ってくれました。
私もできる限り笑顔で返します。ニコッ……ちゃんとできていますか?
「ロデオさん。こんな小さくて可愛い子、危険な目にあわせちゃ駄目だよ?」
「お前のがんばり次第だ。せいぜい仕事しろ」
コルンへの道中に、新しく魔道士のメアリ様が加わりました。
これで、魔物達との戦いもスムーズに進めることができそうです。
そうこうしているうちに、レド様も新しい武具を調達して戻って来ました。
準備も整いましたし、いよいよコルンへ向けて出発です。
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