一つの推理 - 2
《ゲットヒップ候補が亡くなった理由》
これは、モンデリーズ候補を殺すための、いわば巻き添えである。
全米各地で公約が短い候補が次々と下手人によって殺されていったが、その多くは単なるモンデリーズ候補の単なるフォロワーであり、問題はさしてなかった。
しかしその中に、しっかりとした公約を掲げていたゲットヒップ候補が含まれてしまったのは悲劇だとしかいいようがない。
殺された理由は、「公約が規定の字数に達していなかったから」。
それだけの理由で、殺されたのだ。
これに対して、選挙管理委員会は焦ったに違いない。
少なくともゲットヒップ候補が亡くなったせいで、この狂気の殺人犯の真っ当な動機を作り出すことができなくなったからだ。
この一つの死があったからこそ。
モンデリーズ候補が殺されるという未曾有の事件に対して、選挙管理委員会が「犯行予告声明」が"送られてきた"ことを公表できないのだ。
これ以降、選挙管理委員会は三月末まで沈黙を貫くことになる。
《『モンデリーズ』候補たちの死》
さらに選挙管理委員会には誤算があった。
モンデリーズが死んだことで、すぐに『モンデリーズ』たちが増殖することを予想できなかった。
すでに全米各地の下手人への命令は下されていた。
ゲットヒップ候補が殺されたのと全く同じ理由で、公約が短い5人の『モンデリーズ』たちは殺されたのだった。
ただし、この狂気の命令の最中生き残った『モンデリーズ』がいた。
そう、9999文字の公約を掲げたモンデリーズJr.であった。
《屍体が二度殺された理由》
ご存知の通りモンデリーズJr.は、San Francisco市長選で初登場支持率7位を飾った翌日、何者かに殺されている。
殺された理由は、翌日にはビーチサイドの支持率を抜きかねなかったからである。
わざわざ"殺人"という名の凶器を振り下ろしてモンデリーズを排除したのに、その後継者が現れては困る、と選挙管理委員会は思ったに違いない。
このまま放置しておけば、いつかモンデリーズと同じように最高支持率の記録を作るのは時間の問題だった。
選挙の"成功"のためには、モンデリーズJr.は消えなければならない。
しかし、モンデリーズJr.を殺す"狂気の殺人犯"に、なんらかの動機を考えなければならなかった。
前回と同じように、公約の文字数で下手人に命令を下すとなると、さらに大勢の巻き添えが出ることになるからだ。
そのため、考え出された苦肉の動機が「"殺されたはずの"モンデリーズ候補の熱狂的な信者による犯行」である。
つまり『モンデリーズ』の真似事をする人間は、オリジナルのモンデリーズ候補への冒涜であり、公約の剽窃、すなわち「plagiarism」である、という動機である。
しかし問題は、大多数の『モンデリーズ』候補たちはすでに下手人によって殺されていたのだった。
モンデリーズJr.だけを殺すと、San Francisco市長選だけが悪目立ちしてしまう。
そのため、すでに死んでいた5人の『モンデリーズ』たちの死因を上書きした。
それが「plagiarism」というナイフの傷の正体である。
こうして、5人の屍体の中にモンデリーズJr.の殺害を隠したのだった。
《ビーチサイド候補の苛立ち》
今回の『モンデリーズ』の連続殺人事件の影響で、割りを食ったのがビーチサイド候補である。
San Francisco市長選は注目を浴びて、混迷を極めることになったからだ。
ビーチサイド候補はモンデリーズ候補が消えた選挙ですら、すでに支持率トップを維持できなくなっていたのだ。
支持率1位のフラワービレッジ候補は、公約の完成度からいってもビーチサイド候補が文句のつけられる場所がなく、また選挙管理委員会も大きく問題にしようがない内容であった。
一方で、他の候補たちには"傷"があった。
ビーチサイド候補を支持率で追い抜いたペニー・グーテナハト候補は、モンデリーズの公約の「美しい」を取り入れていたし、何より卑猥に見える公約を掲げていた。
ビーチサイド候補を支持率で追いかけるチェリーロゴス候補も、モンデリーズの公約の「美しい」を取り入れていた。
ビーチサイド候補は、この「美しい」に苛立ちをずっと隠せずにいた。
その苛立ちは、このような選挙を放置している選挙管理委員会に向かっていた。
このような状況では、またビーチサイド候補が共和党から鞍替えするかもしれない。
選挙管理委員会は、もうなりふり構わずビーチサイド候補の機嫌を取らざるを得なくなっていた。
どうしても選挙を"成功"させるために。
そして、ビーチサイド候補の苛立ちは、モンテローザことリーマン・R・ドミネイト候補の出現で頂点に達するのだった。
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