一つの推理 - 1

さてこの連載も終わるにあたって、私の一つの推理を披露させていただきたい。


私の結論は《一連の事件は『狂った選挙管理委員会』によって引き起こされた》である。


実際の下手人が誰であるか(Whodunit)、とか、どうやって殺人を犯したのか(Howdunit)、とかそういう類の推理をするつもりはない。

金で雇った暗殺者なのか、全米各地に散らばる共和党員なのか、それともなんらかのアルゴリズムに従うロボットによるものなのか、というのはどこまでいっても推測の域は出ないことであるし、それこそ警察の仕事であろう。

しかし下手人が誰であろうと、命令を下したのは『狂った選挙管理委員会』であることには変わりないだろう。


『狂った選挙管理委員会』が自らの利益のためだけに殺人を執拗に繰り返す、というおぞましい妄想(Whydunit)に取り付かれてしまった一人の狂人の文章を最後まで読んでいただければ幸いである。



どうして選挙管理委員会は狂っていったのか、という妄想をこれから時系列に沿って説明させていただこう。




《シックス・ファイブオーツー氏とアッパーリバー氏の無理心中事件について》


やはり、事件の始まりは無理心中事件である。

真の始まりは無理心中事件を引き起こした選挙だったと見ることもできるだろう。


そもそもシックス・ファイブオーツー氏が選挙開始時に不正を弾糾すること自体が、選挙管理委員会にとって寝耳に水であったに違いない。

そのため、無策にもメンバーであるアッパーリバー氏を利用してでも、シックス・ファイブオーツー氏を世界から除去してしまう形になった。

いわゆる突発的な犯行というやつである。


しかし、この無理心中事件はその後の一連の事件の引き金になっていることは間違いないだろう。

この件のせいで選挙管理員会は

「どうしてもこの選挙を"成功"させなければならなくなった」

といえる。

そして、そのための手段として"殺人"が選択肢の中に入ってしまったのだ。


アッパーリバー氏の犠牲は、選挙管理委員会の狂気の引き金となった。



《大手メディアNCNCでの応援について》


次の狂気の引き金は、NCNCにおけるビーチサイド候補の応援であろう。

どうしてもこの選挙を"成功"させなければいけない選挙管理員会は、現在目下トップ支持率であるビーチサイド候補に目をつけた。

この時、既に選挙管理委員会にとっての"成功"とは、ビーチサイド候補の当選そのものではなく、ビーチサイド候補の当選後の政策実現による利益回収にすり替わっていたのだ。


メンバーであるアッパーリバー氏を死なせてしまった以上、選挙によって未曾有の高利益を出さざるを得ない状況に追い込まれていた。


当選後の政策実現による利益回収のためには、圧倒的な支持率で当選したという事実が必要である。

反対勢力がほとんどいなかったという事実さえあれば、多少無理な政策でも実行することができるからだ。


そのためには選挙途中といえども【当選内定】を想定して、当選後の利益回収のために宣伝を行わなければならなかった。



しかし、その宣伝行為がさらなる狂気の導火線になった。

ビーチサイド候補が、宣伝行為による『出来レース感』を嫌ったのだ。

この段階では、ビーチサイド候補自身はただの一候補者に過ぎなかったからだ。


そのため、自身の公約に絶対の自信があるビーチサイド候補は、「次回の出馬のこともあるので"共和党以外"の政党の連絡も待ってます」というつぶやきで、共和党との連携を切ることを匂わせる発言をする。

これは共和党によって構成されている選挙管理員会にとっては、非常にまずい。

ビーチサイド候補の高支持率が、選挙の"成功"と結びつかなくなってしまうからだ。


選挙の"成功"にしか頭にない選挙管理員会と、ビーチサイド候補の連携ができたのがこの瞬間である。

どのようなやり取りが行われたのかは不明であるが、両者の間でなんらかの【当選内定】に相当する行為が行われたのだろう。

事実ビーチサイド候補はこれ以降、当選自体は当たり前であるかのような振る舞いが増えてゆく。



《ビーチサイド候補のモンデリーズ候補への一方的な敵視》


そもそも、完全に対照的な公約を掲げるモンデリーズ候補は、ビーチサイド候補にとって不愉快だったに違いない。

石油王のショート候補がモンデリーズ候補に支持率で抜かされたとき、その怒りは顕現化することになる。

自身との関わりがある石油王のショート候補は、モンデリーズ候補などには負けてはならなかったのだ。


その結果起きたのが、ビーチサイド候補の勧めによる、石油王のショート候補の他の市長選の再出馬。

そして仮初めの支持率1位の獲得である。

このような禁じ手に着手するくらい、ビーチサイド候補がモンデリーズ候補のことを敵視していたことがうかがえる。

ここで重要なのは、他の市長選の再出馬という行為がここで初めて行われたのである。


しかし皮肉にもこの再出馬という行為は、以降ビーチサイド候補を苦しめることになるのである。



《モンデリーズ候補が、ビーチサイド候補を支持率で上回ったこと》


モンデリーズ候補がSan Francisco選挙戦で、支持率トップを取ってからの一週間はビーチサイド候補にとって屈辱の一週間であった。

どのメディアでも自身の話題よりも、モンデリーズ候補の話題を多く扱っていた。


これに対してビーチサイド候補は、自身にヘイトが集まるきっかけとなった選挙管理員会の対応に不満を抱きはじめた。

こんなはずではなかったのに、と。

その不満はビーチサイド候補と選挙管理員会の間にできたホットラインによって、選挙管理員会に余すところなく伝わったのだろう。


導火線についた狂気の火は、じりじりと爆薬へと近づき始めていた。



《モンデリーズ候補はなぜ殺されたか》


モンデリーズ候補は支持率トップを取ってからも、圧倒的な支持率で選挙戦を戦い続けた。

当初は一過性のものと放置していた選挙管理委員会も、この現象には焦ったに違いない。

誰が見てももうビーチサイド候補に勝ち目がなくなってきていた上、全米最高支持率の記録すらも打ち立てようとしていたからだ。


もし全米最高支持率の記録を作られてしまうと、いかなる手段でビーチサイド候補を当選させたとしても、当選後の政策による利益回収に支障がでてしまうからだ。


つまり、『全米最高支持率の候補者による政策』というキャッチフレーズが使えなくなるのだ。

しかし一方で、仮に『全米最高支持率の』モンデリーズ候補は当選させたところで、公約が「美しい」しかない。

利益回収という面から言うと、全くもって使い物にならない。


どうしても選挙を"成功"に導かなければいけない選挙管理委員会は、モンデリーズ候補が記録を打ち立て、ビーチサイド候補を名実共に超える前にどうしても消さなければいけなかった。


そして選挙管理員会は、以前シックス・ファイブオーツー氏のときに有効だった、"殺人"という手段を選択することになる。

一度振り下ろした凶器を、もう一度振り下ろすのは容易い。

実際、前回は凶器を振り下ろすことで、問題の沈静化に成功していたのだ。


モンデリーズ候補を消すための、まともな死因を取り繕っている暇はなかった。

明日にでも記録を打ち立てようとしていたからだ。


選挙管理委員会は全米各地の下手人にこう伝えた。

「公約が短い候補者は殺せ」


全ては選挙の"成功"のために。


狂気は全米全土で爆発を起こした。

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