魔法使いの庭
新橋
第1話 魔法使いの庭
黄昏が訪れる。
逢魔時(おうまがとき)と呼ばれる、昼と夜が交わる時間。
眼前には、見慣れた庭。
ささやかだけれども、よく手入れが行き届いた自慢の庭園。
「ああ……まるで一幅の絵のようだ……」
魔法使いは呟いた。
風が樹木を揺らし、葉を舞わす。
風に合わせて、光りが踊る。
老人は、そっと手をかざす。
まるで、眼前の風や光りを捉えようと。
(あの光りの一粒でも…自分はこの手に掴む事ができただろうか…)
究理の探求に費やした生涯。
深淵への到達に挑み、そして道半ばにして逝く運命。
(魔法使いとは…その様なものだ………)
魔法使いは、そっと指輪を外す。
魂と引き換えに不死の怪物に転生できる、呪いの指輪。
黒い染みが魔法使いの視界の端に現れ、悔しそうに消えてゆく。
老人は最後に尖った尻尾を、見た気がした。
逢魔時…。
彼は、最後の試練に打ち勝った。
人として生き、人として死んでいく。
延長もやり直しも、老人は拒絶した。
限られた時の中で、精一杯生き抜いた。
それだけの自負を、積み上げる事ができた。
己の魂を売り払って、仮初の生にしがみつかずに済んだ。
指輪を弾く。
乾いた金属音を響かせ、それは花壇の傍に落ちた。
物言わぬ土人形の園丁たちは、気にも留めずに働き続ける。
老人は苦笑した。
眼前には、見慣れた庭。
ささやかだけれども、よく手入れが行き届いた自慢の庭園。
老魔法使いは、静かに瞼を閉じた。
FIN
魔法使いの庭 新橋 @shinbashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます