11.沈丁花《ロッククラッシュ》

 破砕、粉砕、砕け散れ。

 響き渡るは裂音。

 我は堅きに屈すること無し。


”ロッククラッシュ”


- - - - -


「いやー、ヴィスカちゃんと同じ部屋になれて、幸せだ―!」

「不安も大きいけれどね。」

「素直じゃないねぇ。」


 明るい気持ちで毎日を迎えられそうだ。

 しかも、レイアちゃんがしっかりしてるから、私ダメ人間になりそう。

 最高の生活環境だよー。


「それはそうと、ヴィスカ。手に持ってる花はどうしたの?」

「ああ、これ?えっと確か、ビンタちゃ…うわぁぁぁーーーーー!!」

「どうしたの?ヴィスカちゃん。」


 昨日から叫んでばっかりの役柄だなーなんて場違いなこと思ってないよ?

 少しヴィスカちゃんの叫び声に慣れてきてる自分に驚きだよ。

 もう少し此処に住んでると、日本に戻れなくなりそうだなー。

 まあ、戻れるとも思ってないけど。


「これ、うち、ビンタちゃんの花、あああ…。」

「落ち着いて話しなさい。」

「うち、昨日頭がくらくらしてるときに、幼馴染のビンタちゃんの所に行ってんけど。そん時に勢いで毟ってもうた。あああわわわわわわ。」

「落ち着きなさい。」


 あ、ヴィスカちゃんチョップ食らった。

 ビンタちゃんって誰だろう?

 先輩かな?


「取りあえず、謝りに行けば?」

「それで何とかなる?うち、ビンタちゃんと結婚せんで済む?」


 悩んでるのはそこか!!

 どうなんだろう。

 私の時は、異種族だし知らなかったで済んだけど。

 幼馴染ってことは、相手もドライアドだよね。

 きっとレイアちゃんみたいな人間でも知ってるようなことだし、向こうは本気にしてたりして。

 どっちも魔女ならそもそも結婚のしようも無い気がするけど。


「取りあえず、魔女としての礼儀として謝りなさい。結婚話は同性なんだからうやむやに出来るでしょ。」

「だよねー。」

「せやろか…。うん、謝ってくる!!…で、何処やろか?」


 うん、知ってた。


- - - - -


 結局アバネ先輩からカリーナ先輩の所を経由してビンタちゃんの部屋を教えてもらった。

 因みに、ビンタちゃんと言うのは、私たちと同じ新入生のヴィンター・ダフネ・オドラさんだった。

 同室のバネットさんは只今お説教中で居ないそうだ。


「ビンタちゃーん!!」

「ビンタいうな!!ヴィンターだって言ってるでしょう!」


 オドラさんは、背は小さめで、140~150位だと思う。

 髪はセミロング位で、無造作ヘアって言えばいいのか、ちょっとはねてる。

 頭の上の少しだけ残ってる花からとっても良い香りがする。


「ビンタちゃんごめんな。うち、昨日酔っとったみたいで、ビンタちゃんの花取ってもうてん。」

「人の話聞きなさいよね…。良いわよ別に、どうせ何時もの事じゃない。」

「結婚せえへんなあかん?」

「あんたねぇ!それなら、毎年求婚されてることに成るんだけど!!」


 怒りっぽい人だなー。

 幼馴染って言う割に、訛りが全くないなー。

 多分、元いた場所ではこの子がヴィスカのストッパー役だったんだろうなー。


「ええ!!そんなつもりあらへんよ!」

「でしょうね!去年はコケて全部叩き落とすし、一昨年は料理するっていきなり言い出して全部燃やされるし、その前は剪定したいって言い出して花ごとごっそり落とすし!!…もう、慣れっこだから気にしないで良いわよ。」


 わぁ。

 うん危険だよこの子。

 オドラさんお疲れ様です。

 手に負えなくなったら頼らせていただきます。

 今後とも良いお付き合いを。


「オドラさん。良かったら、ヴィスカの花を栞にするついでに、オドラさんの花をポプリにしても良い?」

「んん。あんたはたしか。」

「同じ新入生のアグリアです。そっちに居るのがレイアちゃん。ヴィスカと同じ部屋になったの。」

「それは大変ね。困ったら来なさい。その毟られた花は好きにしていいわ。」


 へへへ、怒りっぽいかと思ったけど、優しい人だね。

 ヴィスカからもらってカバンに入れておく。

 これ以上乾燥させると匂いが消えちゃうからね。


「ふへへ、良い匂い。」


 この花は良く知ってる。

 沈丁花、3月中頃から4月初めにかけて花を咲かせて春の訪れを匂いで届けてくれる花。

 花言葉は『不死』とか『不滅』だったはず。

 そん位じゃないと、ヴィスカの隣は務まらないって事かな?

 今、ちょっとだけヴィスカと同じ部屋で有ることを後悔したよ。


「レイアさんだったかしら。ヴィスカは大変よ、私はもう疲れたからあなたに託すわ。なんとなくだけど、そこのアグリアって子は頼りにならなさそう。」

「分かっていただけて嬉しいわ…「はぁ。」」


 うわー、使えない子認定されちゃったよ。

 全く、参ったね♪


「まあ、何かあったらほんとに来ると良いよ。馬鹿の扱いは慣れてる。」


 何か、その馬鹿に私も含まれていそうなのは、間違いかな?かな?


「それじゃあ、私たちはそろそろ帰るわね。」

「また来るけんね!ビンタちゃん!」

「だからビンタいうなー!!」


- - - - -


「さて、今日はどうするの?そう言えば、入学っていつ?」

「はぁ。此れだから頼れないのよね。」


 えへへ、頼りにしてます。


「入学式は明々後日ね。今日は買い物に行くわ。」

「ん?またスケルトンさんの所?せかす感じにならない?」

「行きたくは有るけど、違うわよ。服屋よ服屋。」

「ほえ?」

「私とヴィスカは荷物が有ったけど、アグリアだけ何故か無かったでしょう。服位は替えを持っておきなさい。」


 ホントに、頼りにしかならない。

 女子力がカンストしてそう。

 女子力の行き着く先…。


「えへへー。ありがと、お母さん!」

「誰がお母さんだ!!」

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