10.酩酊《スプラッシュ》

 我が意思は強く。

 吹き出る飛沫に逆らわず。

 流動の力はなお強く。


”スプラッシュ”


- - - - -


「ささ、新入生ちゃん、後は適当に飲み食いしながら親睦を深めようじゃないか!」


 とのことで、ステージからやっと降りることが出来た。

 寮生の皆さんが色々と話しかけてくるので、その対応で食事処では無いのですが…。

 大分落ち着いたところで、新入生同士でもお話しできるぐらいに場が落ち着いてきた。

 と言うか、寝てる人が結構いない?

 まあ、これぐらいの方が疲れなくていいけど。


「ビ・ン・タ・ちゃーん!!」


 何か聞き覚えのある声が少し離れたところで聞こえたけど、…まあ気のせいでしょう。

 こうなったら、気になってたあの子に話しかけてみようかな?


「あ、あの。芦屋さん?」

「はい、えっとアグリアさんでしたっけ?」


 そう、明らかに日本人なこの子。

 芦屋美智ちゃん。

 顔は日系だと分かりやすいどことなくこけしっぽい感じで、黒髪黒目。

 何より、着物?っぽいのを着てる。

 うーむ、どっちかって言うと神主さんとかが来てる感じの服?

 あれって何ていうんだっけ、法衣?

 なんかステージに上がる時からずっと気になってたんだよね。

 この子も自分みたいにこっちに来たのかな?


「芦屋さんって日本人だよね?」

「にほん人?ごめん、良く分からないけど、多分違うと思う。大和ってところからきたの。」


 ほえ?

 年代が違うのかな?


「え、えっと~。その国は何処が首都になるのかな?」

「都のことかな、それなら一女ってところだよ。」


 全く違ったー!

 ああ、これはあれかな。

 全く違う世界に、日本にそっくりな文化を作り上げた日本人にそっくりな部族が居るって事?

 うーむ、すっごい気になる。


「えっと、変な事聞いちゃってごめんねー。あははー。」

「ううん。自分の国の事話すの好きだから良いよ。こっちに来たときは色んな違いが有ってとっても不安だったんだ。」


 わー、でも何かこの普通すぎる日本人な会話がすっごく気持ちいいなー。


「何より、魔法使いとか魔女とかが迫害されてるって言うのを聞いたときはビックリしちゃったよ。」

「ああ、やっぱり魔女狩りとかあるんだ。」

「うん?やっぱり?」

「ああ、ごめん気にしないで。」


 そっか、魔女狩りかー。

 だからこんな海の上に魔女学院何て作ったのかな?

 魔女狩りはほとんど当てつけみたいな処刑だったってどっかで聞いたような気がするけど。

 実際に魔女が沢山いるこの世界ではどんな感じになってるんだろう?


「そう言えば、大和では魔女は迫害を受けないの。」

「うん、魔女って言うか、自分たちは陰陽師って言ってるんだけど、天気を占ったり、病魔を退散させたり、結構重宝されてる。」


 ああ、成る程。

 そっか、日本文化で魔術に当たるのは陰陽術かー。

 そう言えば、こんな服装の人が出てくる作品とかあったなー。


「はあぁ。陰陽師かー。うん占星術とかしかイメージ無いなー。」

「え!陰陽師を知ってるの!」

「え、うんだって私も…。」


 あれ、大和人では無いよね。

 日本人なんだよね。

 と言うか、美智ちゃんが全然反応してないってもしかして、私見た目も変わってたりする?

 …いやまさか。


「私も、何?」

「え、い、いや。何でもない。ちょっと大和の文化を聞いたことが有るだけだよ。」

「そ、そっか。まあそいいう人は勿論いるよね。」


 何か、話すにも気まずい空気になってしまって、近くに有ったジュースを一気に飲み干した。

 その辺りからはあんまり覚えて無い。

 ふらふらと色んな人と話したりしたような気もするけど…。

 記憶が凄く曖昧になっていた。


- - - - -


「起きなさい、アグリア。ほら、朝よ。」


 ぼやーっとする頭でそんな声を聞いた。

 目を開くとすっごく眩しい。


「おはよぉ~。おかあしゃん。」

「寝ぼけないの!早く起きなさい。ほら、ヴィスカも!」


 あれ…。ここ何処だろう?

 確かゲームをやってたような。

 何か部屋も見たこと無いような…。

 ああ、思い出した。

 そっか私訳の分からないまま知らない世界に飛ばされたんだ。


「んっっっ~~!!!はわわぁぁ~~。お早う、ええ夢見れたわ~。」


 ヴィスカの声だ。

 そうそう、寮で一緒に生活することに成ったんだ。

 レイアちゃんが起こしてくれたんだね。

 で、昨日は顔合わせで、美智ちゃんと話して…あれ?

 そっからどうなったんだっけ?


「どんな夢だったの?」

「うん、ポッカポカの日差しがめっちゃ気持ち良くて、心優しい人が水を掛けてくれるんよ。」


 まあ、良いか。

 ヴィスカちゃんの夢はいかにも植物っぽいなー。

 でも、中々気持ちよさそう。


「そんで、さらに腐りきった牛のウンチを掛けてくれてなー。」


 前言撤回。

 気持ちいい朝の一コマが台無しだよ!


「さらにおしっこまで掛けてくれてな―。」

「もう、その辺になさい。朝ごはんが食べれなくなるわ。」

「朝ごはん?何か作ってくれたの?」

「食べない訳にはいかないでしょう。昨日の余りを先輩に包んでもらったのよ。」


 ああ、それは挨拶に行かないとなー。

 こんなことしてると、魔女だってことを忘れちゃいそうだなー。


「メニューは、イチジクのスープ百々眼鬼風とネズミパンね。」


 皆、なんかフラグ回収早くない?

 私の心読んでる?ねえ読んでる?


「なんか、途中から記憶あらへんわ―。」

「ああ、それはバネットさんがいたずらして、ジュースがお酒とすり替わってたらしいわ。」


 わあー。

 魔女っぽい。

 何かをすり替えるいたずらとか聞くと、どちらかと言うと妖精かなー。


「あ、言い忘れとったわー。」

「ん?何かしら。」

「何?ヴィスカちゃん。」

「おはようさん!レイアちゃん、アグちゃん!」


 かわええなー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る