9.歓迎《サンライズ》

 暮れることなかれ。

 我は日の目を待ちわびる。

 夜は終わりを告げ、来たれ。


”サンライズ”


- - - - -


「こんなものかしらね。」

「ふえぇぇ…。降ろしてぇ…。」


 やっと掃除が終わったよ。

 二人の荷物は先に届いてたみたいで、一部ダメになってたけど、多分被害はそんなに大きくないと思う。

 私はそもそも荷物ないしね。

 お世話になります、二人とも。


「そろそろ降ろしてあげましょうか。」

「そだね。」


 ヴィスカちゃんを吊るしてた紐をほどいて降ろしてあげる。


「反省してる?」

「反省しとるーー!もうせえへんから…、うう。肌に紐が食い込んでめっちゃ痛かったわー。」


 ああ、跡が残ってる。

 流石にこれは可愛そうだなぁ。

 ここまで来ると、レイアちゃんがDVに走ってるようにも見えてしまうよ。


「はあ、もうしないなら良いわ。これを使いなさい。」


 およよ?

 何だ、あの紙切れ。


「何これ、こんな紙もろても、よう分からんよ?」

「私の魔法よ。その紙に魔力を流せば、紐の跡くらい無くなるわ。本当はレターの魔法は本分ではないのだけど、今はスケルトンさんに発動具渡してるから、それで勘弁して。」


 なんだ、流石にそこまで鬼畜じゃないか。

 まあ、今回はヴィスカちゃんが全面的に悪かったわけだし、こんなもんだろうね。

 それにしても、魔法陣かな?

 それにしては円形も見えないし、どことなく入学証明書にかかれてた文字に似てる文字っぽいものが沢山書かれてるなー。

 これが、レイアちゃんとかスケルトンさんの言ってたレターってやつなのかな?


「そうなんや、有難う!レイアちゃん優しいわ!!」

「うっ…。なんか罪悪感が出てくるわね。」


 分かります。

 ヴィスカちゃんが紙を跡の残ってるところに当てた。

 おお、文字が光ってる。

 何か…、魔法っぽい。

 はい、魔法ですねごめんなさい。


「おお!ほんまやわぁ。跡が消えとるし、痛みも全くない!」

「あれ?文字が消えてる。」

「当たり前でしょう。レターの魔法は基本的に使い捨てよ。貴方の書いていた魔法陣だって…そう言えば、発動直後は消えて無かったわね。」

「うん、クリエイトチョークを解除した時点で消えるんだ。」


 まあ、発動中はずっと魔力を使い続けるから、ほんの少しとは言え、基本的には発動後はすぐに解除するんだけどね。

 そう言えば、魔法陣は基本的にチョークでしか書けないけど、スクロールってアイテムにはクリエイトチョークを使わなくても書き込めたっけなー。

 あれは確かに使い捨てだった。

 そう考えるとこれもそう言う物なのかな?


「ふむ、本当にどういう魔法体系しているのかしら?中々興味深いわね。」


「終わったー?」


 おお、丁度先輩が来てくださったようだ。

 あれ?

 アバネ先輩は一緒じゃないんだ。


「わざわざ来ていただいてすみません。すぐにお茶を出しますね。」

「気にすんなって。どうせまだ上の階に上がるのは難しいんでしょ?」

「あれぇ?先輩、アバネ先輩は一緒とちゃうんですか?」

「アバネは今回の顔合わせの料理担当なんだよ。歓迎会みたいなもんだしね。」


 成る程。

 確かにアバネ先輩は何となくしっかりしてて、料理とか得意そうだもんね。

 ファラクシア先輩は全く出来なそう。


「アグリアちゃん、今失礼なこと考えた?」

「何のことデショウ?」


- - - - -


「それでねぇ…っと。もうこんな時間!さ、そろそろホールに行こうか。」

「そう言えば、降りるときのことも考えて無かった。」

「そうね、発動具が有ればどうにか出来るのだけど。」

「それやったらうちが!」

「「やめなさい。」」

「はい…。」


 しゅんってなった。

 さて、此処は自分の出番かな!

 えっと、降りるのにちょうどいい魔法は有ったかな?

 エンジェルラダーとか?インパクト強すぎるなー。

 シルフダッシュとか?ああ、これはお一人様だ…。


「今回はあたしが連れてくからノープロブレム!『フェザークレイドル』」

「ほわぁっ!?」


 おお、浮いてる。

 身一つで空を飛ぶと言う人間の夢が今実現してる!

 そのままずっと下のホールと呼ばれているらしい、元の建物だったと思われるところに、無事たどり着きました。


「遅いわよファシ。時間になったら連れてくるって意気込んでたくせに。」

「ああー、いやーアバネの昔の話でつい盛り上がっちゃって。」


 下に着くと、沢山の人が既に集まっていた。

 ホールと呼ばれるだけあって、中はかなり広い一部屋だった。

 これ、改築すること前提で建てられてるよね…。

 トイレとかどうするんだろ。

 入口にアバネ先輩と幾人か先輩らしき他の人が立っていた。


「皆もう来てる?」

「とっくに。」

「まあまあ、アバネ。その辺にしてあげなさい。これでそろったわね。新入生ちゃんはこっちに来て。」


 説明を受けないまま、アバネ先輩の横に立っていた背の高い女性に案内される。

 この人も多分先輩だよね?

 どうも、此処は制服とかが無いみたいで、誰がどの学年で先輩なのか先生なのかの判断も難しい時が有るなー。


「じゃあ、あそこのステージに他の子と同じように並んで。」


 そう言われてステージに上がっていく。

 ステージには私たち以外に5人居た。

 この子達も新入生なのかな?

 凄く小っちゃい子とか、羽が生えてることか、色々居るなー。


「はい、お待たせ皆!それじゃあ顔合わせ改め、歓迎会改め、飲め―!!ジュースだけどな!!」

「何それ!?」


 そんな司会を始めたのは、さっきの案内してくれた先輩でした。


「「「カリーナ先輩!!」」」


 満場一致の非難の言葉であったとさ。

 何だこれ、ほんとに。


「あ、あはは。悪いって。えっとー、それでは新入生の諸君!私はここの寮、ペンタグラムの寮長で、カリーナ・ベッセル・ドラクラ!!先輩の代表として、これから宜しくね!!」


 まばらに鳴る拍手。

 うーん、そこそこ慕われてる?

 って言うか、この寮に名前とか有ったんだ。

 ペンタグラムって、確か五芒星、星形のことだっけ?

 カリーナ先輩は名前から察するにヴァンパイアかな?

 うーむ、分からないことが多すぎるよ。


「ささっ、新入生ちゃんも右から一人づつ名前言ってって!」

「ふえぇぇ。ファシスタ…ですぅ。」

「芦屋 美智。です。」

「バネットですよ~。」

「ヴィンター・ダフネ・オドラよ。」

「クラリス・ファータ・アシェット、宜しくお願いします。」

「ああっと~、アグリアです!よろしくおながっ…お願いします。」


 か、かんじゃった。


「レイスアラン・グレイフィード・デヴィストーンと言います。宜しくお願いします。」

「ヴィスカ!じゃ無かったわ、ヴァイスカガ・プルーヌス・ムメって言います!!うちは田舎もんやけど、優しゅうしてな。」


 うん、ヴィスカ、流れを汲もうか。

 おかげで助かったけど。

 多分話題性はヴィスカの方が高いと思うよ。

 因みに、ファシスタさんは羽が生えてるフワフワした感じの子。

 美智ちゃんは完全に日本人な見た目で、凄く気になる。

 バネットさんは凄く小っちゃい子、多分一メートル無い。

 オドラさんはヴィスカと同じドライアドっぽい白くて小さなラッパみたいな花がアジサイみたいに集まって頭に咲いてる。

 アシェットさんは人間っぽいけどどうなんだろ?アビランテさんのことも有るし、断言は出来ないなー。


「ほいほい、それじゃあ皆!これからこの8人が私たちペンタグラムの一員よ!!いっせーの!!」

「「「「入学、入寮、おめでとう!!私たちは貴方たちを歓迎します!!」」」」


 カリーナ先輩を筆頭にみんなで声をそろえて言われた。

 何それ、小学生じゃないんだから…。

 なんか、いきなり魔女になって、魔女学院とか言うところに放り込まれて、個性的すぎる人たちに囲まれて、どうなることかと思ったけど…。


 何とかなりそう!

 此処が私の、アグリアの居場所になるんだ!

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