8.寮生《イグニッション》

 猛る熱き赤の光。

 弾ける力の波は全てを飲み込み、

 我にあだなす仇なす者を灰塵と化せ。


”イグニッション”


- - - - -


「そう言えば、どないするんやろうか?」

「外に扉が見えてるから、空を飛ぶこと前提なんでしょうね。」

「飛べなかったらどうするの?」


 そこだよね。

 飛べなかったら、自分の部屋に帰れないじゃないか。


「どうせ勝手な改築だからそこまで考えてないわよ。それが嫌なら、また改築しなさいってことでしょうね。」

「そんな部屋を正式に割り当ててええんかなぁ?」


 ふむぅ。

 そんぐらい出来ないと魔女にもなれないってこと?

 もしかして、この寮の洗礼とか?

 まあ、悩んでも仕方ないか。

 えっと、空を飛ぶ魔法かー。

 いくつか知ってるけど、どれもちょっと使うのには微妙なんだよなー。


「うちに任せとき!」


 と、名乗り出たのはヴィスカちゃん。

 おお、なんかカッコいいよ。

 そう言えば、他の人が魔法使ってるのは見たことないなー。

 スケルトンさんのところでも、よく知らない言葉が多かったし、こっちにはぜんぜん違う形態の魔法があるんだろうなー。

 そもそも、私の魔法もゲームそのままだしどういった理屈で発動してるのか聞かれると『システムです。』としか言いようが無いよね。


「ヴィスカは、種族魔法を?」

「うん、それしか使えんよ。じゃあ、ソーレ!『テッポウウリ!!』」

「ちょっと待って!?なんか、名前からして不吉なんだけ…。」


 ぐぐぐぐぐっ!

 あぎゃあ!地面が!

 下から緑の大きな何かが見えるよ!

 なんか丸いのの先端こっち向いてない?

 やばくない、これ!?



 ポンッ


「ちょ!ヴィスカーーーーー!!」


- - - - -


「…あのぉー。ほんまにすまんかったと思うとるよ。じゃきん、そろそろ降ろしてもろへん?」


 あの後、テッポウウリで何とか部屋に到達したわけだが、当然というかなんと言うか。

 大きな種が一緒に部屋に入り、さらにテッポウウリの中に詰まってた青臭い液体も周辺に撒き散らされ、部屋の中は見るも無残なことに。

 自分たちも結構痛かった。


「今晩の料理はドライアドの煮込みなんてどうかしら?」

「そっか、食堂無かったもんね。料理も自分たちで作るのか。でも、顔合わせのときとかに出ないの?」

「ひぃぃ!!許してーなー!」


 今現在ヴィスカちゃんは天井に簀巻きにして吊るしてある。

 馬鹿な子だなーとは思ってたけど、この子は危険なレベルで馬鹿だなぁ。


「掃除が終わるまでそこで反省なさい。まあ、料理は冗談よ。多分、アグリアの言う通り顔合わせで何か振る舞われると思うわ。」

「そっか、顔合わせは下の元の建物と思われるところに行けばいいんだよね?」

「ええ、そのはずよ。」


「ごめんくださーい!」

「お邪魔します。」


 およ、玄関と言えるのか分からないサボテンの口から二人の女の子が入って来た。

 どっちも耳が長い。

 あれかな?エルフとか。


「おーおー、やってるねぇー。君たち新入生でしょ。あたしは上の部屋に住んでるファラクシア・ネッサ・ブロウ。シルフィードで、一応君たちのいっこ上。」

「一応は余計でしょ。私は同じく上に住んでるアバネタンテ・マグラ・カタンティン、エルフよ。長いからアバネで良いわ、みんなそう呼んでるし。これからよろしくね。」


 どうやら、上の部屋の先輩方が挨拶に来てくれたらしい。

 こういうのは後輩の私たちがやるべきなんだろうな。

 なんか申し訳ないよ。


「ん?申し訳ないって思ってんのか?気にしないで良いよ、下ですごい音がしたから野次馬しに来ただけだし!」

「あ、あははー…。えっとアグリアです。人間です。よろしくお願いします。」

「レイスアラン・グレイフィード・デヴィストーンです。私も人間です。来て早々ご迷惑おかけしました。今後よろしくお願いします。」

「うちは、ヴァイスカガ・プルーヌス・ムメです!ドライアドで…」

「馬鹿です。今回の騒動の張本人です。」

「しどい…。」


 レイアちゃん容赦ないなー。

 まあ、フォローする気は全くないけど。


「あははは!面白いな君たち!うん、何か困ったことが有ったら来なよ、どうせ上の部屋だから!」

「有難うございます!」

「ファシの所に聞きに行くのはやめといた方が良いわよ。去年、似たようなことをしでかしてるから。」


 うわー。

 魔法使いって馬鹿でもなれるんだなー。


「うん?何か失礼なこと思わなかった?」


 さっきからこの人鋭いな!


「なんでも、無いデスヨ。」

「ファラクシア先輩も去年同じようなことを?」

「あははー!あれは傑作だったね!バースト・ブロウって魔法で私たちの部屋まで行こうとしたら、距離が足りなくてさー。この部屋の扉の上の二つの穴あるでしょ、あれあたしたちなんだー!」

「笑い事では無いでしょう!あれのせいで顔合わせに遅れるし、目ン玉コンビなんて言われるし、もうちょっと反省なさい!!」


 ああ、あの穴そう言う経緯が。

 アバネ先輩も大変そうだなー。


「せ、先輩も来とるしそろそろうちを降ろしてくれへん…?」

「先輩良ければ掃除が終わったらまた来てくださいませんか?お茶ぐらい出しますよ。」


 レイアちゃん惨いなー。

 まあ、フォローはしないけど。

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