6.学長《ジャッジ》

 裁かれるは此方か彼方か。

 非あらば必罰。

 非無きは絶対の正義。

 其方は虚偽を拒みしもの。


”ジャッジ”


- - - - -


「さて、そろそろ寮に顔を出しておきましょう。」

「うん?寮なんてあるんだ?」

「貴方は…。冊子にまとめられていたでしょう。ちゃんと読みなさいよ。」

「あ、あははー。そうだったのかー。」


 冊子って何でしょう?

 私貰ってございません。

 何か証明書っぽいのは有ったけど、あれじゃないよなー。


「それでどこ行くん?」

「真ん中の逆さの大木が有るでしょう?あれの中に有るエレベーターで海上の学内に入るわよ。」

「ああ、バルシーの木やね。うち、あんな大きく育ったんは初めて見るわー。」

「あら、珍しく物知りね。」


 失礼とは知りつつも、ちょっと同意。


「植物の事はうちに任せてぇな!」

「それで、バルシーの木ってどんなものかしら?」

「えへへー。うちが説明するんは新鮮やわー。あの木は水中に逆さにしか生えることが出来んのよ。基本的には洞窟なんかで生えるんやけど、あの木は周りに半球状の泡の幕を張ってまうんよ。勿論大きければ大きいほど、幕も大きくなるもんやって、あまり大きいものは洞窟が支えきれずに崩れてまうんよ。ここの木はこんなに大きくなってるんに、それに合わせて工事しとるんか、学園が釣り合うように出来とって凄いわー。」


 何だって…ヴィスカが賢い!?

 私のちょっとおバカなヴィスカちゃんは何処に行ってしまったんだろーね?


「ちょ、レイアちゃん、アグちゃん。いま、失礼なこと考えとったんとちゃう?!」

「さ、行きましょう。」

「そうだね。」

「ちょーー!」


- - - - -


「ハイハイ、新入生ちゃんね。入学証明書出してね~。」


 と、そんなわけで海上の学校までついたわけだが、長蛇の列が出来ていた。

 エレベーターが木の中に有って最上階が海上の学校の丁度真ん中のホールに繋がっているらしい。

 周りには本当に学校か?と疑うような綺麗な彫刻の数々が所狭しと並んでおり、6方向に大きな通路、天井に大きなシャンデリアが付いて居る。

 列はその通路の一つ、に向かって伸びていてその先に先生らしき人たちが新入生の整理をしている。

 こりゃあ~…パないっすね!


「えらい、豪華な所やねぇ。うち、こんな大きい建物初めてやわー。」

「このサイズの建物はまず無いわ。世界中の魔女が集まるだけのことは有るわね。何でも、ほとんどは魔術で出来ているらしいわ。」

「ほえー!こんな広いの魔術で作っちゃうなんて、魔女ってすごいなー!」

「貴方もそんな魔女の一員になるために来ているのでしょう?」

「あははー。そうでした。」


 それにしても、時間かかるなー。

 日本でも、行列を作るのが好きな国民性でよく並ぶことは有ったけど、やっぱり並ぶのは暇だなー。

 時間つぶしは大抵本読むとか、ゲームするとかしてたわけだけど、今は特に持って無いしなー。

 キャストマニュアルは全部読んでるから面白くないし、そもそもゲームとか此処に有るのかも分かんないや。


「そう言えば、貴方たち流石に入学証明書は持ってきてるわよね?」

「もう!うちも流石にそこまでアホやあらへんよ!」

「ああ~、コレだよね?」


 カバンの中に入っていた、証明書っぽい紙を出してみた。

 ふむ、文字は分かんないな。

 もしかして、こっちって文字が違うのかな?

 だとすると、苦労しそう。


「流石に持ってるわよね。ごめんなさいちょっと心配になって。過去に一度だけ忘れてきたものが居てね…。」


 どうやら、合ってたっぽい。

 良かった良かった。

 って言うか、こんだけ人が居るのに一度しか無いってすごいなー。


「そんで、その人どないなったん?」

「不法侵入者扱いで、学長がその日のお祝いの花火に変えてしまったわ。」

「「ふえ!?」」


 なななんあなななんあなんあなんあんあな!!!

 なんだそれ、こわっ!?

 え、本当にこれ大丈夫?

 私も花火にされたりしない?


「う、うち、家を出るとき荷物確認したら証明書忘れ取ったんよ…。確認取ってほんま良かった…。」

「そうね、今夜の花火が豪華になる所だったわね。」

「こわいわ!?」


 えっと、本当に大丈夫だよね?

 私は現在進行形で不安しかないんだけど。


「はい、次の子どうぞ。」


 って話してるうちについに順番が来てっしまったようだ。

 なるようになれだ!


「ハイハイ、レイスアランさんね~、ようこそ。君はヴァイスカガさん、ようこそ魔女学院プロフェットへ。で、君は…うん?アグリア?」

「ひゃい!あ…アグリアです…。」

「ふーむ。アグリア、アグリア。おかしいな、名簿に無いぞぉ?」


 え?

 あれ、それってやばい?

 今日を持って私はこの世からおさらばなの?

 やばいって、やばいって!

 此処は逃げるか?


「ぐえ゛~~!ぐえ゛~~!」

「うん?ああ、学長の使い魔か。はい、はい、よろしいので?分かりました。」


 何か、本格的にやばそう。

 学長とか聞こえたぞ…よし逃げよう。


「ちょっと待ちなさい。どこに行くつもりかな?学長がお呼びだよ?」

「ああ、遅かったか。」

「うち、アグちゃんのことは忘れへんよ?」

「短い時間でしたが2週間ぐらいは覚えておきますわ。」

「ヴィスカちゃん!縁起でもないよ!レイアちゃんは酷すぎる!!」


- - - - -


「学長、お連れしましたよ。」

「ああ、入って入って。」


 はい、学長室です。

 ああ、遂に私も死ぬのか…最後にヴィスカちゃんやレイアちゃんのお祝いだけでもすることが出来るなら、まあ良い人生かなー。


「それでは、私はこれで。」


 と、さっきの先生っぽい人が去っていった。

 仕方ないので、学長の部屋の扉に手を掛けて開けてみる。

 中は結構広く、色んなものが足の踏み場もないほどに散乱している。

 奥に大きな勉強机みたいな形のつくえがあって、その前に有る丸椅子に胡坐をかいて女の人が座っていた。

 中ほどで折れた黒のトンガリ帽子に黒のローブを着ていて、中に黄色の服を着ているのか、ローブの隙間からちらちら見える。

 顔は整っていて、20歳くらいに見える。

 あれ?本当にこの人学長なの?

 さっきの人の方が年いってたような?


「キッヒ。君がアグリアちゃんね。ダメだよ人を見た目で判断しちゃあ。私は間違いなく、ここの学長リリー・クレセント・バーバ・アメチェリーダだよ。」

「あ、すいません。」


 この人も心が読めるの?


「キッヒ!スケルトンちゃんに有ったんだね。無暗に心を見てはいけないと教えたんだがねぇ。」

「スケルトンちゃん?」

「見た目で判断してはいけないと言ったでしょう?私はこれでも5000歳いってるんだからね?キッヒッヒ。」


 5000!?

 すごい、そんなに年いってるなんて。

 ここまで来ると詐欺とかそんなレベルじゃないよ。


「キッヒ。失礼な子だねぇ。ある程度の知識の有る魔女は大抵不老長寿にたどり着いてるからねぇ。本当の意味で見た目での判断は出来ないよ。」


 あんまり心を読まないでほしいな。

 おちおち失礼なことも考えられないじゃない。


「面白い子だねぇ。キッヒ、今は心は読んでないよ。アグリアちゃんが分かりやすいだけ。さて、本題に入ろうかね。」

「うっ…。」


 ついに、今生とおさらばかー。

 思えば短い人生でした。

 アグリアとしては一日も経って無いですが…。


「キッヒッヒ!怯えちゃって、可愛いねぇ。だけど残念。入学を認めるよ。」

「ほえ!?」

「君の名前は名簿には無かった。それに、入学試験の名簿にも無かった。ついでに、生徒全員の名前を覚えているはずの私の記憶にもアグリアは無かった。」

「えっと、ではなぜ?」

「キッヒ、その証明書が本物だからさ。そいつは偽物が作りようがない代物なんだ。貴方はそれによって保障されている。例え他に何も持っていなくても、本人が否定しても、本当に嘘でも、アグリアは私の学院の生徒で有ることは私にさえ覆せない、そう言う代物なのさ。」

「は、はぁ…。」


 それは、助かったってことですね?

 ああ、これは良かったのかな?


「キッヒッヒ。それにねぇ、もう一つ理由が有るよ。」

「もう一つですか?何でしょう。」

「キッヒッヒ!面白そうだからさ!!」


 ああ、助かった気がしない。

 本当に学長さん良い笑顔で。

 ええ、本当に悪だくみしている悪い魔女そのものな…。

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