5.剪定《ウィンドカッター》

 流れ鋭く吹き付けるは我が意思。

 其はならずの者。

 一陣の力を彼の者を打つ刃と成さん。


”ウィンドカッタ―”


- - - - -


「それで、レイスアランさんは私に会いに来たのかしら?」

「ん?どういうこと、レイアちゃん?」

「此処は、アビランテのお祖母さんのお店なのよ。」


 ああ、それで知ってたのか。

 それにしてもアビランテさんのお祖母さんってなんか凄そう。


「此処にはヴィスカの発動具を買いに来たのよ。」

「あらぁ。そういうことなら、私から話を付けるわよ。お婆様!」

「ホイホイチャーハン。」

「なんつー登場だ‼」


 と、その場のノリでつっこんだが、声がしたのは後ろからだった。

 一斉に振り替えると、完全に骸骨な骨のお婆さんが立っていた。


「ンギャー!!ガイコツ」

「誰が、ガイコツか!スケルトンとお呼びなされ。」

「お婆様、どっちでも変わりませんわ。」


 どうなってんの?

 ガイコツ、もといスケルトンのお婆さんからサキュバスの娘って?


「なんで、お婆ちゃんは種族違うん?」

「いっひっひ。ワシの可愛い孫は拾い子じゃからのう。」

「まあ、色々あるってことよ。あまり人様の家庭に踏み込んではいけませんわ。」


 うーむ。

 それにしても、スケルトンはインパクト強いなー。

 目とかどうなってるんだろう。


「ほほう、そちらのお嬢さんはワシの眼球が気になるかえ?」

「ぶっほ!心読まれた!?」

「そんなに見たいなら見るとええ、ワシの立派な暗く光るそれをくまなく念入りに、執拗に、舐め回すように。」

「ああ、アビランテさんのお婆さんだぁ。」


 そんなところで実感したくなかったよ。


「それより、お婆様。発動具を…。」

「分かっておるよ、アビランテ。話はきいとったでな。どれ、ドライアドのお嬢さんこっちに来なされ。」


 なんか、すっごく不安そうな顔してるよヴィスカ。

 でもごめん、ちょっと面白そうだか…今後の社会勉強のために行ってらっしゃい。


「ふむ、梅かえ。ヴァイスカガと言っておったか。お主は発動具を持った経験は?」

「な、無いです。」


 あー、めっちゃ緊張してるなー。


「ふむ、特に使ってみたい発動具は有るかえ?」

「使ったこと無いし、何でもええんです。」


 うむ、緊張してる姿も可愛いな。

 レイアちゃんはお婆さんに直々に発動具を探してもらっているのが羨ましいのか、ちょっと残念そうな顔してる。

 発動具って杖だけじゃないのかな?


「ほうほう。なら、一番使い勝手がいい、短杖から試してみるとするかえ。アビランテ、短杖の35、36、37辺りを一つづつ試しておやりなさい。」

「お婆様は?」

「そっちのお嬢さんも発動具を持っていないんじゃろう?見てやるさね。」


 おっと?レイアちゃんは忘れてたっぽいのに、お婆さん流石だなぁ~。

 この人には敵わなさそう。

 レイアちゃん、そんな親の仇を見るような目で見ないで。


「レイスアラン嬢もついでじゃ、こちらに来なされ。」

「は、はい!」


 良かったね、本当に嬉しそうだよ。

 そんなに有名な人なのかな?


「これでも、業界ではトップを維持しとるんじゃよ。いっひっひ。」

「心を読まないでください!!」

「いっひっひ。さて、まずはレイスアラン嬢今持っとる発動具を見せてもらえるかのう?」

「はっはい!!これです。」

「ほほう。水晶じゃな曇りも少なく良いものじゃ。これは何処で?」

「お父様が、ノームの里に出向いて頂いたものだそうです。」


 おおー、ノームとかも居るんだ!

 あの水晶綺麗だなー。

 何か、中に模様が浮かんでるのもまた良いよね。


「ふむ、得意な属性は何じゃ?」


 ああ、属性とかもちゃんとあるんだね。

 ここでは何種類有るんだろう?


「金です。」

「ほほう!その年で中級が扱えるか。アビランテに聞いては居ったが、思っていた以上に優秀じゃのう。」

「え、えへへ。有難うございます。」


 うわー。

 レイアちゃんのそんな顔初めてだけど、凄くだらしない顔してる。


「金か、発動方法は?」

「ロジックです。」

「ふむ、それであるならば台座を作るのが良かろう。今良い物を置いておらんだ、オーダーメイドで銀貨40で引き受けようかのう。」

「本当ですか!?お願いします!!」


 それにしても、さっきから金だとか、中級だとかロジックだとか初めて聞く言葉が多いなぁ。

 本当に自分の魔法が使えるのか不安になってきた。


「そっちのお嬢さん…。アグリアじゃったか。お主は何か良く使う発動具などは有るかのう。」

「特に無いんだけど、しいて言うならチョーク?」

「ワシに聞かれても知らんよ。それにしても、チョークとは。レターの使い手かのう?」


 また、知らない言葉が出てきた。

 レター?手紙ですか?


「ふむ、レターが分からぬか。ちと、此処でもできる魔法を使ってみなされ。」

「うえ!?あー、はい。」


 どうしよう、期せずして魔法のお披露目の時が来た。

 これで魔法が出てこなかったら最悪だよー。

 どうしよう、何の魔法を使おうか?

 攻撃系は無しとして、チョークの話をしたし、サークルキャストかな?

 どれにしよう。

 一番簡単な無光光源かな?


「そ、それでは。

  我持たざるは示す術。

 其は持たざるを持つもの。

 一律の流れを生むもの。

 我に与え給え。

”クリエイト・チョーク”」

「あら。」

「ほう。」


 おおおー!!!

 出来た!私の手の中に見たことが有るただのチョークが有る。

 でも、まだまだ!

 これで床に失礼して。

 まずは二重円を描いて、中にひし形、十字。

 円と円の間に文字を描いていってっと。


「よし、

  一律の流れに現れる無限の可能性よ、

 我の示したる力に従い起動せよ。

”スタート”………、出来たー!!」


 すごい凄い!!

 目の前に見えない光源が有る!

 光が見えないのにちゃんと周りが明るくなってて不思議!

 初めての魔法、興奮してきた!


「これは、また。」

「ふむ、予想外じゃなあ。アグリア嬢、お主何処でそれを身に付けた?」

「ふえ!?あのう、えっと。」

「いや、言いづらいなら構わん。それにしてもワードとレター両方か。しかもどっちも始めて見る魔法じゃが恐ろしく綺麗な発動じゃ。まるで演算機で計算をしているような正確さじゃのう。」


 うおぅ。

 このお婆さん凄く鋭い。

 でも、そう見えるんだ。

 いやーほんときといて良かった。

 他の人の意見とか初めから聞けるとは限らないからね。

 何か言い訳とか考えとかないとなー。


「これは、発動具は要らぬな。」

「そうですね。」

「お婆様ー!こちらは終わりましてよー。」

「こちらもおしまいじゃ。」


 あ、勝手に終わりにされた。

 まあ、元々必要と思ってなかったし良いか。


「ほほう。マスケラ作の36番かえ。それ後はお主用に調整してやろう。」


 ジャキン!

 ほえ!?

 いきなり髪を切ってしまったよこのお婆ちゃん!


「わぁぁーー!!いきなり何するん?!」

「いっひっひ。ドライアドの体の一部は植物の魔法を使うときの良い調律剤になるんじゃよ。」

「うわぁぁん!うち、傷物にされてもうた…おとんにも剪定されたことないんに…。」


 なんか、エロティックな響きだけど。

 そっか、ドライアド的には剪定になるのか~。


「そんくらい、言ってもろたらうちがやったんに…。酷いわぁ…。」

「いっひっひ。入学式には間に合わすよ、また来んしゃい。」


 本当に濃い人だなこのお婆ちゃん。

 そう言えば。


「そう言えば名前はなんて言うんですか?」

「「「え?」」」

「聞いとらんかったん?アグリアちゃん人の話はちゃんと聞かんとあかんよ?」


 あれ?

 名前言ってた?

 と言うか、ヴィスカに当たり前のことを説かれるって言うのが何故かすっごく傷つく。


「仕方ない嬢ちゃんじゃのう…ワシの名前は。」

「な、名前は…。」

「スケルトン。スケルトン・フィンキャスタ・アツェスターニじゃよ。」

「名前なの!?」


 因みに、お婆さんはガリガリなだけの人間でした。

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