3.発動具《クリエイト・チョーク》

 我持たざるは示す術。

 其は持たざるを持つもの。

 一律の流れを生むもの。

 我に与え給え。


”クリエイト・チョーク”


- - - - -


 わー、私何処に来ちゃったんだろう?

 きっと東京でも、日本でも、果ては地球でも無いよね?

 取りあえず、座りなおす。

 ん?

 背中に違和感が有る。


 背中にどうやらリュックを背負っているようだ。

 リュックを降ろしてみる。

 ふむ、こんなリュックを何処かで見たような気がする。

 見た目は普通の革のリュック、分厚い本みたいな直方体で、手提げと肩紐両方付いて居る。

 開け口は前に来ていて、そこに良く知ってるマークが有る。


「どないしたん?」

「ん?ああ、荷物を確認しとこうと思ってね。」


 さて、何が入っているやら。

 ふむ。


 見たことの有る本。

 何かの証明書っぽい紙。

 水筒。

 お弁当。

 ハンカチ。

 ちり紙。


 うん、本と紙以外は完全に遠足だね。

 でも、丁度いいかな。


「本の中身は…。うん。」


 知ってた。

 これは、ミリオンスペルのキャストマニュアルだわ。

 覚えた魔法の使い方が書いてある、いわゆる取説。

 読者さんはもう想像ついてると思うけど、このバッグはミリオンスペルのプレイヤーの正式装備。

 アイテムをどんなものでもそのままの状態で保存できる、保存バッグ。

 それからついでに、アグリスって名前も私のつけたプレイヤーの名前だったりするのです。


 まあ、それは良いとして。

 さっきの白い花をページの間に入れーノ。

 皺を伸ばしーノ。

 花弁を整えーノ。

 挟みーノ。

 嫁ぎ…ません。


「何やってるの!?そんな事したら本が傷んでしまうでしょう!」


 流石に本好きなのか、レイアちゃんが怒りだした。

 だが、この本はそんな事を気にする必要が無いのだ。


「大丈夫。この本は破壊不可属性が付いてる本だから。」

「破壊不可属性!!」


 そう、こいつは火の海に落としても、剣で切り付けても、水に落としても、湿気の多いところに保存しても、燃えず、傷つかず、にじまず、かびない、所謂無敵なアイテムなのだ!

 まあ、そりゃあこの本が無いと、ミリオンスペルは遊べないので当たり前の”大事なもの補正”と言ったところなんだな。


「これなら、押し花も気兼ねなく作れるねー。」

「破壊不可属性のアイテムを押し花のために使うって…。頭が痛くなってきたわ。」

「そうなん?レイアちゃん大丈夫かいねぇ。うちの花粉のせい?ほんなら全部摘んだって!」

「い、いえ結構よヴァイスカガさん。」

「もう。うちのことはヴィスカでええんよ?アグちゃんにもろうて気に入ってん。」

「そ、そう。えっとヴィスカ。」

「えへへー。」


 えへへ、意外とレイアちゃんも表情豊かだなー。

 この二人結構相性良いのかも。

 それにしてもアグちゃんかー。

 良いあだ名かも。


「それにしても、そんなすごい本。もしかして発動具なのかしら?」

「発動具?なーにそれ?」

「何貴方、発動具も知らずに魔女学院に向かってるの?」

「はいはーい。うちも!うちも知らん!」

「…はぁ。分かったわ。これも何かの縁ね。街に着いたら貴方たちの発動具を買いましょう。案内するわ。」


「「やったー!」」


- - - - -

『本日は新入生特別列車、シーサーペントをご利用いただき有難うございます。

 間もなく、終点。ヒキガエル通りです。お荷物、使い魔のお忘れ物が無いよう、ご確認ください。

 学生宿舎はそのまま真っ直ぐ、エントの広場を右に曲がったところです。

 お買い物はフクロウ通りへ。

 それでは、皆様の新生活に魔力の導きが有らんことを。

 車掌のグライン・デモニック・ハートでした。』

- - - - -


「着いたー!何か…すごい!」


 はいはい小並感。

 でも本当にすごいよ。

 街は海中に有るのにすごく明るいし、上の方には海面越しにでっかいお城みたいなものが見える。

 あれが学校なのかな?

 街並みも何となくおしゃれで、見たことも無いアイテムが所狭しと並んだ出店が軒を連ねている。


「ほんま、凄いところやんね。うち、こんなに色んな種族見たん始めて…。」

「そうね、良くも悪くも、魔法さえ使えれば種族が何だろうと、生まれが何だろうと、この街に住むことが出来るから。」

「へぇー。レイアちゃんは良く知ってるね!」

「一応、常識よ。アグリスは常識を覚えるべきね。」

「うちも知らんかった!」

「ヴィスカはもう手遅れね。」

「そんなぁ…。」


 なんか、この二人すごく仲良くなって無い?

 私、まだレイヤにアグって呼んでもらってないのに。


「それじゃあ、常識ついでに一つ教えといてあげるわ。ドライアドにとって花を摘ませてって言うのは求婚行為よ。普通は家族以外はしない行為だから。」

「ふえ?!何それ!ヴィスカちゃん、私そんなつもりじゃ!」

「うちも知らんかった…。」


 あれ?

 じゃあノーカンかな?


「そうじゃないかと思ったわ。でも、普通はそういうものよ。むやみに摘ませたり摘んだりしないこと、分かったかしら?」

「「…はい。」」


 危うくヴィスカちゃんと結婚するところだった。

 うん常識、大切だね。


「はあ、今後が思いやられるわね。さて、行きましょう。いいお店を知ってるわ。」


 うーむ。

 レイアちゃんの後姿はとっても大人だなー。

 今後お世話になりそう。

 おがんどこー。

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