2.列車《アースクエイク》

 揺れる揺れるは、我が思い。

 ながるる時は歪みを出だし、

 盛る力は弧を描く。

 大地の音は、全てを崩す見えざる手。


”アースクエイク”


- - - - -


 何だかゆれるなぁー。


「はっ!地震!?」


 ふにゅ。

 あれ?何か触った?

 柔らかくて…ふさふさ?


「そ、それぇ、あたしの花なんよぉ~。」

「ふえ!?ご、ごめんなさい!」


 横に目をやってみると、緑色の可愛らしい服を着た女の子が居た。

 耳当てのついたニット帽を目深にかぶっているその顔は、田舎っぽいけどとってもキュート!

 触っていた所を見ると、太ももの辺りに白い花が幾つかきれいに咲いていた。

 なんだかやっと目が覚めてきたよ。

 此処は何処だろう?

 座席が有って、カーテンが有って、

 揺れてるし、狭いし…あれ?

 もう一人向かいに有る席に居た、こっちは黒ベースの魔女っぽい服。

 本を読んでて下を見ているけど、広い帽子のツバから覗く顔がとっても綺麗でお人形さんみたい。

 どっちも、年のころは私と同じくらいかな?


「目ぇ覚めた?」


 横の女の子が話しかけてくれた。

 よく見れば、小さな花が一つ皺くちゃになっている。


「う、うん起きたよ。その…花、ごめんね。」

「良いんよぉ。うちの花はそろそろ落ちる時期だに、もう取ってしまっても構わんのよ。」


 凄く訛りが強いけど、この子とっても可愛くて、方言女子にはまる男の人の気持ちも分からなくないなー。


「とっちゃうの?綺麗なのに勿体ない。良かったらもらって良い?栞にしたい!」


 押し花は昔に良くやっていたし、皺は付いてるけど、綺麗な花だからきっと素敵な栞が出来ると思うんだ。

 それにしても、取るって足にくっ付けてたのかな?

 タイツも履いて無いようだけど、どうなってるんだろう?


「え!?う、うちの花、そんな気にいってくれたん?ほ、欲しいって、そんなん行きなし言われても照れるわぁ。」

「?うん。綺麗だよねその花、でも無理なら大丈夫だよ?」


 そんなに反応されるとは思っていなかったよ。

 こんな状況でもお人形魔女子(仮)さんは本に目を落としたままだなぁ。

 あんまり大声出すと怒られるかな?


「無理じゃないよ。良かったら摘んでみんね?」

「ふえ?摘む?」

「うん。はい、摘んでみんね。」


 そう言って緑子(仮)さんは太ももを差し出してきた。

 よく見てみると、花がついて居る左足は色白だけど、右足は少しだけ色が暗い気がする。

 って、あれ?

 この花、足に直接付いてる。


「え?これって。」

「どうかしたん?は、恥ずかしいけん、早よぉ摘んで。」

「え、あ、うん。」


 それでは失礼して、

 プチッ


「うっ……痛ぅ。」

「え、痛かった?ごめん!」

「かまへんよぉ。素敵な栞作ってな?」


 もう、そこでハニカムとか可愛すぎるよ!

 それにしても、太ももの所少し跡になってる。

 これ本当に足に咲いてたんだ。


 …これは、夢なのかな?


 それにしては嫌に明瞭なことだ。

 緑子さんみたいな可愛い女の子も会ったこと無いし、お人形魔女子さんみたいに綺麗な人も会ったことが無いはずなんだけど。

 うーん、まずは名前だね。


「まだ、自己紹介して無かったね。私はアグリス。」


 って、あれ?

 何でアグリス?

 私はアグリスじゃないか…ってあれ?

 桐野 五十鈴、うん、ちゃんと覚えてる。

 でも私はアグリスだ。

 何でだろう?


「うちは、ヴァイスカガ・プルーヌス・ムメ。分かってる思うけど、ドライアドなんよ。」

「うん、よろしくね。」


 考えないことにしました!

 私の名前も、この子のことも。

 ドライアド?可愛ければオッケー!!


「そちらの魔女っ子さんは?」

「…。私の事?」


 お、反応してくれたね。

 本から目線を外してやっと顔を上げてくれた。

 やっぱりとっても綺麗だよ。


「うん、君しかいないじゃない。」

「…あなたたちも、一応魔女じゃないの?まあ良いわ。私はレイスアラン・グレイフィード・デヴィストーン。アグリスさんと同じ人間よ。」


 意外とちゃんと反応してくれた。

 もっと無口な物だと思ってたよ、ゴメンネ。

 それにしても、どっちも長い名前だなー。

 こういう時はあだ名に限るね!


「じゃあ、ヴィスカちゃんとレイアちゃんだね!!」

「ヴィスカ…へへへ、ありがとお。」

「好きにしなさいな。」


 なんか、嬉しいな。

 さて、自己紹介は良いとして…。


「所でここは何処?」

「何貴方、まだ寝ぼけてるの?」


 どうやら変な質問をしてしまったようだ。

 流石にレイアも本を閉じて反応した。


「うちら、魔女学院の出してる、新入生特別海中列車の中におるんよ?思い出した?」

「え!?……う、うん思い出した。そうだったよね、変な事聞いてごめんねー、ははは。」


 魔女学院、新入生、海中列車…。

 ふと、横のカーテンを開けてみる。

 なにこれ…。

 視界いっぱいに広がる深い青色の世界。

 逆さになった世界樹みたいなものが遠くの方に見えるし。

 少なくとも、普通に目にすることは出来ない光景だったよ。


 これから私、どうなっちゃうの?

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