第4話 庇う

 



「あなた、その男、助けるつもりなの?」

「助けるっていうか…このままだと死んじゃうだろ」



(放置していいものならしたいけど)


 戦いながらも、少女はこちらの様子を確認している。自分を突然襲った相手だ。四季とて、進んで助けたいわけではない。だが、放っておけば、この男は死んでしまう。


 男を助けるには、魔導師の管理をしている……魔導師連盟に連絡をして、助けを呼ぶしかないだろう。四季はポケットから携帯を取り出すが、その携帯は焼けただれてしまっていた。金髪の男の攻撃のおかげで。



「この男のせいで……。放って帰るかな」



 この状況に陥ってしまったのも、携帯が壊れたのも、魔導師連盟に連絡しなければならないことも。すべては金髪の男のせいだというのに。四季は悪態をつきながら、男の魔法証を掴み、自分の鞄に隠す。体外に放出された魔法証を、どうしてよいのかわからなかった。



「なんだろう、手が痺れたな…」



 魔法証は、仄かに熱を持っており、静電気のようなものをまとっていた。手を開いたり閉じたりして感覚を取り戻していると、焦った様子の少女が、四季を振り返る。



「とにかく、早く逃げなさい。巻き込まれたくはないでしょう」

「ええと、でも、君は」



 四季たちに向かって飛来してきた氷の礫を大鎌で払いながら、少女は叫ぶ。怪我を治療してもらった四季は、体力も回復しているので、金髪の男を担いで逃げることも出来なくはない。しかし、雨霧は相当に強い相手だろう。二人が逃げたあと、少女はどうするつもりなのか。



「私なら大丈夫よ。あの赤い髪、ただ者ではないみたいだけど、私だって…負けるわけにはいかないわ…!」

「とりあえず、この人は避難させる。そしたら戻ってくるよ」

「あなた、普通の人間でしょう。戻ってきてどうするっていうの?私の心配なんていらないわよ」



  確かに、魔導師でない四季にはどうすることもできない。だが、四季の目には、少女が雨霧に圧されているように見えた。雨霧は、服にいくらか焼け焦げた跡があるだけだが、少女の方はといえば、セーラー服はぼろぼろで、頬や太ももの辺りに切り傷ができていた。



「くっ!」



 雨霧の氷が少女の足元に突き刺さり、吹き飛ばされてしまう。彼女の武器の大鎌は、少し離れた四季の足元まで転がってきていた。座り込む少女に、雨霧が迫る。



「魔法証を渡せ。無駄な殺しはしたくはない」

「ふざけないで。渡すわけがないでしょう」



 少女は雨霧を睨みあげると、空中に人差し指で魔法陣を描き、小さな矢を数本放った。雨霧は大剣でそれらを凪ぎ払うと、少女の喉元にその大剣を突きつけた。



 

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魔導師の証明 潮 かお @noisezone

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