第2話 赤

 



「はあ?誰だお前」

「赤い魔法証を持つ者の話をしていたな」



 新しい人物の登場で、失いかけていた意識が、戻ってくる。


(おおう、第2のイケメンが現れた…。こいつも魔導師か?万事休す!)


 金髪の男に詰め寄る、冷淡な声。どうやら、この赤い髪の男も、その噂の人物を探しているらしい。金髪の男も端正な顔付きをしているが、この赤い髪の男も、眉目秀麗で、だからこそ感情を現さない瞳が、四季の恐怖を煽っていた。



「そうか、お前もあれを狙ってるのか」



 一気に階級をあげることのができる可能性があるのなら、魔導師として、それを狙うのは当然ではあった。 


 階級が上がれば、使える魔法の種類も増加し、威力も増す。それたけではない、他の魔導師に殺される危険性も、減ることになるのだから。



「そいつはどこにいる?」

「こっちもそれを探してるところだ。知ってたとしても、他人に教えたりはしないがな」

「そうか、知らないのか……。だが、お前も魔導師だな」



(今、逃げるチャンスだよな…。逃げたいけど、…だめだ、動けねー…)


 赤い髪の男の出現により、金髪の男の興味は四季から逸れたようだ。その隙になんとかこの場から離れたいのだが、指一本動かすことが出来ない。今の四季に出来るのは、二人の会話を朧気に聞くことくらいだ。



「死にたくなければ、魔法証を渡せ」

「ふざけるなよ。俺は二級魔導師だぞ」

「たかが二級か」

「なんだと……?」



(にっ、二級魔導師…?!)


 魔法についてはそこまで見識のない四季でも、二級魔導師が、たかが、などと言われるような数値ではないことはわかる。四季の通う高校の同級生にも魔導師はいるが、その取り巻きが、彼は四級魔導師だと自慢げに吹聴していた。


 魔導師の階級は、十級が一番低く、強くなればなるほど、その数字は減っていく。平均的な階級は四季には定かではないが、二級ともなれば強力な魔導師とみて間違いないだろう。


 赤い髪の男は、金髪の男を更に上回る強さだとでも言うのか。それだけが強さではないとはいえ、階級の低いものに勝ち目はないといってもよい。



「突然現れて、偉そうな奴だな。お前の魔法証、この俺が引き剥がしてやるよ」



 金髪の男の手のひらが光ったかと思うと、そこに魔法で造られた拳銃が現れた。


 赤い髪の男の手からも、大剣が現れる。金髪の男は、いぶかしげに赤い髪の男の顔を見つめた。そして何かに気づいたかのように、眉を動かす。



「大剣にその髪の色……思い出した。赤い髪の男の話、聞いたことがある。確か名前は……雨霧界あまぎりかい、だったか?」

「そうだ。わかったなら大人しく降参でもするんだな」

「バカ言うなよ。どれだけ強かろうと、お前を倒して階級をあげてやる!」



 四季には聞き覚えはないが、赤い髪の男の名前は、雨霧界といって、魔導師の中では話題に上るほどの人物のようだった。金髪の男の話ぶりからするに、雨霧は、噂になるほどの強力な魔導師だと察せられる。


 ともかく、二人の意識が逸れている今こそ、逃げなければならない。四季は、痛むからだに鞭を打ち、立ち上がろうとする。そうしている間にも、二人の男たちは戦いを繰り広げていた。



 

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