もう


【修のターン】


 岳と犬山と狭いトイレの中で、互いに何回も顔を見合わせる。


 綺麗すぎる……なんだあの真ん中の子は!? 今でも心臓のバクバクが止まらない。こんな綺麗な子は、人生で初めて見たかもしれない。完全なるドストライク。心臓を強烈に叩きつけられた気分だ。


「おい、ヤバいよ今日レベル高すぎだろう!?」


 もう一人の友達である、犬山が取り乱した様子で叫ぶ。


「いや、俺も真奈ちゃんが一番可愛いと思ってたけど、あの真ん中の子はヤバいな。右側の子も超可愛いし」


 そうなのだ。みんなかなり可愛いのだ。今まで行ってきた合コンにはいなかったぐらい可愛くて、しかも真ん中の子は綺麗すぎる。


「おい、岳。お前どうすんの?」


「……俺は当初通り真奈ちゃん。逆にあんな可愛い子連れてきてくれるなんてどんだけいい子なんだよ」


「じゃ、俺は右側な。いや、岳。お前最高だよ。よくあんなの連れて来てくれたわ」


「……って、じゃあ俺があの真ん中の子か」


「「……」」


 な、なんだよ。お前らが言ったんだぞ。


「修。言っておくが、お前と彼女の間にはかなりの戦闘力の差がある」


「ど、どのくらい?」


「地球人の村人とフリーザくらい」


 そんなに――――――!? 五三万以上じゃねぇか。


「俺たちだって変わらない。ヤムチャぐらいだ。だから! だからお前は貴重なモブマスコットキャラとしてわき役に徹してくれ。すまん」


「き……貴様……」


 いい加減にしろよこの野郎。


「落ち着け! 狙っていいんだ。宝くじは買わないと当たらないんだ。ただ、本気にはならないでほしい。場を壊して帰って欲しくないんだ。どうか、あの顔を密かに眺めているぐらいで満足して欲しい」


 犬山を俺の肩を思い切り掴んだ。その握力でどれだけ本気か理解できた。


 そうか……まあ、そんなものなのか。


 何もあんな美人と付き合える訳じゃないのだ。ドストライクだろうとなんだろうと、バッターがヘボだったらヒットなんて打てないのだ。


 席に戻ると、いつもより岳が明るい感じになって仕切り始めた。


「おい、修は何飲む?」


「ビ、ビールを」


 いつもは生粋のカルーアミルク派なのだが、男のくせに甘い飲み物が好きと思われたくはない。しかし、一抹の不安はある。ハッキリ言ってビールは不味すぎる。そのまずさが顔に出なければいいのだが。


 飲み物が揃って、岳がグラスを高くあげる。


「じゃあ、カンパーイ」


「「「「カンバ―イ」」」」」


 と、合コンがスタートした。


 まず、勢いよくビールを――っまっず! まっず――――――!


 クソ苦い、なんだこのクソみたいな飲み物は。


「ねえ、修君。美味しい?」


 理佳ちゃんから……声を……かけてきた……だとっ!?


「うん、美味しいよ……」


 そう言って、ビールを一気の――まっず――――――! クソまずじゃねえかこの飲み物。


 いや、理佳ちゃんが見ている……まずい顔なんてできない。絶対に、ビール飲み慣れてないなんて……言えない。


 いや、美味しいんだ。苦くなんてない。味なんて……超えてみせる。


「じゃあ、もっと飲んでね」


 そう言って理佳ちゃんが俺にビールをつぐ。


 ……期待されている。噂に聞くところによると、女子はいい食べっぷりを見るのが好きだという。その理論で言うのなら、いい飲みっぷりを見るのも、好きなはずだ。


 ビールは……甘い。ビールは甘い。そう、ビールは……


 にっが―――――――――!


「お゛い゛じい゛……」


 100パーセント嘘だが、満面の美味しい顔を浮かべた。


「そう? よかったぁ」


 その弾けるような笑顔。なんて、無邪気そうに笑う女の子なんだろうか。それだけで、今日来たかいがあった。ありがとう、親友。


「……里佳ちゃん」


 あっちから話しかけてくれたんだから、今度はこちらから話しかけるのが筋であろう。


「は、はい」


「……」


 酒が足らない。残っていたビールを飲み干す。


「趣味なんてありますか?」


「ないです」


 これは……いったいどうしたらいいんだ……趣味がない人間っているのか? それとも、もう俺とは話したくなくて……


 もはや、理解不能すぎて二の句がつけない。


「なーんちゃって。趣味は読書です」


 その言葉で、なんとか緊張がほぐれた。


 はーっ……心臓止まるかと思った。


「里佳ちゃんてお茶目だなぁ」


 そう岳がツッコむ。


「おふざけが過ぎるのよこの子の場合。あたしはよくこの子の被害に遭うんだよ、岳君」


 真奈ちゃんが赤い顔をしながらカシスオレンジに口をつける。


「俺が守ってやるよ」


「やーだー岳君ー!」


 ……勝手にやってろ。


「真奈はね。すぐ騙されるの。そして、私は彼女を騙すことに生き甲斐を感じているの」


 そう言って自然とアシスト役にまわる理佳ちゃんの気遣いたるや。そんな大和撫子のような気遣いができるなんて、もう最高じゃないか。


「そっかー、里佳ちゃんはどSな訳だ」


 犬山……お前ってやつは、彼女の優しさが今のやり取りで感じられなかったのか。お前と言う人間は、ほんとーにクズでどーしよ―もない。


 この笑顔を見るだけで、ビールがすす――まっずっ!


「修君のご趣味は?」


「えっ……」


                ・・・


 はわわわわっ……二分経ってしまった。


 趣味はもちろん、ある……だって人間だもの。


 『週末は好きでテレビドラマとか海外ドラマとかを借りて見てます。あと、漫画と小説も……』


 完全にインドアやん、オタクやん!? そんなことを自覚して、どうしても言いだせなかった。


 イケてる女の子は、旅行とかバーベキューが好きなスポーツ系アウトドアイケメンが好きなんだ。そして、そうでない自分が好かれる要素などない。でも……それでも……言いだせなかった。


「ご、ごめん何もなかったらいいのよ。何もなかったら」


 ……申し訳なさそうな顔をさせてしまった。


「ごめんなさい」


 ただただ、謝ると言う結果に終わった。


 やっちまった……


 結果として、『ただ謝る』と言う最悪な回答。


 合コンとしての態勢に影響はなかったが、俺の心には酷くダメージを受ける結果となった。


 合コンも終わって、ひとまず解散をすることになった。犬上と岳は、真奈さんと留美さんを連れて二次会へ向かって行った。二人ともちゃっかり電話番号を聞いていて、盛り上がりながら町へ消えて行った。


 名古屋駅のホームまで来た。もう、ここでお別れかとろくに話も出来なかったくせに、惜しい気持ちだけはあるのがまた悔しい。


「さて……修君は、どこに住んでるの?」


「えっと……瀬戸市」


 多分知らないだろう。愛知でもこんなマイナーな地域は。


「えっ、うっそ。私も瀬戸なんだよー」


「嘘!?」


「うっそー!」


 ……何が起きたのかわからない。


「なぜ……嘘を?」


「ごめんごめん。嘘が嘘。本当。本当に瀬戸市出身です。一緒だね」


 一緒……その可愛い物言いに、胸が凄く締め付けられる。


 こんなドキドキは高校二年生の時以来だろうか。


「「……」」


 帰り電車内、沈黙。会話の糸口が見当たらず、明らかに気まずい空間。そう言えば、女の子と二人きりになって話すなんて初めての経験かもしれない。な、なんとか話をしないと。


「こ、高校はどこだったの?」


「私? 聖フォース学園」


「ええっ! あのお嬢様学校で有名な?」


 ますます、そびえ立つハードルが高くなる。


「お嬢様って大げさな、で、そのままエスカレーター式で南城大学にね。修君はどこの高校だったの?」


「ええっと旭山高校」


 もちろん、バリバリの公立。自転車で毎日一二キロ。尾張旭の高校なんだから当然知らないよな……


「旭山高校……あの有名な!?」


「えっ! 知ってるの」


「知らない!」


 ……なんなんだこの子は。



「尾張旭の高校で公立だから。知ってなくても全然不思議じゃないけどね」

 駄目だ。こんな普通の会話で彼女みたいな子が、俺のこと好きになるなんてあり得ない。この時ほど、自分の平凡さが恨めしいことはなかった。


 どうしようもないほどの劣等感が襲う。


 格好いい訳でもない、面白いわけでもない。他に何か特技があるわけでもない。そんな俺なんかを、彼女が好きになってくれるわけ。


 瀬戸市駅に到着した。


 彼女はここから、バスに乗って帰るそうだ。恐らく、瀬戸でも結構田舎の方なのだろう。


「じゃあ、今日はありがとうね」


 そう言って、理佳ちゃんは満面の笑みを浮かべて歩いていく。


 ああ……行ってしまう。


「理佳ちゃん!」


 なぜ呼び止められたのか。酒の力か、勢いなのか。ただ、振り向いた彼女はあまりも可愛かった。


「ん? どうしたの」


「携帯番号を、教えてくれないかな?」


 震える声で、口に出した。


「……うん、いーよー」


 笑顔で応じる理佳ちゃんを見て、もう俺は好きになっていた。 






 

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