実家に帰った


【夫のターン】


 妻が実家に戻ることになった。凛を産むときも実家に戻っていたので、毎年恒例ではある。


「じゃあね、修ちゃん!」


 全然寂しそうじゃない理佳に、ちょっとだけ寂しいような気持ちがする。


「わーいわーい!実家、実家、実家!」


 凛ちゃん……俺のことなど、すでにアウトオブ眼中。パパ、寂しいよ。


 と、言うことで、一人です。


 普段、騒々しい家の中が、めちゃくちゃ静かだ。


         ・・・


 めちゃめちゃ、静かだ。


 なんか……なんだろうか、この解放感は。


         ・・・


「超超超超、いい感じ! 超超超超超、いい感じ! 超超超超超超超超いい感じ!」


 なんとなく……モー娘。


「チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! チョコレイト、ディスコ! コッコッコッ! ディスコ! コッコッコッ! ディスコ!」


 なんとなく……Perfume。


 はぁ……はぁ……


 そして、最後は……もちろん、浅田真央。


「お送りするナンバーは、ラフ・マリノフのピアノ協奏曲第2番……磨いてきたのはスピード……トリプルアクセル……跳んだ! 次は3回転3回転……これも成功……続いては」


 彼女の演技を想い浮かべて、エア・フィギュアスケート。


 解説1 俺。


 解説2 俺。(タラソワコーチ)


 選手 俺。(浅田真央)


 音楽 俺。


「最後のジャンプも……跳んだ! ジャンプは全て成功! あとは、世界一のステップ……タッタラタラララ、タッタラタラララ……ターラーラーラー……」


「マオ! ゴー、マオ! ゴー!」


 タラソワコーチ(俺)も応援してくれてる……英語じゃないかもだけど。


 そして、華麗なステップを決める浅田真央(俺)。


 はぁ……はぁ……あと、ちょっと! あと……ちょっと!


 バン!


「はぁ……はぁ……おおっと! 鳴りやまぬ拍手。鳴りやまぬ拍手。全世界が感動しております。全世界が――「クシュン」


 !?


「り、理佳……」


 お前……その携帯……というより、なんでここに……


「あっ……続けて続けて♡」








 心の中で、殴った。


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