生まれる


【妻のターン】


 妊娠してから、そろそろ9か月。私自身は2回目なので慣れているが、夫のソワソワが止まらない。


「おはよー、修ちゃん」


「……そのおはよー、ってどういう意味?」


 夫が神妙な面持ちで問いかけてくる。


「ん?」


 おはよー、に複数の意味ってあったっけ。


「……いや、いい。そうだよな」


「なんなの?」


「いいって! それ以上考えるな! ああ、と言っても怒ってるわけじゃないぞ。全然怒ってないから。ストレスフリー、ストレスフリー」


「……」


 めっちゃ、ストレス溜まる。


 どうやら、出産が近くなって。神経過敏になっているようだ。普段、神経過敏じゃない人が、神経過敏になると、全ての物事に反応して、なんだか凄く面倒くさい。


「いいから朝ご飯食べてよ」


「う、うん」


 モグモグ。


 モグモグ。


「バナナいるか?」


「……いらない」


 普段は、食べようとすると鬼のように怒るバナナを分け与えようとする夫。


「ああ、ごめんな。酸っぱいモノがいいな。酸っぱいモノ」


「ハバネロが食べたいな!」


 ――なーんちゃ


「そうか! ちょっと待ってろ!」


 ダッ。


 バタン。


 タッタッツタッ……


          ・・・


 えええええええええええええっ!


 じょ、冗談じゃん。ギャグに決まってんじゃん。


          ・・・


「はぁ……はぁ……買ってきた……」


「あ、ありがと」


「はぁ……はぁ……うっ、うぉえええええええ……」


「しゅ、修ちゃん!?」


 えずいている……全力で走りすぎてリアルおえぇってなってる。


「だ、大丈夫! お前が赤ちゃん産む時の苦しみに比べたら……こんなのなんでもない!」


 親指ビシっ!


「修ちゃん……」


 この男は、なにを言っているのだろうか。


「ああ! そもそも俺なんかのえずきと、赤ちゃん産む時の痛みと比べるなんて! どうかしてるわ! 俺、どうかしてるわ!」


「……」


 まったく、もって、同意だ。


「さあ、食してくれ。と言っても、ハバネロは刺激物だから。ゆっくり。ゆっくりと食べてくれ」


「……あの、修ちゃん」


「ああ! 違うんだな!? ええっと……ええっと……」


「冗談! 冗談だから! いつものやつ! ギャグ。ギャグだから」


             ・・・


「えっ、なにが?」


 夫が混乱している。


「だから、ハバネロなんて食べたいわけないじゃん」


「……」


 やっと、気づいてくれた。これで、いつも通り「何考えてんだバカヤロー」ってなって――


「わは……わははははははははっ、わははははははははははは……相変わらず理佳はお茶目だなぁ。わは、わははははははははは」


              ・・・










 ぐはぁ!(なんとなく)

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