ホワイトデー


【夫のターン】


 3月14日の朝。いつものように目覚め、リビングへと行くと妻が鼻歌を唄いながらご飯の支度をしていた。


「フンフフンフフーン♪ あっ、おはようア・ナ・タ♡」


 凄く可愛くウインクを繰り出す妻。


「……」


「なにボーっと立ってるの? ご飯だから凜ちゃん呼んできて」


「……わかった」


 そう言って、娘を起こしに行って家族で食卓に座る。


「「「いただきまーす」」」


 モグモグ。


 いつもより豪華な朝ご飯だ。


「おいしいね」


 理佳が機嫌よさげに俺に語り掛ける。


「ああ」


「なんだなんだぁ、朝からテンションが低いなぁ。そんなことじゃ、今日一日乗りきれないゾー。はい、ウインナー。アーン♡」


「……」


 アーン、してもらった。


 モグモグ。


「おいしい?」


「うん」


「よかった―」


「あの……理佳?」


「ん?」


「ホワイトデーのプレゼント……ないぞ」


「えええええええええっ!」


「……逆に、なんであると思っているのか、俺は学校の怪談以上にホラーだよ」


 あんだけのことしといて。あんだけのことをしておいて。


「私はチョコあげたじゃん! ホワイトデーにお返ししないなんて道徳的にどうかしてるよ!」


「お前に道徳云々を言われると異様に腹が立つが」


 アレはチョコレートと言えるのかどうか、未だに謎だ。どちらかと言えば、毒に近いようなレベルだったと思う。


「そもそも私、愛らしい妻だよ! ダーリンダーリンだよ! ここにいーてー、みえるでしょー あたしがー、だよ!」


「愛らしくないし、なぜヤエコの歌を歌う?」


「そもそも私にお返しをしないで、誰にお返しをしようというのですか!? 浮気ですか!? 成田離婚ですか!? 週刊文春ゲス不倫ですか!?」


「……お前以外の全員」


 2月14日に食べられるチョコくれた全員に、お返しは用意してあるよ。


「ほ、ほんとにないの!?」


「ないよ。おっと……はい、凛ちゃん。ホワイトデーのお返し」


 そう言って、娘にクッキーを渡す。


「わーい、ありがとー、パパ―! わーい、わーい、わーい」


 嬉しそうにクッキーをモグモグする世界一可愛い娘の向こう側に、恐らく世界有数のウザさを誇る妻が、ムグググってなっている。


「さーて、そろそろ行くか。じゃあな」


 そう言って席を立って会社に向かった。


 これで、少しは反省してくれるといいのだが。


              ・・・


 午後22時。やっと仕事から帰ってきた。


「ただいまー」


 そう言うが返事はない。どうやら、寝てしまっているようだ。


「さて……」


 妻にもお灸をすえたことだし、そろそろ隠してあったプレゼントを……ない……ない……ない……


「ええっ!?」


 た、確かにここに隠してあったのに。


 パラッ。


 ん? 手紙……












『くれないとのことでしたので、勝手に貰っておきました。ニンニン』


 あ、あの女……

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