カラオケ


【妻のターン】


 いつものような休日。夫がテレビで歌番組を見ていた。今、流行っているカラオケ番組。素人が採点で競う『ザ・カラオケ王』という番組だ。


「やっぱウマいな、この人たちは」


「……」


 お前が歌を語るな、と思わず心の中でツッコむ。


 と、言うのも修ちゃんは酷いオンチだ。仮に歌ヘタ選手権があれば、全国大会出場常連として常に名前があがるほどのオンチである。しかも自覚症状は全くない、真性のオンチだ。


 そして、最近はうんちみたいなファッション(全身茶色)をして出歩くので、もはやうんちがオンチで、なんかもう全然笑えない状況になっている。


「……久々にカラオケ行くか?」


「え゛っ!?」


 夫の衝撃的な提案。


「凜ちゃん、カラオケ行くか」


「……グーッ、グーッ」


 む、娘が狸寝入りをしている。


「なんだ、凛ちゃん寝てるのか」


「じゃあ、しょうがないよね。残念だけど――「じゃあ、理佳。2人きりで行こうか」


            ・・・


 ぎゃああああああああああ。


「……グーッ、グーッ」


「いや嘘つけよ。この一瞬で、しかも立ったまま眠るってどんだけ高等技術だよ」


「……」


 バレたか。


「なあ、2人で行くなんて久しぶりじゃん。なあ、行こうよ」


 ノリノリの夫。この男は自らがどれだけの騒音をまき散らすのか、まったくと言っていいほど理解していない。


「あの……修ちゃん。2人じゃないよ」


「ん?」


「私と修ちゃんの愛の結晶が、このお腹にいるじゃないですか!?」


「あっ、そうだったな」


「と、言うことで私は遠慮――「じゃあ、三人で行こう」


 ですよね――――――!


「ちょっと、子どもには聞かせられないかなぁ」


「なんで?」


「……」


 オンチだからだよ!


 なんてことは、意外にも言えない。


 なんでもズバズバ行ってしまう性格ではあるが、こういうことは言えない非常に心の優しい人なのであった。(確信)


「聞くところにもよると、音楽って言うのは胎教にもいいらしいぞ。実はお腹の中で声とかって聞こえてて


「……」


 その理屈が正しいならば、なおのことカラオケに行く気にはなれない。生まれる前から修ちゃんの発する騒音が、グローバルスタンダードだと勘違いされては凄く困る。どうか、普通にモーチャルト的なやつを聞かせてほしい。


「じゃ、ちょっと着替えてくるわ」

 

「……っ」


 これだけ黙って『乗り気じゃない』アピールをしているのに、全く気づかない天然夫はどうかしていると思う。


             ・・・










 夫がうんちみたいな恰好で、オンチな歌を歌いに行きます。

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