【妻のターン】


 妊娠してもう8か月。段々お腹も大きくなってきた。


「あっ、動いたー」


「ほ、ほんとうか!?」


 修ちゃんが駆け寄って私のお腹に耳を当てる。


          ・・・


 にゃー……にゃ――


「にゃ、にゃあにゃあ言ってる――ってお前ふざけんなよ!」


「バレたか」


「じゃねぇよ! 一瞬本当にネコが生まれるのかと思ったじゃねぇか!」


「……」


 それは、逆になんで思うのか教えて欲しい。


「あっ、動いた」


「えっ、本当に!」


 すぐに駆け寄って再び耳を当てる。


          ・・・


 ワンワン……ワンワン……


「い、いい加減にしろよお前は」


「バレたか」


「バレるに決まってるだろうが! 普通に子どもの声を聞かせてくれよ」


「そんなこと言ったって、子どもだって動きたい時と動きたくない時があるんだよ! 全部が全部修ちゃんの思う通りに声が聞こえるわけじゃないんだよ!」


「じゃあ声が聞こえるというんじゃねぇよ!」


 私の不満は、修ちゃんの正論の下に一蹴された。


「あっ……」


「動いたのか!?」


「凛が寝がえりうった」


「寝返りくらいうつよ!」


「な、なんてことを……こんなに可愛い凜ちゃんが可愛くないって言うの!?」


 スヤスヤと眠っている娘に頬ずりしながら、夫に訴える。


「こんなに可愛く寝ている娘をダシに人をからかうんじゃない!」


 またしても修ちゃんの正論に屈する。


「あっ……動いた」


「……貴様、なんで俺のお腹に耳を当てる?」


「いや、気のせいかも知れないけど、なんか動いたなぁって」


「気のせいだよ!」


「そうかな……」


 ぷにぷに。


 びよーん。


「……なんで、俺の三段腹を弄ぶ?」


 そうツッコみつつ、気持ちよさげに好き勝手させる修ちゃんは可愛いと思う。


「へへへ」


 ここぞとばかりに修ちゃんのお腹に色々する。


「ちょ、ちょっとお前なにしてんだ!?」


「だって私ばっかり妊娠しても不公平じゃん。子ども書いてあげる子ども」


「ば、バカお前バカ……」


 そう言いながら、好き勝手させる夫。


 カキカキ


 カキカキ


             ・・・


「……なんだ、このケンシロウみたいなタッチは?」


「世紀末でも強く生きていけるような子に育って欲しいと思って」


「……仮に俺のお腹から息子が出てきたとしたら、そんな哀しい運命を背負わせたりはしない」


「ヘヘ……優しいんだね」


「もはや意味がわからんが」


「あっ……動いた」


「どうせ嘘なんだろう?」


「ホントホント……ほらっ」


 そう言って夫の耳をお腹に近づけさせる。


「……動いてる」


「うん♡」


「動いて……るな」


「はい♡」


「……凄いな」









 なんか、ほのぼのとした一日だった。

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