小学校(2)
【夫のターン】
ランドセルを買いに来て、『なんの色がいい?』と尋ねたところ、娘にこれがいいと、キャリーバッグを指さされた時点。
娘の規格外すぎる考え方に、ドン引きしています。キャリーバッグを引きながら学校に登校している光景……いくら何でも全然笑えない。
「い、いや凜ちゃん。ほら、ランドセルじゃないとダメなんだよ?」
「なんで?」
「えっ?」
なんで……そう言えば、なんでだっけ。小学生はランドセルって思い込んでたけど、今はそんな時代でもないのか……
「あのね、これね、コロコロってしてて凄く楽ちんなの!」
そう言って娘がキャリーバッグをコロコロする。
「……っ」
天使みたいなその屈託のない笑顔と、合理的かつ異論の余地のない説得に、思わず『じゃあ、それでいいよ』と言いたくなる。しかし、そう言うものではない。
「ご、剛君! 剛君もランドセルだよー。他のお友達も、多分みんなランドセルだから」
「……他の子と同じがいいの?」
「……っ」
アレ……今、俺、凄く恰好悪い大人なことを言ってる? 世間の流れに合わせろだなんて、そんなことを幼少のうちに教えてしまっていいのだろうか。
「ねえ、他の子と違うとダメなの?」
「……っ」
容赦のない娘の攻め込み。その無垢で純真な気持ちが、世間によって荒み切った俺の気持ちに突き刺さる。
「な、なあ理佳。どうかな?」
慌てて妻に助けを求める。頼む。どうか、お前の意味の分からない説得力で、この可愛い娘をランドセルへと導いてくれないか。
――っていない……!?
「ママ、『食品売り場に行ってくる』って!」
あ、あの女ぁ―――――――――!
となれば、俺が説得するしかないのか。しかし、俺の中で『なぜランドセルでなくてはいけないのか』という疑問が解消されていないのも事実。
「キャ、キャリーバッグは、子ども用がないんじゃないかな?」
「ふーん……あっ、店員さんだ。ちょっと凛聞いてくるね」
「あっ、ちょ……」
行ってしまった。
なんてアグレッシブな娘なんだ。
ニュータイプか。
「パパ―、あるってー!」
しかもあるんかい!
「……」
どうしようか。オーバー30のおっさんが、幼稚園児に完全論破されようとしている。というか、我が娘ながら天才過ぎる。
そんな時、
「修ちゃんー、理佳ー。たこ焼き買ってきたよー」
「お前……」
なんの屈託もなく、たこ焼きと妻が登場。
「あっ、ママー。やっぱり私これがいい」
そう言って子供用のキャリーバッグをコロコロ。いや、これはこれで凄く可愛いんだけども。
「んー高い!」
妻、一刀両断。
「えーっ、高くないよ。さっきのランドセルの方が高かったもん」
「だってこれ2万円でしょ? このたこ焼き400個買えちゃうよ」
「高っ! 高いね」
恐ろしいほど納得する娘。妻のケチさはしっかりと遺伝されているらしい。
「でね、凛。友達からもらう中古があるんだけど、タダなの! タダよ、タダ!」
「タダ……わーい!」
!?
「り、凛ちゃんいいの!? 中古なんだよ!?
「でも、タダなんでしょ? わーい、わーい! タダ! タダ!」
「……っ」
恐ろしい……我が娘ながら恐ろしい。
「ってことで決まりね修ちゃん」
『タダの舞』を踊っている天使のような娘を尻目に
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