本能


【妻のターン】


 金曜日の夜九時。凛ちゃんを2階で寝かしつけて階段から降りてきた。

 修ちゃんはソファで座ってテレビを見ている。


「フフフ……ハハハ……」


 テレビを見て、笑ってはいる。笑ってはいるが……それニュースだよ修ちゃん!


 これは……いわゆるサインだ。夫婦の営み、イチャイチャタイムが開始されるサイン。


 要するに修ちゃんは準備万端なのだ。後は、こちらの問題。


「修ちゃん……」


「ハハハ……んーっ? なんだい」


 なんだいじゃないわよ……準備万端の癖に。そんな風に装う修ちゃんは可愛い。


「お風呂入ってくれば」


「……!? わ、わかった」


 なにかを期待しているのか、猛ダッシュでお風呂へと駆け出す夫。これは、相当なにかを期待しているようだ。


                 ・・・


 バタン。


「はいってきた!」


 なんか、いちいち、宣言してきた。


「じゃあ、次、私はいるね」


「う……うん。気をつけてな」


 よくわからない言葉を残して、修ちゃんは2階へと上がって行った。


 私はというと、服を脱いで風呂場に入ってシャワーをひと浴びして湯船に入る。


 ブクブクブク……


 なぜか潜水してしまうのは、子どもの頃からの癖だ。そう言えば、子どもができてからは、一緒に入ることも少なくなったなぁなんて。


 決してイチャイチャタイムが嫌いなわけではない。むしろ、したい。年中、修ちゃんとイチャイチャ、ラブラブしたいと思っている。


 したいと思っているよ、修ちゃん。


 でも、いざしようとすると照れる。そして、夫が期待しているのがわかると、裏切りたくなる。


 つまり、こうなのだ。


 照れる+夫の期待=裏切る


 ……私の業の深さたるや……反省。


 今日こそ普通にイチャイチャして見せる。普通に、夫婦として愛情の確認会を行うのだ。


             ・・・


「修ちゃーん、出たよー」


「お、おお……ふむふむ……北朝鮮め」


 明らかに読んでいないであろう本をパラパラとめくり、なんか時事ネタっぽいことを口走っている。


 明らかに、なにかを期待している夫。


 ……ああああああ照れくさい裏切りたい―!


「おやすみ」


「ええっ!?  っとおやす……み」


 明らかに動揺した顔。裏返った声。そして……


 あの寂しそうな後姿――たまらん。


 そんな風に萌えながら、今日も布団に入る。


 神様……修ちゃんというおもちゃをくれて本当にありがとうございます。

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