夫婦生活とは
【夫のターン】
妻の一言に我が耳を疑った。幻聴……幻聴が、聞こえたのかと。
「里佳……お前、今、なんて言った?」
「んとねぇ、『多分、お義父さんが悪い』って言った」
……残念だ。どうやら、幻聴ではなかったようだ。
感覚ぶっ壊れてんな貴様は。
「お前……親父が嵐の櫻井君のサインが入ったコップを割った話を聞いたか?」
「うん」
「なら、わかるよな。当然、ワザとじゃないし、そもそも親父は洗い物をしてたんだ。いわば、家事。仕事が終わって疲れていてただろう」
「うん」
「いや、俺は別に『夫が家事をしたから感謝をしろ』なんて言っているつもりはない。別にいいよ、夫婦なんだから。お互いで家事を分担しあっていいと思う」
「まったく同意見です」
「でも……例えば俺が『お前が料理を失敗したから』って怒ったことがあるか?」
「おにぎりを間違って砂糖で握っちゃったときは怒られました」
「……ワザとはノーカン」
むしろ、それは、怒っていい。
「じゃあ……ない!」
「だろう? 夫婦が不可抗力で失敗したときに、怒るなんていけないことだと思わないか? 仕方のない失敗を責めることはいけないことだとは思わないか?」
「思う」
ふぅ……やっと、わかってくれたか。やっぱり、キチンと説明すれば人間って分かり合えるものなんだ。
「じゃあ、どっちが悪いと思う?」
「お義父さん」
「……」
確信した。
こいつとは、永遠に、分かり合うことはない、と。
「修ちゃん、違うんだって。あなたは鈍感だから分かってないかもだけど」
里佳は、俺を憐れむかのような目で見る。
「なにがだよ!? ここで親父が悪い要素なんてあったか? いや、ないよ」
少なくとも、離婚だなんだと大騒ぎされるほどのことではないはずだ。
「だから、原因が違うってこと」
「……ん?」
よく言ってることがわからない。
「ふぅ……やっぱり鈍いなぁ、修ちゃんは。お気に入りのコップ割ったくらいでそんなに怒るわけないじゃない」
!?
「だ、だって二人ともそれが原因だって言ってるんだろう? ババアも認めたんだろう?」
「口ではそう言ってるけど、違うよ。多分、今日は大事なことがあって、それに気づいてもらえなかったとかじゃない?」
「そ……そんなバナナ」
基い、そんな馬鹿な。
♪♪♪
その時、固定電話に電話がなった。
「もしもし」
「修か?」
親父の声だった。
「う、うん」
「母さん、いるか?」
「あ、ああ。おーい、オフクロ! 親父だぞ!」
「いないって言いなさーい!」
「……だって」
「ふぅ……母さんに伝えてくれないか。『ごめん、思い出した』って」
「あっ、ああ」
電話を切ってオフクロに伝えると、しばらく黙っていたが、やがて帰り支度を始めた。
「帰るのか?」
「まぁ……言い訳ぐらい、聞いてやるわよ」
なんとなく不貞腐れた、その様子は、少しだけだが嬉しそうにみえた。
オフクロが帰った後、里佳が俺の手を握る。
「いいわねぇ、今もラブラブで」
「……喧嘩してたじゃねぇか」
「言うでしょ? 喧嘩するほどって」
「……」
女って、やっぱり、理解不能だ。
「修ちゃん」
「ん?」
「好き❤️」
・・・
俺は、一生、こいつを分かれそうにない。
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