えっ!?

【夫のターン】


 ふぅ……疲れた。仕事が終わらないのに、帰ってきてしまった。まあ、こんな日もあるか……


「ただいまー」


「おかえりー」


 出迎えてくれない声だけの出迎え。ふざけた妻だ。


 リビングに入ると、里佳が可愛らしい運動着を着て柔軟をしていた。


「……何してんの?」


「フフフ……よくぞ聞いてくれました」


「……」


聞いたんじゃなくて、『てめえは夫を出迎えずに何してんだよ!?』と言ったのだが、この妻には皮肉が通じないようだ。


「最近、ちょっと太ってきちゃって」


「……何キロ?」


「1キロ」


「それ……太ったって言うのか?」


 むしろバクバク食ってんだから、もう少し太ってもいいと思うが。


「まあ、修ちゃんみたいにバクバク食べて全然ダイエットしない怠け者じゃないからさ、私は」


「……よーし喧嘩売ってんだなよし買った!」


 とりあえずラリアットをお見舞いすることにした。


「ってててて……で、運動しようって思ったの」


「ランニングとか?」


「室内だよ!」


「じゃあ、ヨガとかか」


「まあ、似てるね」


「ふーん……まあ、やればいいんじゃない。そんなことより飯――「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」


           ・・・


 ぐはぁ!(なんとなく)


「お、お前……なにやってんだ?」


「カバディだよ!」


「な、なんでカバデイ!?」


「えっ、だってヨガみたいじゃん」


「ヨガやれよ!」


「いや、ちょっと変わったものの方が楽しいかなって」


「せめてピラティスとか! ホットヨガとか! もっと、いろいろあるだろう!?」


 なんでよりにもよってカバディなんだ!


「えっ、修ちゃん。運動を差別するの?」


「い、いや……そんな訳じゃないけど……」


「謝って」


「……えっ?」


「全国のカバディやってる人に謝って下さい。私は、運動を差別するような器の小さな人と結婚した覚えはありません」


 め……めちゃくちゃ怒ってる――――!?


 相変わらず怒りポイントがわからない妻だ。


「ご……ごめんなさい」


 とりあえず深々と謝った。


「もっと心を込めて」


「た、大変申し訳ありませんでした」


「……よろしい」


 なにかに満足したのか妻はカバディを始める。


「カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ……カバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディカバディ」


「……」






 妻がカバディを始めた。


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